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「特別選抜・年内入試」の抱える課題ー慶應義塾大学から始まったあの入試制度から振り返る【入試制度改革ヒストリー(前編)】

こんにちは!代ゼミ教育総研note、編集チームです。

「今日から使える!2025年度入試まるっとポイント解説」略して「まるポ」、早くも第3回。過去記事も多くの方にご覧いただき、一同喜んでおります!

*第1回*

*第2回*


第3回は2024年流行語大賞にノミネートされるかもしれない「特別選抜・年内入試」について前後編で取り上げます。

保護者の皆様が受験生だった頃は、大学入試と言えば一般入試と推薦入試。なかでも一般入試の割合が圧倒的に高い時代でした。その頃から比べると大学入試の多様化が進んでいます。

大学入試の多様化の背景と歴史を知ることで、「現在の大学入試で求められる力を具体的に考えてみる」のが本記事の狙いです。

高校生をお子さんに持つ保護者の皆様。教育に関心をお持ちの皆様。一緒に入試知識についてアップデートしていきましょう。



○大学入試の三本柱

現行の大学入試は、2021年度の大学入試改革を受けて、一般選抜・総合型選抜・学校推薦型選抜の三つに整理されました。

そのなかの総合型選抜・学校推薦型選抜をまとめて「特別選抜」「年内入試」と呼ぶことがあります。
※厳密にいえば、帰国子女入試・社会人入試なども特別選抜に含まれるのですが、ここでは割愛します。

☆入試区分や特別選抜で求められる力については読解力特集でも取り上げています☆

なぜ「年内」入試なのか。それは合格が決まる時期に起因しています。

総合型選抜は9月以降に出願受付、11月以降に合否決定
学校推薦型選抜は11月以降に出願受付、12月以降に合否決定

共通テストの受験を必須とする場合は年明け後に合否が決まるものの、多くは年内に合否が決定します。

年内に合否が決定する入試、すなわち「年内入試」というわけです。
一般選抜の合格発表は2月以降になるので、早期に受験を終えることができます。

大学のメリットは、優秀な学生を早くから選抜することができること。
また、受験生やその保護者のメリットは早期に合格することで心理的な負担が軽減できるうえ、大学入学準備も余裕をもって行えることでしょう。

特別選抜の募集人員は徐々に増加しています。両者の利害の一致も年内入試拡大の追い風となっていると言えるでしょう。


○特別選抜の歩み

特別選抜は現在の入試制度になる前は、「一般入試」「AO入試」「推薦入試」という名称で実施されていました。こちらの方が聞きなじみがあるかもしれませんね。筆者もその世代です。 

■「AO入試」全ては慶應義塾大学から始まった

「AO入試」は、もとは入学許可担当事務局(Admissions Office)によって入学者選抜を行うアメリカのAO制度をモデルにしているものです。
しかし、日本のAO入試はアメリカのものとは異なり、独自の選抜方法であると言われています。

AO入試を先駆けて導入したのは慶應義塾大学。1990年度入試から実施しています。
高校の評定平均が4.0以上、何かしらの分野に秀でていることが条件で、浪人生の出願も可能でした。

導入2年目にあたる1992年の新聞記事には、AO入試に手ごたえを感じる加藤寛、総合政策学部長(当時)のコメントが掲載されています。

AO入試で入った学生には落第者がいない。「一芸一能」ではなく、高校時代をいかに有意義に過ごしたかが採点の基準だから、そういう学生は大学でも自分の特徴を出そうとして、一生懸命やる。AO入試の学生はいまは10%だが、もっと増やして半分ぐらいにしたい。

尾室拓史「AO入試に対する社会的評価の変遷 新聞紙上における語られ方の分析」p.112

2024年度入試は慶應義塾大学におけるAO入試の導入から34年目の年にあたります。総合政策学部のAO入試の結果はどうだったのでしょうか。

募集人員150人、志願者数712人、最終合格者121人、志願倍率5.88倍という結果でした。

総合政策学部全体の入学定員は425人。さすがに半分には達しませんが30%弱が特別選抜の入学者となっています。予想よりも多い割合だと感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。学力のみで測れない人材が求められている大学入試の現状を体現しているかのようです。

■「推薦入試」の実施が初めて明記されたのは?

