色鉛筆
16時25分、引越しのアルバイトを終えた市川は、やじるしと逆の方向へ走りだす。
帰り道はこの一方通行をひたすら歩くと辿り着く。やじるしの反対 を走るのは今日に限った事ではない。毎月第2木曜日の17時からは、絵画教室へ通う事にしている。
絵画といっても様々ではあらるが、今習っているのは鉛筆画だ。黒い鉛筆で花瓶や果物を描く。
人物はまだ描かせて貰えない。
誰にも言っていないが、家に帰ってから、色鉛筆で絵に色を塗るのが密かな楽しみだ。
その日のテーマは炊きたてのご飯。
ほかほかのほか、だった。ほか?
市川は持参してきた炊飯器からおもむろにご飯を取り出し、お茶碗に移す。
中から出てきたのは色鮮やかなタケノコの炊き込みご飯だった。
筍に絶句した。季節の旬を頂くタイプだった。
先生からは注意を受けたが、持参してきた生徒ははじめてだと少し褒められた。
生徒の中で唯一僕だけ、少し冷めたタケノコご飯を描いた。
そうだ、家に帰ってたらまた色を塗ろう。
塗る場所増えたから、タケノコご飯で良かった気がした。
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