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読書感想文

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読書記録012「ハイドラ」金原ひとみ

読書記録012「ハイドラ」金原ひとみ

 新宿に住むモデルが主人公であり、舞台設定としてはかなり華々しいものである。が、それと対照をなすかのように、モデルをしている主人公早希の内面はあまりにも暗い。早希は、有名なカメラマンである新崎と付き合っているものの、新崎の淡白な態度やほかの女に乗り換えられてしまうのではないだろうかという不安に絶えず脅かされている。恋愛という実感は薄い。またそこには仕事上の不均衡、新崎はほかの女優やモデルも撮るが、

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読書記録011「感情教育」フローベール

読書記録011「感情教育」フローベール

 金持ちで学識もある主人公フレデリック君のアプローチにヒロインたちはしばしば気を許し、イベントも発生するのだが、肝心なところでフレデリック君の優柔不断やその場の感情に流されてしまう性格が裏目に出てしまい、関係は思うさま上手く結実しない。言ってみればこれは、「複数のヒロインに目移りしていてたら正規ルートを逃してしまう青年の物語」なのである。フレデリック君は子供っぽく場当たり的で、誠実さもなく思いやり

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読書記録010「TVピープル」村上春樹

読書記録010「TVピープル」村上春樹

基本的に『TVピープル』収録の6つの短編は、コミュニケーションの失敗や挫折を描いている。
村上春樹の作品の主要なものは、意志の疎通がとれないながらも、物語が進んだり関係性が発展していくものが多い傾向にあるが、ここに収められた短編はどれも他者との交流が断絶したところで話が終わっている。関係が発展しない代わりに表現されているのは、喪失感に彩られた奇妙なリアリティだ。
たとえばそれは普通の人の0.7倍の

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読書記録009「エーゲ海に捧ぐ」池田満寿夫

読書記録009「エーゲ海に捧ぐ」池田満寿夫

 ヘンリー・ミラー関連のブログで知って、興味をもち購入した。

 はっきり言って表題作がいちばん読みにくい。表題作で挫折するひとでも、ほかの二編は面白く読めるということがあるかもしれない。

 と、いうのも表題作「エーゲ海に捧ぐ」は、非常に構図のきっちりした図式的な作品であるからだ。主人公とふたりの女がアメリカの部屋にいる。そこで主人公は、日本の妻が掛けてきた電話を受話器越しに聞いている。この部屋

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読書記録008「光媒の花」道尾秀介

読書記録008「光媒の花」道尾秀介

ちょっと引いてしまうほど話が巧い。

なぜなんだろう?と考える。どうしてこんなに巧いと感じるのだろう?

『光媒の花』は六編の短編から構成されていて、同じ世界観のもとに書かれた連作であり、それぞれの登場人物がほかの短編のなかにも影を落とすようになっている。いわゆるスターシステム的な要素。これによって読んでる方は興奮する。しかしそれはジャブに過ぎない。では、それぞれの独立した短編として読むにしても、

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読書記録007「毒身」星野智幸

読書記録007「毒身」星野智幸

変な本を読んだ、というのが初読の印象だ。

奇妙で、面白い。刺激がある。それは構成の妙と、キャラクターの見せ方にかかわっている。ストーリーを紙に書いて、箱に入れ、それを見ないでよくかき混ぜ、取り出した順に並べていく。そういう方法を提案していたのは、バロウズだったか、ブルトンだったか、ウディ・アレンだったか、あるいはその全員だったか、忘れたが、そういう「時間軸の攪乱」が物語にいいコクを与えている。

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読書記録006「私の奴隷になりなさい」サタミシュウ

読書記録006「私の奴隷になりなさい」サタミシュウ

会社の同じ職場の女性に惹かれるが、冷たくあしらわれる。そんな経験がいままでなかったから、主人公は一層その女性に執着するようになる。突然機会が訪れる。「今日、セックスしましょう」。そして、「ビデオカメラで撮ることが条件」だという。主人公は謎を抱えたまま、その女性と行為に至ることになる……。

官能小説でなくても性行為の描写は結局のところパターン化されているが、その限定された条件のなかでどのように性行

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