「推薦入試」の歩みについても簡単に触れておきましょう。
大学入学者選抜はこれまでも様々な変遷をたどってきました。その時代の社会で必要とされる人材はどんなものかという問題意識から、教育制度が組み立てられ、高等教育機関である大学の社会的意義が定義されています。

推薦入試の実施に関する記述が初めて明記されたのは、昭和42年度(1967)大学入学者選抜実施要項です。

当時の入学者選抜への課題として

・「受験競争」による高校教育への悪影響
・難問、奇問の続出
・特定の大学を中心に激しい「受験競争」

があげられます。過熱した受験競争による受験生への悪影響を打開する、新たな選抜方法として推薦入試が明記されました。

当時の大学入学者選抜実施要項には大学が独自の判断で一部の入学定員について、学力検査を免除して出身学校長の推薦に基づいて判定する方法によることもできる旨の記載があります。

AO入試・推薦入試ともに学力のみによらず多面的に受験生を評価するという理念を持って始まりました。
総合型・学校推薦型選抜においてもこの理念は受け継がれています。


○特別選抜が抱える課題

万能な方法はないのが世の常。
特別選抜も実施する上での課題を抱えています。

■評価基準設定の難しさと実施負担

文科省が公表している「大学入学者選抜における総合型選抜の導入効果に関する調査研究」(p.12)によると、

「他の選抜方法より、評価する観点の設計が難しい
「他の選抜方法より、選抜に関する業務時間の負担が大きい
「他の選抜方法より、評価結果の点数化が難しい

以上3つが課題として挙げられると回答した大学の割合が多くなりました。

出願書類や面接などには一つの答えがあるわけではありません。どういった受験生に点を与えるのか、何を評価するのかを大学が求める学生像に沿って設計するのは困難なことでしょう。
評価基準の設計とともに試験実施における人的コストなども課題となっているようです。

☆こちらの記事でも触れています☆

■調査書の内容格差

令和5年度学校基本調査によると、全国には6,537の高校が存在します。学習指導要領という統一的な基準はあるものの、高校によって普段の授業で扱う内容の難易度や、教育内容は当然異なります。
とくに学校推薦型選抜では調査書を主な資料として選抜を行いますが、6,000を超える高校すべてが統一した基準で評定をつけることは不可能です。

A高校を卒業したAさんとB高校を卒業したBさんの評定平均が共に3.8だったとしても、その重みは異なります。

調査書を主な資料とはするものの、それだけによらない多角的な評価が必要となります。

■大学教育に耐えうる学力の担保

特別選抜は「学力不問」というイメージをお持ちの保護者の方もいっらしゃるのではないでしょうか。

現在の特別選抜においては出願書類や調査書だけでなくその他の評価方法を用いて合格者を決定すると文科省が定めています。ですが実際には、

・合格が早期に決定してしまうため、その後の学習に対するモチベーションが上がらない
・共通テストを課す特別選抜であっても一般選抜合格者に比べるとその合格最低点が低い

といった状況もあり、学力を担保することの難しさが感じられます。


いかがでしたか。

推薦入試が初めて登場してから57年、AO入試が初めて実施されてから37年、時代によって移り変わる入試方式は、世相を反映していることがお分かりいただけたでしょうか。

次回は、では実際に「特別選抜・年内入試」ではどのような試験が行われているのか、その対策には何をするとよいのか、実例をふんだんに交えながら見ていきましょう。


【参考資料】もっと詳しく知りたい方はこちらもご覧ください。
◆尾室拓史「AO入試に対する社会的評価の変遷 新聞紙上における語られ方の分析」(慶應義塾大学湘南藤沢学会、2012年)
◆次橋秀樹「大学推薦入試の展開と現状-現代における推薦入試の類型化試案-」(『京都大学大学院教育学研究科紀要第65号』、2019年)
◆令和5年度文部科学省の先導的大学改革推進委託事業「大学入学者選抜における総合型選抜の導入効果に関する調査研究」(文部科学省、2024年)
資料1-3 大学入学者選抜の変遷について (mext.go.jp)


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