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読書感想文

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#読書記録

読書記録013「山ん中の獅見朋成雄」(舞城王太郎)

読書記録013「山ん中の獅見朋成雄」(舞城王太郎)

舞城王太郎の作品を読むのは、「スクールアタックシンドローム』以来、約一年ぶりだった。定期的に摂りたくなる癖の強い料理のような、そんな魅力を舞城作品は持っている。
獅見朋成雄(しみともなるお)という高校生が主人公なのだが、彼は背中に先祖由来の獣のタテガミを生やしていて、それをコンプレックスにしている。
舞城の魅力の最たるものはその文体にある。(本作では、それはもちろん音の描出として表現される。)舞台

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読書記録009「エーゲ海に捧ぐ」池田満寿夫

読書記録009「エーゲ海に捧ぐ」池田満寿夫

 ヘンリー・ミラー関連のブログで知って、興味をもち購入した。

 はっきり言って表題作がいちばん読みにくい。表題作で挫折するひとでも、ほかの二編は面白く読めるということがあるかもしれない。

 と、いうのも表題作「エーゲ海に捧ぐ」は、非常に構図のきっちりした図式的な作品であるからだ。主人公とふたりの女がアメリカの部屋にいる。そこで主人公は、日本の妻が掛けてきた電話を受話器越しに聞いている。この部屋

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読書記録005「可愛いかがわしいお前だけが僕のことをわかってくれる(のだろうか)」鹿路けりま

読書記録005「可愛いかがわしいお前だけが僕のことをわかってくれる(のだろうか)」鹿路けりま

――冴えない浪人生の主人公夢野巡のもとに悪魔ドロルフィニスが現れる、

この物語のテーマはなにか。

”魂の救済”。それである。

何事においても絶望し、なんどでも自殺しようとする主人公には、ドロルフィニスの導きで、それまでできなかったことが叶えられる。恋愛、金持ち、才能。ドラマの前半は、ラノベにふさわしいバトルが予想される下地にあてられる。好きな女性との恋愛模様、異能力を扱う敵、絶対的な兄貴。前

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読書記録004「ベケット・放浪の魂」堀田敏幸

読書記録004「ベケット・放浪の魂」堀田敏幸

「放浪」を軸に、ベケットの小説(戯曲は2本だけ)をいくつかの観点から考察している小論集。

先に断っておくが、僕はベケットの戯曲は結構読んでるが、小説の既読は二冊のみ。「モロイ」と「マーフィー」。積読本には「マロウンは死ぬ」「並には勝る女たちの夢」。

ベケットの小説はとにかく長くて苦しいから読み終えると読み終えた達成感でいっぱいになり、内容をほとんどなにも覚えていない、ということがままある。なの

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読書記録003「フィルス」アーヴィン・ウェルシュ

読書記録003「フィルス」アーヴィン・ウェルシュ

やってくれた。

ラストを読み終え、煙草を一服。

そして呟く。

ブラボー!

フィルス(filth)とは、「汚物」。そして俗語で「警察」の謂い。そして本作、アーヴィン・ウェルシュ3作目のタイトルであり、映画化もされている。

<警部昇進を画策する巡査部長ブルース・ロバートソンが、同僚たちを出し抜きながら、黒人が殺害された事件に挑む>

ではこれは、警察小説?犯罪小説?ちゃうね!これはそんな枠じ

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読書記録002「リアルワールド」桐野夏生

読書記録002「リアルワールド」桐野夏生

ミミズと呼ばれる男子高校生による母親殺しを中心に、四人の女子高生が関わって、巻き込まれていく。巻末の解説にある精神分析医である斉藤環が、桐野夏生の作品を『関係文学』と称しているのだが、まったくもってキャラ設定と全体の場面設定にこの作品の妙が息づいている。トシ、ユウザン、きらりん、テラウチという仲良し女子高生。それにミミズという異端者が割り込んでいくことで、彼女たちの日常の顔ではない裏の側面が見えて

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読書記録001「逃亡くそたわけ」絲山秋子

読書記録001「逃亡くそたわけ」絲山秋子

追っ手は来ない。金もなくならない。飢え死にもしない。ロード・ノヴェルを盛り上げる、「お約束」のハプニングは起こらない。物語を駆動させているのは、主人公の「どうしよう」という不安と、「亜麻布二十エレ...」云々という幻聴だけだ。あまりに潔い。この潔さは絲山小説の美学とも言える。逃亡は明らかに「発作」として始まり、「症状」として続いていく。実際には「追っ手」などいない。「敵」など存在しない。亜麻布二十

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