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どの弁当を選びますか?【短編】

みんなのフォトギャラリーから生まれた物語

短期間ではあるが、上下関係の厳しい職場に勤めていたことがある。

社長は王様。

専務は総理大臣。

課長は老中。

主任は貴族。

あとは丁稚😤。

といった感じ。


ぼくは入ったばかりで、江戸時代にタイムスリップしたかのような扱いにウンザリしながらも抗えずにいた。

なまじ運動部だったこともあり、服従体質になっていたし。

王様が「味噌汁よりも豚汁が食べたい」とつぶやけば、大臣がそれを老中に伝えた。
老中は貴族に指示を出して、貴族はぼくら丁稚に指示を出す。
末端のぼくらはいつも買い出しに行かされる。

時間がかかったりぬるくなってしまうと、王様からではなく、大臣や老中や貴族から叱責を受けることになる。

ある日、事務所に戻ると、弁当が用意されていた。

800円のトンカツ定食2つと650円のハンバーグ定食1つ。

その3つの弁当を、老中と貴族と丁稚のぼくで分けることになる。午後からの仕事もある。しかし、勝手に食べるわけにはいかない。

残り時間30分で、貴族が事務所に帰ってきた。

「老中はまだなの?」貴族は言った。

「まだです」とぼくは言った。

「だったら、弁当選べないねー。待つかー」貴族は言った。

ぼくと貴族は、老中が戻ってくるのを待った。しかし、なかなか戻ってこない。

「老中、仕事が押してるのかなー」貴族がつぶやいた。

ぼくは時間が気になっていた。次の仕事の予定も入っている。昼飯抜きかー。まあ、この職場なら、仕方ないことだな。ウンザリくる。

残り20分となったところで、貴族が言った。

「午後の仕事もあるだろ。もう、食べようか」


もう一度言う。
お弁当は、老中、貴族、ぼくの3人分で3つ。
とんかつ弁当800円2つ、ハンバーグ弁当650円1つ。
さて、どれを選ぶ?

「老中は、どれがいいかな。わからんなー。」やはり貴族も老中のことを気にしている。

「オレ、とんかつ弁当をもらうわ。」
貴族が言った。

まあ、順当に行けば、そうなる。老中と貴族が値段の高いとんかつ弁当。ぼくが安いハンバーグ弁当。
しかし、老中がとんかつ好きとは限らない。ハンバーグがよかったと言われるかもしれない、、、、。選びにくい状況は変わらない。
やっぱり老中が来るのを待つか。いや、好きな方を食べてしまうか。

そう思ったとき、、、。

「やっぱ、オレ、ハンバーグにするわ」
貴族がハンバーグ弁当を選び直したのだ。そして、こう続けた。

「とんかつとハンバーグが残ったら、選びにくいよね。これだったら、すぐにとんかつ弁当食べれるっしょ」

「・・・・・・・・」

ありがとうございます。
正直、弁当の種類など、どうでもよかったのだ。
ただこの上下関係が厳しい状況の中で、過ごしやすいように配慮してもらったことがうれしかった。

弁当を選ぶ機会があれば、、、、今度はぼくがそうしよう。


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