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蒼いトラック【短編】

みんなのフォトギャラリーから生まれた物語。
写真をよく見てから、読んでください。

蒼いトラックは、西の方からやってきた。

風とともに、ゆっくりと進んでいる。

「もう、ここらへんでいいんじゃないか?」
運転してる男は言った。

「いいや、まだ、まだ」
助手席の男は言った。

運転している男も助手席の男も、同じ歳くらいに見える。

二人とも無精ひげを生やしていて、ぼうしを深くかぶっている。

「結構、遠くまで来たよ。そろそろいい頃だと思うんだけどね」

「いいや、もう少し先まで行こう」

そう助手席の男が言うので、仕方なく運転席の男は、蒼いトラックを、東に走らせた。

「ご安全に」

「ご安全に」

二人は40kmの速さでゆっくりと蒼いトラックを走らせている。

「高速に乗るか?」

運転手の男が尋ねた。

「いいや、高速は速すぎて、渋滞の原因になってしまう」

「そうか、そうか。なら、安全に行くか」

特別急いでいるようには見えない。

蒼いトラックは、高速道路にも乗らずに、大きな道を進む。

風とともに、ゆっくりと進む。

途中、何度か海沿いを走った。

途中、何度か高い山を越えた。

それでも、東にまっすぐ走って行く。

「もうそろそろよくないかい?」

「だいぶ、来たなあ」

「そろそろ限界だと思うが、、、」

「おれたちを待つ人がいるからなあ」

「そうかなあ。そうは思えないけど、、、」

「いや、いや、泣いて喜ぶはずだ」

「そうかなあ。泣いて逃げてたみたいだけど」

運転手の男は、首をかしげながらも、蒼いトラックを東に走らせた。

蒼いトラックは、高い山の麓の街に着いた。

見晴らしのよい高台からは、街を見下ろすことができた。

「もういいか」

運転席の男は言った。

「もういいぞ。荷物を下ろそう」

助手席の男は言った。

「じゃあ下ろすぞ。支度しろ」

運転手の男は、運転席のレバーを引いた。

蒼いトラックの荷台がせり上がっていく。

蒼いトラックの荷台に積んでいた入道雲が、ゆっくりと下ろされて、宙に漂った。

助手席の男は、どこから取り出したのか、太鼓を力強く叩いた。

どーーーーーん、どーーーーーん。

激しく、何度も。

どーーーーーん、どーーーーーん。

とたんに、宙に漂っていた入道雲から大粒の雨が降り出した。


「雲行きが怪しくなってきたぞ」

街の人々は空を見上げた。

入道雲が空を覆っている。

遠くで雷の音も聞こえる。

どーーーーん、どーーーーん。

「これで、作物が枯れなくて済むぞーーー」

農家のおじさんは涙を流して喜んだ。

「おへそ、取られるーーーー」

小学1年生のアキコは泣きながら家の方に駆けていった。


「もういいぞ、雷神」

運転席にいた男が、帽子をかぶり直して言った。

「そろそろ帰るか、風神」

助手席にいた男が、帽子をかぶり直して言った。

帽子の奥には2本の角が見えた。

「残りの入道雲も、だいぶ少なくなったなあ」

二人は話しながら帰って行った。


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