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プロローグ1 :わたしのダブルに会っちゃった

   今日のつか子、へんだよ。おかしいよ

ええっ? ごめん

  さっきから、 どっかよそむいてる感じ

そうかっ。ワルかった

  どうしたの?

う〜ん、信じてもらえるかな。自分のダブルに会っちゃったんだ

  つか子のダブル?へえっ。どこで? いつ?

ウン、2、3日前、見覚えのない日記が出てきて、ちょっと読んだら、ものすごくこっちの胸に入ってくるの、その書いた本人、昔、昔の大昔のワタシなんだけどサ

   ヤダ。なんだ、そんなの、気持ちワルい、ほっとけば?

でも、最初の行読んだとたんに、その はなしてくれない

   なんて書いてあるの?

『アパートに一人でうつったのが、8月28日、3週間たった』

   ふーん。日付は?

『1975年9月20日』

   ええっ?!昭和50年ころ?そんな昔のこと、ほっとけばいいじゃん

それができないの。このひっこし、人生の大だい事件。これ読んだとたん、白黒の映画がいきなりカラーになって目の奥まで痛くなっちゃった。書いたの方はつかみどころないんだけど、うちはすごくはっきり覚えてる。今、そこにとんで帰ったら、ドア開けてくつ脱いですぐくつろげる感じ

   いいじゃん

だけど、こわいのは、もしそこに「その」がいたら、どうしよう。そしてくつぬいで、上ろうとしたら「あんた、だれ?」とか言われたら。。。わたしが人生の終わりに近い自分だって知ったらものすごく怒ると思う

   なんで?

「そんな大人になるつもりなかったって」「そんなこと、ゼッタイ、信じない!」って。。。
                つづく

   
 
        長野ゆうほ著「地球自転の音のない音」のプロローグ[1]

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