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ポストコロナにおける「郊外・地方飲食店」のマーケティング戦略について考察する【前編】|【現代マーケティングを考える】

序論:ポストコロナ時代の飲食業界の変化

一般社団法人日本フードサービス協会が報告する「外食産業市場動向調査 令和 5 年(2023 年)年間結果報告によると、新型コロナ感染症の感染症法上の位置づけを「5 類」に移行したことで、規制緩和が解除へと進み、行動における制限がなくなったため人の流れが戻り『外食需要の回復基調が継続した』とあります。

ただし、売上はコロナ以前と比較すると戻りきっておらず、例えば個人経営も多い喫茶店は19年度比較で96.2%、居酒屋/バーは66.5%と厳しい状況が続いています。

インバウンドのニーズ拡大や規制解除による行動パターンの変化は2024年以降大きく飲食業界に影響を与えると予測できますが、同時に以下の社会情勢の影響を受けるため、飲食店はコロナ以前のスタイルを変える必要があると予想されます。


  • 国際情勢の悪化による貿易規制が発生し、原材料が高騰

  • 資源・燃料の価格高騰による物流にかかるコストの高騰

  • 化石燃料エネルギーの価格高騰による光熱費の高騰

  • 依然として続く新型コロナウイルスの感染症対策

  • 低賃金・重労働・労働人口減少による人材不足


飲食店ドットコムが実施した「原材料の価格高騰」に関するアンケート調査によると原材料費の高騰は営業に影響している90.1%が回答しており、加えて物流コストの高騰、電気・ガスといった光熱費の高騰は食材を扱う飲食店にとって大きなダメージとなっています。 ※1

【※1 補足】
物流業界は現在「時間外労働の制限によって物流にかかるコストの見直し」「人口減少による人手不足」「燃料費の高騰」といった課題を抱えており、飲食店にとって生命線である物流コストは増加傾向にあります。

物流コストが増加することで「仕入れ先である卸業や小売業の値上げ」が発生し、結果として飲食店側は価格高騰の影響を大きく受け値上げ等の対策が必要になります。

※1 物流コストの増加による飲食店が受ける影響

メニュー全体の値上げに踏み切る飲食店は増加傾向にあり、おうち時間のニーズが高くなっている昨今において、より人流を遠ざける向かい風となってしまっている現状は、2024年以降も飲食業界が抱える問題として猛威を振るうことになるでしょう。

物価が高騰しても、消費者側の生活水準は変わっておらず、消費者庁は「バランスの取れた賃上げ&値上げへ」をスローガンに物価の高騰に合わせて賃金も高くなるように企業活動の活性化を呼びかけていますが、未だ追いついていません。

こうした背景の中、郊外や地方の飲食店は更に「都心部よりも人の流れが少ない」「コロナ禍で受けた経済的ダメージの深刻化」「健康志向やテイクアウト需要への対応」といった課題もあり、全国的に閉店する店舗も規模問わず増加傾向にあります。

2023 年に発生した「飲食店」の倒産は 768 件発生し、過去 10 年で最も少なかった前年(452 件) から 1.7 倍に急増した。また、新型コロナの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発出で休業や時短営 業など経営環境が大幅に悪化し、事業の継続を断念した飲食店が多く発生した 2020 年の 780 件に 次ぐ過去 2 番目の高水準を記録した。

参照元:帝国データバンク:「飲食店」倒産動向調査(2023 年)

ポストコロナ時代において郊外や地方の飲食店は「美味しい料理を提供する」「おしゃれで居心地の良い空間を演出する」だけではなく、しっかりと地域に根づいたマーケティング活動をリアルとデジタル両方の軸で取り組む必要性が出てきました。

しかし、ポストコロナ時代に適応したマーケティング戦略も人材も不十分な中、どのように取り組むべきなのか分からずに半ばその場しのぎで対策をしているケースは珍しくありません。

本記事ではデジタルマーケティングのコンサルタントとして活動しつつ、地方で飲食店を経営する筆者が、自身の体験も踏まえてポストコロナ時代におけるマーケティング戦略について考察していきたいと思う。

