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ことばのおはなし

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言葉にまつわるあれこれなこと。
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#言葉

わたしの恋人は聞き上手

わたしの恋人は聞き上手

数多ある恋人の長所のひとつに、聞き上手なところがある。

起承転結はおろか、オチすらないようなくだらない話から、まっさきに報告したくなるようなうれしい出来事、人間関係の愚痴、将来の不安、仕事の相談までなんでもござれ。
どんな温度感のどんな話であろうとも、時に愛すべきいい加減さで、また時には泣きたくなるくらいの真剣さで向き合ってくれる。そんな彼のことが、恋人である以前に、人間としてとても好きだ。

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リアルはSNSをはるかに凌駕する

リアルはSNSをはるかに凌駕する

生まれてはじめて、ライブバーというところに足を踏み入れた。
ちいさなバーカウンターの横にはこじんまりとしたステージ、その正面にはコの字型にベンチが並んだ木のテーブルが置いてある。
緊張のあまり、いっそ消えてしまいたいような気持ちで髪の毛や洋服をいじりながら、そわそわと視線を泳がせた。はじめての場所は苦手だ。

知っている人や知らない人たちが、アコースティックギターを携えて次々と唄う。
すごかっ

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言葉はだれかに届けるために

言葉はだれかに届けるために

とってもとっても嬉しいできごとがあったので、ここに書き記す。
先日、この記事で紹介した漫画『ダルちゃん』の作者、はるな檸檬先生のサイン色紙をいただけることになりました。

3日前のバイト終わりのこと。
なにげなく開いた新着メールを読んだわたしは、驚きとよろこびのあまり、数分間その場を動くことができなかった。

それは、『ダルちゃん』の担当編集の方からのメールだった。
なんでも先月、ツイッター上

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前進、なのかもしれない。

前進、なのかもしれない。

去年の春頃に買ったスカートを、とても久しぶりに履いた。
真っ赤な色にひとめぼれして、しゃらしゃらした生地感も気に入っていて、去年ほんとにたくさん履いていたものだ。

それなのに、鏡に映る姿を見て、わたしは呆然としてしまった。

似合わないのである。
なんか、へん。なにを合わせてもしっくりこないのだ。
道ゆく人がぎょっとするようなものではないけれど、自分の中での圧倒的違和感がどうしても拭えない。

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わたしがエッセイを書く理由

わたしがエッセイを書く理由

「なんでエッセイなの?」
「そもそも、エッセイってなに?」

エッセイを書いていることを話すと、このような反応をされることが非常に多い。

「エッセイスト」ってそれ単体で成り立つ職業ではまずあり得ないと、わたしは思っている。

俳優や歌手などの有名人や文筆家、起業や闘病などインパクトのある経験をした人、はたまたぶっ飛んだ私生活を送っている、あるいは並外れた文才を持ち合わせた人。エッセイストとして名

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言葉で心を動かしたい。

言葉で心を動かしたい。

いつからだろうか。
本を手に取るたび、まずは作者略歴をたしかめるようになっていた。

中でもわたしの目が吸い寄せられるのはその人が生まれた年、そしてデビューした年である。

ああこの人は自分と三つしか変わらない、この人は今の自分の年でデビューしている。ほとんど無意識のうちに計算してそんなことをはじきだし、なんともいえないむずむずした思いに駆られてしまうのだ。

「筆一本で食べていく」というのはどれ

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