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読解力の授業デザイン/高校現場の実例より~国語科教員の視点~【代ゼミと考える読解力#6】

こんにちは、代ゼミ教育総研note、編集チームです。

読解力の連載、6回目。
これまでの連載はこちらからご確認いただけます。

これまで見てきた「読解力の現状」や、「大学入試で求められる読解力」を踏まえ、高校現場で生徒の読解力をどう育んでいくか、授業デザインや授業改善のヒントを実例とともに考えていきたいと思います(全2回)。

今回は元国語科教員であり、小論文のスペシャリストである代ゼミ教育総研主幹研究員の鈴木 勝博先生にお話を伺っていきます(インタビュアーは高校支援チームのSさんです)。



▶これまでの国語教育の反省


―まず、そもそも鈴木先生が考えている「読解力」とはどんな力でしょうか。
 
読んで理解する力で、あまり難しい定義は考えていません。

ただし、「読む」と一口に言っても、単語、文節、文、文章と対象が様々でそれぞれのレベルの読解は微妙に違います。高校教育の場で大学受験を意識するとなると、最終的には文章全体が読めたかが問われてきます。

また、理数系の文章は国語の時間ではあまり扱いませんよね。例えば、理科の教科書は、国語の教科書と記述方法が異なります。理数系の文章と対峙した時、普段読んでいないので、国語教師である私も「何を言っているのだろう」と読めなくなることがあります。「この定義とこの事象は同じか」と問われても考え込んでしまいます。

同様に共通テストで出される実用的な文章も戸惑います。実用的な文章はご存じの通り、従来の国語教育ではあまり扱ってこなかったものです。「実用的な文章は事実の記述がほとんどなので、普通に読めばわかるだろう」という認識がありました。ところが、その事実を並べた文章でも、読みに困ることは多々あります。

★参考記事☟


―なるほど。そのような文章でも読み間違えてしまうことの根底には何があると思いますか。
 
ちょっと脇道にそれるのですが、教職課程の国語科教員養成で日本語文法をしっかり学んだという人はあまり多くないと思います。高校教育も同様で「日本語だからわかるだろう」という暗黙の大前提があったので、日本語という言語を文法的なレベルでしっかり時間をかけて教えてこなかったわけです。

大学生に「高校で文法の授業があったか」と聞くと、「古文と漢文で」と答える人が多いでしょう。現代文でではないのです。

そのために、短文でも読み間違えることが起きてしまっているのです。これは今の国語科の教員養成課程の欠点でもあります。

これまでの現代文の教科書を見るとほとんど文法には触れられずに作品が並んでいます。ですから、教材を教える時に文法ではなく読み取りが中心になったわけです。

しかし実際は、その読み取りのベースとして助詞や接続詞の働きに注目することが必要です。その上で一文一文の意味を考えることが重要なのです。

読解力を科学的に測る「リーディングスキルテスト」を受けたことがあるのですが、短文の質問なのに意外と難しかったと思う人が多いのは、そういう読みをしてこなかったことの現れです。

では、授業内で何をすればよいのか?


▶ゆっくり読むことに立ち戻る

現在の生徒は、言語等を流して読む環境で生きているじゃないですか。例えば、都合の良いところだけ拾い読みする。映像を倍速で見て満足する。それで、わかったつもりになっています。読み物を読む時にも似たような現象が起こっていて、ちゃんと腰を据えてじっくり読むという機会がどんどん減っていますよね。

だからこそ、せめて国語の授業の時には、単語や助詞の働きを意識してしっかり「意味を考えながら」一文一文を読むことに注力して欲しいですよね。

 
―1時限の中で単語や品詞を意識させながら読んでいくのは時間的に厳しいものがありますよね。
 
難しいですよね。教科書を進めなければならないですしね。ICT教育も進められていますし、生徒の周囲で流れている情報量も増えています。ですが、ゆっくり読むことに立ち戻らないといけないと思います。

 
―じっくり読まなければならないことを生徒に意識づける好適な指導例はありますか。
 
私はよく小論文の講演をしているので、その事例になりますが紹介します。

よく出る小論文の題材として「虐待の対策」があります。まずは前提知識のない状態で、「虐待って誰がしているんでしょう」と生徒に聞くと「お母さんの愛人、内縁の相手」って答えるんですよ。

でも実際は、実父・実母が一番多いんです。2番目に養父・継父が来る。その次に内縁の相手ときます(ストーカー・DV・児童虐待等の統計データ/警察庁調べ)。

新聞記事や統計資料を実際に読ませると、「え~そうだったの」ってなるわけです。なんとなくイメージで判断して事実だと思い込むものって世の中にいっぱいありますよね。ですが、調べられたもの、ファクトがベースになっているものを読むとその先入観が全く違っていることがあります。

だから、じっくり読まないと間違ったものがベースになってしまいます。つまり、なんとなくこうだと思い込んだものを事実として固定化してしまいます。

理系の生徒にはこんな話もしています。

真理や定理はデータから導かれていますから、データが正しくなければ、当然導かれる結論も間違ってくる。ファクトをチェックせずに曖昧なことを曖昧なままにしておくのはよくありません。曖昧なままにしないために、データやこれまでの先行研究などをじっくり読む読解力が必要ですよねと。