この考察が読者にとって何かヒントになれば幸いです。

郊外・地方での飲食店の現状と課題

都心部(地方都市含む)とその周辺地域である郊外(ベッドタウン)、そして地方の市町村では飲食店の抱える課題はそれぞれ異なりますが、ここでは主に「郊外・地方にある飲食店が抱える課題」として規模の大小は異なりつつも共通の課題として上げられるものを取り上げます。

① 街中を出歩く人の少なさによる集客面での課題

飲食店を経営する中で多くの経営者にとって課題であり、最も時間をかけて取り組んでいる活動として「集客」があげられます。

集客は都心部や駅近等の好立地であっても課題であり、それは郊外や地方、田舎であっても変わりません。

筆者は都心から電車で1時間ほどの距離にある郊外(田舎町)にてカフェを経営しているが、集客に関する課題は都心や人の流れが多い郊外の中でも中心部とは異なり、『そもそもターゲットが少ない』という点が大きな壁として立ち塞がります。

そのため、郊外エリアで飲食店を開業する場合は都心部と同じく『競合との競争』『顧客一人当たりにおける平均単価の向上』のような課題に対応しつつ、いかにしてターゲットとなる見込み客を店まで集客するかを第一優先として対策しなければなりません。

また、郊外では都心部と異なり『交通アクセスが十分ではない』という点も考慮しなければなりません。

駅周辺は車での送迎に溢れ、バスは移動の中心として機能しており、町内を歩く人はほんのひと握りというの事実は必ず頭に入れておく必要があります。

例えば、駅から徒歩5分圏内は都心部から見ればそれだけで「好立地」ですが、駅前にあるロータリーから店舗が視界に入らない時点で選択肢に入らない可能性がある※2 点は都内とは大きく異なります。

【※2 補足】
地域差はあるため全てに当てはまる訳ではありませんが、多くの場合「駅から降りた人は町を散策することは無く、帰宅するために「駐車場へ向かう」「バスを待つ」「迎えの車を待つ」といった帰宅のための行動を取る傾向にあります。

※2 ロータリーから視界に入らない時点で選択肢に入らない理由

また、買い物や食事、娯楽のために行う移動はほぼ車という消費者は珍しくありません。そうした消費者に対してアルコールを販売することは難しく、必然的にソフトドリンクへのニーズが高まります。また、駐車場の有無は必要不可欠な要素となる点も都心部とは大きく異なります。

こうした交通に関する特性は必ず押さえておく必要があり、押さえたとしても店舗まで足を運ぶハードルが非常に高い点は大きな壁として立ち塞がるでしょう。

② 地域コミュニティとの関わりが不可欠な環境

飲食店のみならずあらゆる業種において、郊外でビジネスを展開する際は避けては通れない課題として『地域コミュニティへの参加』が上げられます。

目先の損得では測り切れないほどに地域コミュニティへの参加は必須であり、おそらく巷にある「地方での戦い方」のようなノウハウでも必ず紹介されているレベルで最重要項目です。※3

【※3 補足】
正直な話、この課題に対して優先度が低い認識がある方は、将来的に失敗する可能性が高いのではないかと筆者は思っています。それほどまでに地域コミュニティは郊外における飲食店にとって欠かせないポイントなのです。

必要な理由は後編で詳しく述べますが主に「コミュニティ内での情報発信はSNSよりも早くかつ確実に商圏内のターゲットに伝わる」「イベントへの出店の誘いが来やすくなる」「ソウルフードのように地域を代表する店になる可能性が高くなる」といった点があげられます。

※3 筆者の経験則からくる必要性

しかし、この地域コミュニティは重要なのは承知でも『参加の仕方が分からない』『入り口が狭く、中々内部に入り込めない』のような課題が立ち塞がり、多くの経営者を悩ませます。

また、地域コミュニティの外にいる「地域に住んでいるが積極的に町の取り組みに参加していない層」との関係性構築も欠かせません。しかし、これもまたとっかかりを作るのが非常に困難であり、中々成果につながらないことも珍しくありません。

