マガジンのカバー画像

市川

11
市川のショートストーリー
運営しているクリエイター

#連載中

高校時代

高校時代

とにかく不器用だった。
小、中と9年間やっていた野球は1度もレギュラーになれなかった。

高校進学後、これなら自分にも出来そう、と卓球部に入部した。

必死に練習を重ねた。
何度も何度も小さい玉を打ち続けた。
何度も何度も小さい玉を打ちすぎて壁に穴が空いた。
そこにハムスターが住みだした。

練習試合では48連勝という偉業を成し遂げた。
誰もが優勝を確信していた。担任の先生や顧問、近所の八百屋の肉

もっとみる
お年玉

お年玉

土曜日、市川は質屋にいた。
前日、アルバイトとして働く動物園で、初めてうさぎのエサやりイベントという大役を任された。

うさぎの扱いは難しかった。柵の中から捕まえるのは一苦労だ。捕まえたかと思えば、赤い瞳でじっと見つめられるとどうすればいいのか分からなかった。
その更に数時間前の、とあるバイト先で得た戦利品をお金に替える。

ポケットにパンパンに入れた戦利品を質屋の川崎という男に渡す。
ずっとサン

もっとみる
自販機

自販機

ピッ ガチャン。

動物園の係員として働く市川は、休憩時間に自販機で缶コーヒーを買う。
制服の上着さえ脱げば、お客さんに混じり、動物を見ながらベンチでくつろぐ事が出来る。今日は馬の気分だった。

コーヒーをひと口飲んだあと、明日が休みである事を思い出し、時計を見て少し気合いを入れ直した。

この後14時から、この動物園の人気イベントであるうさぎのエサやりの説明と、うさぎをお客さんの膝に乗せる とい

もっとみる
色鉛筆

色鉛筆

16時25分、引越しのアルバイトを終えた市川は、やじるしと逆の方向へ走りだす。
帰り道はこの一方通行をひたすら歩くと辿り着く。やじるしの反対 を走るのは今日に限った事ではない。毎月第2木曜日の17時からは、絵画教室へ通う事にしている。
絵画といっても様々ではあらるが、今習っているのは鉛筆画だ。黒い鉛筆で花瓶や果物を描く。
人物はまだ描かせて貰えない。

誰にも言っていないが、家に帰ってから、色鉛筆

もっとみる
女王蟻

女王蟻

滴り落ちる汗が入った目を擦りながら、ぼんやり見つめる視線の先に、一匹の蟻が大汗をかいて獲物を運ぶ。

市川が4月から働き出した引越し屋のアルバイトは、体育会系では到底片付ける事の出来ない、肉体労働である。
今回のお客様は30歳くらいの女性で、腕を組んでタバコを吹かしながら、働きっぷりを監視している。まるで女王蟻のようだ。

なんだこの野郎。偉そうにしやがって。

仁王立ちしている女王蟻を後目に、死

もっとみる
冬のプール

冬のプール

2009年の夏。8月のプールの授業でコンタクトレンズを落とした。
泳ぎの得意な方ではない市川は、苦手な平泳ぎで必死にコンタクトレンズを探す。
お前なんで潜水してんの? とか、あいつ溺れてやがる~ なんて友達に笑われても、必死になって探した。
片目ぼんやり生活も1週間が過ぎ、翌週のプールの授業も、同じ様に平泳ぎでコンタクトを探す。
翌週も、翌々週も。。

季節は変わり、うっすら校庭に雪が降り積もる冬

もっとみる
キャンディを一粒

キャンディを一粒

2021年、 3月も終わりを迎えた。

4月から都内で新生活を始めている市川は、埼玉から越して来たばかりだ。現在はふたつのアルバイトを掛け持ちしている。
富山県にある実家のキャンディ工場を継ぐかどうかで、両親と喧嘩してから11年が経過した。それ以来、絶縁に近い状態が続いている。

風の噂によると、キャンディだけでは経営が上手くいくはずもなく、流行りのマシュマロに手を出し始めたとかっていう話を聞いた

もっとみる