このように、読解力の必要性を説いています。


▶発問の回答は文章で


―発問することは読解力を育むために有効なのでしょうか。
 
発問はもちろん有効です。発問に対して生徒はよく単語で答えます。ですが、国語の力を上げるためには「文で答える」ことが大切です。

私見ですが、日本語の中で文末が一番大切だと思っていまして、単語で答えると文末を放棄したことになるんです。ですから、大きい声で文末まで言いきるようにと指導していました。本当は、これを全ての教科でやって欲しいです。

生徒自身が「文で答える」ことを意識することで、自ずと文の構造を考える力も鍛えられます。


▶紙の辞書の必要性


―先生は講演会等でよく「語彙検索の際は紙の辞書に限る」とお話されています。紙の辞書を推奨する理由について教えてください。
 
まず、第一として読解を支える基礎として語彙力があげられます。語彙が豊富だと読める文章が増えます。語彙を増やすのは、読むか聞くことからしかありません。そこで初めて出会う単語は地道に調べて身につけていくことが重要なのです。

私は現代文の授業で予習はあまり求めませんでしたが、語の意味調べは徹底してやらせていました。語彙を習得する時に幼児は、丸暗記して飲み込みます。ところが、高校生になると意味で記憶するようになります。したがって、言葉の意味を辞書でしっかり引かないと覚えられないわけです。

その際、紙の辞書を引く方が電子辞書を引くより効率は悪いのですが、記憶の定着が良いと感じます。記憶の定着においてデジタルより紙の方が良いという研究結果が出ています(その理由までは明らかになっていません)ので生徒に紙の辞書を使うように指導していました。

▼参考記事①
紙 vs デジタル学習:ディープラーニング(深い学び)は紙が良い デジタルは覚えにくい、集中しにくい、眼に負担 医学・薬学・看護学生調査(富山大学)

▼参考記事②



▶新聞は最高の教材


―新聞は読解力向上に役に立つのでしょうか。
 
勿論です。特に小論文の話になりますが、生徒から「題材に対するネタがないので自分の意見を持てない」と相談されますし、困っている先生方も多いようです。そんな時、「そのほとんどは新聞に入ってるよ」と言っています。

さらに、題材の分析と答えまで新聞記事から読み取ることができますので非常に便利です。新聞の良いところは、ある大きい問題や話題に対して、まず解説記事が載ります。次に、専門家の見方が載ります。さらに、その問題に対する対策を複数の人物に語らせている場合もあります。

そういう複数の専門家の分析・主張を載せている記事が重要です。専門家三者三様の主張がありますから、根拠と一緒に確認しましょう。三人の意見を比較して自分の意見をもてば、かなり深い文章が書けますよね。複数の意見の違いを比較しながら読み取ることが読解力の向上にもつながります。複数の資料を読み解く共通テスト対策にもなります。このような読解力の指導法もあります。
 


▶読む行為自体に抵抗感がある生徒には


―そもそも読むことにすら抵抗がある生徒がいると思います。そのような生徒に対して何か工夫をしましたか。
 
徹底的に声を出して読ませていました。

授業についていけていない生徒は、そもそも授業中にどこを進んでいるのかわからないままなのです。ただ声を出して読むだけでは生徒にとってはつまらないのでちょっとしたゲーム要素をいれます

例えば、一文なり読点なり特定のところまで読んだら次の生徒が読み、誰か読み間違えたりつっかえたりしたら先頭に戻る。つっかえると笑いが起きますし、同じ生徒が間違えると「私、まずいな」と思って本気になります。焦らせたり笑わせたりしているといつの間にか読めない生徒も読めるようになっていきます。読めてしまえば、授業にはついていけるようになるので、あとは自分で辞書や文法書を使えるようにするだけです。
 


▶教科書を読ませてほしい

―国語科だけでなく他教科の先生も含めて、生徒の読解力向上のために行って欲しいことはありますか。
 
教科書を読ませてほしいです

私がクラス担任の時に、理科・地歴の平均点が学年トップだったことがあります。何をしたのかというと、一年間、理科・地歴の教科書の音読を予習として勧めました。事前に読んでおくと、書いてあることに基づいて授業が進行しているわけですから、授業内容が腑に落ちますよね。

理科・地歴の教科書って置き勉しやすいですから予習せず授業に臨むことが多いと思われます。ですが、何も読んでいない未知の状態で授業を受けてもすぐにはわからないですよね。授業で進む範囲を事前に音読してくることは、教科を問わずとても大切なことだと思います。

どの教科でも、教科書は読解力を育むための格好の素材となります。


皆さま、いかがでしたか。

今回は鈴木先生に国語科教員の視点からの取り組みや考え方を聞いてみました。何か参考になる点がありましたら幸いです。

次回は社会科教員、そして管理職の視点から同様のテーマでお話しを伺いたいと思います。お楽しみに😊

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