地域との関わりが不可欠にもかかわらず、コミュニティの入り口が不明瞭。この問題は根深く、そして高い壁として存在しています。

③ 消費者行動の変化と内食需要の増加

新型コロナウイルスの世界的流行によって「自宅での過ごし方」がトレンドとなり、3年近い月日が経過してしまったことは飲食店のみならず多くの業界に深刻なダメージを与えてしまいましたが、都心部では少しずつ人の流れが戻ってきているというニュースを連日見かけることも2024年時点では珍しく無くなってきました。

しかし、消費者行動の変化は3年もあれば元に戻れないほど定着してしまいます。その変化は飲食業界において深刻な問題として上げられており、特に郊外では多くの飲食店が閉店を意識するほどにダメージを与えています。

筆者が拠点としているエリアでは、コロナ以前と比較して明らかに町を出歩く人の量は激減しており、特に夜はコロナ期間中と大きく変わらないほど寂しい印象です。

筆者の周りでもコロナ以前は連日満席で予約必須だった人気店でも50%近く売り上げが減少した店舗もあり、それを店側の「努力不足」と言った言葉で片付けるにはあまりにもお粗末ではないかと思うほどに、消費者行動は急激に変化しています。今後はその対応に追いつけないまま体力切れを起こしてしまう店舗は今後増加していくと筆者は予想しています。

これはこれから飲食店を開業したいと考えている方にとっても、消費者行動の変化は対応するべき課題として最優先で取り組むべき壁の一つとなっています。

④ 飲食店の数に対する消費者の少なさからくる競争の激化

消費者は減少傾向になる中で、飲食店の数は大きく変化していません。むしろアフターコロナ以降既存店舗は減ってはいるものの、新規店舗は増加もしているという状態にあり、飲食店は互いに少ない魚を取り合う激化する競争市場に参加をしなければなりません

競争の激化は発展には欠かせませんが、後述するように物価の高騰によって値上げする必要があるという背景もあり、低価格を求める顧客とのニーズが合わず、より一層市場から消費者が消えていくという悪循環に陥っています。

単価を落とさずに消費者を呼び込むというマーケティング活動はコロナ以前でも重要視されていましたがアフターコロナではより一層重要な活動となっている点は、これから開業を考えている方は認識しておきましょう。

また、マーケティング活動はテクノロジーの発展により以前よりもクリエイティブで個性が目立つものが増えました。そしてそれらは簡単に真似が可能で、クリエティブなプロモーションの飽和状態になっている点も注意が必要です。

マーケティングリテラシーの向上もあり、目の肥えた消費者は一筋縄では集客できなくなっているため、デジタルのみならず、店そのものの地域との関わり方がマーケティング活動では重要となっています。

筆者は元々デジタルマーケティングのサポート会社出身ですが、デジタルマーケティングにおける施策は即効性はありません。もちろん重要ではありますが、正直なところ郊外・地方では優先度は低い印象です。

SNSでバズったところでメインの商圏となる店舗が存在するエリアでは無風であり、実際に集客に繋がるには多少の時間がかかります。

そのため『対人に直接アプローチするマーケティング施策・コミュニケーション』が求められます。

正直なところ「自分は内気なので地域コミュニティに参加したくない」「技術を評価して欲しいので、ヘコヘコして客を呼びたくない」と言った考えは即刻改めるべきだと筆者は考えてます。

もちろんその意思は尊重しますが、そういったプライドは綺麗事でしかなく、飲食店として開業する以上、泥に塗れる覚悟は不可欠です。

リアルマーケティングの施策は時代遅れという風潮がありますが、アフターコロナにおいて『現実世界でのコミュニケーション』は最強のマーケティング戦略であり戦術です。そして、そういった関係性を構築して初めてデジタル世界でのマーケティングが光り始めるのです。

