愛するトイレとオレンジタルトの話
ヒトには誰しも、あ〜ここは落ち着く、という空間があると思う。
あるヒトは近所の居心地のいいカフェかもしれないし、またあるヒトは車のなかかもしれない。ちなみにうちの俺(一応イヌ)は、私の足元。で、何が彼をそうさせるのかは不明だが、たまに思い立ったように私の足裏を一心不乱に舐める。
さて、ヒト科の私の場合、それが「トイレ」なのである。
暑くて狂って告白しているわけではないけど、私はトイレが好きだ。
ちゃんと定義するならば、「清潔で居心地のいいトイレ」空間。
外出先では唯一外界と遮断され、誰からも見られることなくプライベートな空間を確保できる、トイレ。日本のスーパー綺麗なデパートのトイレなんて、カフェとか行かなくていいからもうずっといたいくらい(迷惑)。
まあパリではもれなく、トイレは癒しというよりも生きるためになくてはならないものとして、時には血眼でその存在を求め街を彷徨ったりもしているわけだけど。
トイレの効用
私が思う、落ち着く以外のトイレの効用は、視覚情報が頭にインプットされやすいということだ。ぼーっとするから脳がクリアになるのかな?
ちょっと昔話をすると、私の言語中枢は、トイレによって育まれた。
いきなり何意味不明なこといってんだ?と思われるかもしれないが、これは字のとおり。
トイレに母が貼っていたひらがな&漢字表のおかげで、幼女ユイじょりは気づいたら勝手に字が読めるようになっていた。トイレでぼーっとしている間にきっと脳は育まれたに違いない。
その証拠に、新聞を広げてしかめっつらで読んでいる3歳の頃の写真が残っているが、当時新聞のテレビ欄(NHK教育テレビの午前中の帯)が読めたのはそう、トイレのおかげなのである。
これに味を占めた少女ユイじょりは、試験などで覚えなくてはいけないものについてはもれなくトイレに貼るようになっていった。
年代も英単語も百人一首も、暗記ものはトイレ、これ鉄則。
1年がっつり浪人しているため、おそらく通常より多く試験的なものを経験しているが、幾多の暗記モノ試験を乗り越えてこられたのはトイレのおかげ、といっても過言ではない。
我が家のトイレで
パリの今住んでいるアパルトマン。
もれなくトイレも狭いわけだが、本を置くスペースくらいはある。まあもう今は覚えるべきものもないけれど、フランス語の単語帳とか料理本を積み重ねている。
先週のとある日、トイレに入るとフランス版「超簡単!タルト&キッシュのレシピ」が、こんな状態で開かれていた。
え?誰やったのこれ??
俺はトイレに不法侵入はしないので、のこる犯人はひとりしかいないわけで。
そしてよくよく見ると、わざわざ付箋まで貼り替えているではないの!!
これはあれだ。探偵ユイじょりの推測によれば、Otto氏による
「これ作ってオクレ」の意思表示なのだろう。
トイレという共有空間内での、無言の会話だ。
トイレの花子さんですかアナタ?
氏の帰宅後、早速尋ねてみると、
「はっはっはっ!気づいた?そのとおーーーり!」だそうだ。
まったくもって、お茶目度が加速している乙女な中年である。
リクエストにこたえよう
リクエストには、9割8分こたえる信条。
このレシピ、「超簡単」と書いてあるだけあって、作り方もごくごくシンプルにしか書いてない。
読み解くに、これはあれだな、我が家の定番タルト・オ・シトロンのオレンジバージョンのような感じだ。
フランス語だとTarte à l'orange(タルト・ア・ロランジュ)というのかな。
いつもの要領でサブレ生地を作り、焼く。
今回は酔狂ルバーブタルトの時に使った生地の配合にて。
残りの生地は星形に抜いて一緒に焼いておこう。
オレンジのフィリング作り。
今回は土台が予想以上に厚くなってしまったので、そのままの量で作ると多分溢れると踏み、適当に調整することにした。
まずは砂糖70gとコーンスターチ20g、全卵3つ(2つだったかも)と卵黄1つ分をボウルで合わせておく。
ビオのオレンジ2個、絞って果汁を180mlほど用意。皮も1個分すりおろし、合わせて鍋に入れて火にかけ沸騰したら、火から外し、先に合わせておいた卵液と合わせて混ぜる。
一回ザルなどで濾して、その後またコンロに戻し、とろみがつくまで火にかける。
とろみがついたら、角切りにしたバターを150gほど投入して、予熱でバターが溶けるまで混ぜる。バターはケチらず入れよう。
タルト生地に注いだらギリ溢れ出るくらいのところでジャスト!
本日も冴えている我が空間把握能力に、拍手!!
こちらを冷蔵庫で冷やしたら、完成。
たしかにタルト生地が市販だったらとても簡単だな。
盛り付けの新兵器
さて本日、ここで登場しますは、かわいらしいお菓子屋さんで出てきそうな蓋付きのかわいらしいケーキスタンド。もちろん所属は、我が家の物持ち大王Otto氏。戸棚の上でずっと眠っていて気になっていたので、拝借することにしよう。
何もかもがセンスのかたまりancoさんも、こういうやつ確か持っていらっしゃったかな?蓋がつくとにわかにテンションが高まるものね。
蓋を、あけよう。じゃじゃーん!
レシピ本の真似っこをして、お星サブレを配置してオレンジの皮を散らし、粉砂糖も軽くふってみた。
側面もまあまあの美しさ。
なんだろう、ケーキも高台にのると上品さがでるのかな?
ひとしきり目で愛でたら、まな板にのせて入刀。
やっぱりサブレ生地が厚めだけど、中身はしっかり固まってくれている。でもちょっと硬すぎたかも。もう少しコーンスターチの量を減らしてもいいな。
朝ごはんにいただきます。うん、爽やかで美味しい!
Otto氏は朝ごはんに加え、夕飯のデザートにも。
美味しいと言って食べていたけれど、氏は私の作る酸っぱいタルト・オ・シトロンが好きなようなので、オレンジは若干パンチが弱い気がすると。
私も珍しく同意見だし、何か足せばまた面白い感じになりそうな気がする。要研究事項。
こんなわけで、トイレでの無言の会話から生まれたオレンジタルト。
次はどんな無声会話が繰り広げられるのだろうか。
トイレに入るのがさらに楽しくなるなあ!
ベスポジでくつろぐ俺。
よくみると私の足を狙っている気がしないでもない。
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