⑤ 物価の高騰による値上げに対して賃金が変化していないことへのギャップ

物価の高騰はコロナ以前から問題視されていましたが、ウクライナ情勢や2023年に勃発したパレスチナ・イスラエル戦争、日本とアメリカの金融政策の違いによる円安の影響、エネルギー資源の需要増加による価格高騰とその影響による物流コスト・製造コストの増加など様々な外部要因が重なり、2024年現在物価の高騰は日常生活を脅かすほどの脅威として私たちを悩まさせています。

そうした物価高騰は飲食業界にも大打撃を与えており、値上げを余儀なくされる店舗も少なくありません。

しかし、物価の高騰に対して消費者の賃金は変動しておらず、生活が圧迫されていく中で、飲食店の価格高騰は「消費者行動を変化させる要因」として大きく働いてしまいました

ボストンコンサルティンググループが発表した「BCG消費者心理調査 ――物価上昇の影響を読み解く」によると、消費者の8割が、物価上昇に比べて給与水準が上がっていないと感じていると答えており、消費者行動が変化したと回答しています。

また、飲食業界に関しては2022年と比較して消費者行動を変えたと回答した人の割合が85%も増加しています。

こうした背景の中、飲食業界は消費者行動の変化を考慮しながら、利益を増加させる取り組みを行わなければなりません。

前編まとめ:郊外及び地方における飲食店に吹く追い風はあるのか?

飲食業界全体において中々に追い風が強い中、それでも飲食業界そのものに対するニーズは依然としてある状態です。しかし、そのニーズはコロナ前とは大きく異なっており、物価の高騰もある中で消費者が求める価値はより高度で複雑になってきました。

そうした中、果たして今から新規参入する勝算の見込みや、売り上げを拡大する見込みはあるのでしょうか?

筆者の感覚も含まれてしまう回答となりますが、答えはYESです。

勝算のうち最も大きいのは「消費者の働き方の変化」です。

今までは都心部に経済が集中していたため、人流の一極化が起こっていました。しかし、新型コロナの影響によりリモートワークへとシフトする企業も増え、さらに従来の働き方からライフワークバランスを重視する働き方への価値観が変化する動きも起こり、都心部にいなくとも労働が可能になりました。

その結果、地方への移住も増加傾向にあり、筆者が店舗を構える埼玉県比企郡小川町でも「移住者の増加」は目に見えて分かるほどです。

また、町おこし協力隊への参加を希望する若手人材や、農業や林業といった一次産業への参入を希望する人材の増加もあり、地方における人流が大きく変わりつつあります。

人の流れが増えれば自ずと飲食店へのニーズも高まります。その流れを読み取ることができれば、コロナ前よりも大きな成功を掴むことも不可能ではありません。

後半はニーズが増加傾向にある郊外・地方でのマーケティング戦略について考察します。

【パーソナル】
名前:Sakai Yuto
職業:デジタルマーケティングコンサルタント
   Webライター、Webマーケティングスクール講師
   事業家(アパレルブランド経営、カフェ・ギャラリー経営)
   合同会社Toiki 代表社員
趣味:アート鑑賞、一人旅、音楽
   ラジオ、伝統・民俗芸能について調べること

【連絡先】
メール:yy.edih.xx@gmail.com
Instagram:https://www.instagram.com/uyhot_7/
Linekdin:https://www.linkedin.com/in/s-uto0000/

Web制作会社のマーケティング支援部門でWebマーケティングコンサルタントとしてSEO、広告、コンテンツ制作、LPO、EFOなどの手法を元にお客様のWeb戦略のサポートを担当。提案・分析・企画・施策の実施・効果測定まで全て一気通貫で対応できることが強み。その後、Web接客ツール
のベンダー企業にカスタマーサクセスを提供するコンサルタントを経て、現在フリーランスとして独立。

その後、フリーランスのデジタルマーケターとして活動しながら、アパレルブランドの立ち上げ及び運営、リアルイベントの企画及び運営、シェアキッチンの経営、飲食ブランドの立ち上げ及び経営、地域創生プロジェクトへの参画など、活動範囲を広げ、その経験をもとにデジタル領域外のマーケティング活動の支援も対応開始。

何かございましたらお気軽にお声掛けください。

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