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アメジストの魚。

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アメジストの魚のまとめです。 宜しければプロローグからどうぞ。
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#眠れない夜に

アメジストの魚。6-2

アメジストの魚。6-2

―恋は盲目。―
茅尋は私が思っているよりもあっさりとその言葉を肯定した。自分から言った言葉なのに、肯定されたことに対して居場所のない不快感が熱を帯びる。

「ねぇ、茅尋。」

駄目、君だけは。
もう狡い私を捉えてしまったんだから、君だけはちゃんと私を見て。視て。お願い。

「一緒に、」
「嫌だよ。」
茅尋が言葉を遮る。
寄せては返す波の音が僅かな沈黙を作った。

「…まだ何も言ってないじゃん。」

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アメジストの魚。6-1

アメジストの魚。6-1

国道112号線を走る。視線の先には太陽の光に照らされた青がどこまでも広がっていた。
頬を撫でる風は少し痛いくらいで、茅尋の背中の温度に妙に安心感を感じるのはきっと冬の寒さのせいだ。

駐車場にバイクを停めて、近くにあった自販機に百円玉を二枚落とす。ボタンを押すとガコンという音がして、私は二人分の缶飲料を取り出した。プルタブを開けて口に含むとカフェオレのほろ苦さが口に広がって吐き出した息がほわっと白

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アメジストの魚5-3

アメジストの魚5-3

これが優しいおとぎ話だったなら、
ハッピーエンドが決まっているような物語なら。

…なんて。
そんな不毛な想像をしてやめた。
僕を信じると言った彼女の声は少しの痛みと優しさが混ざって、重ねた唇の冷たさがハッピーエンドなんて存在するわけがないと現実を突き付けている。

数回触れた唇がそっと離れる。

「キスって甘いんだね。」

そう言って少し目を伏せるようにしてはにかむ彼女はさっきまでの涙を忘れてし

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アメジストの魚5-2

アメジストの魚5-2

痛む心も濡れた手も、いっその事全部海に溶かしてしまえば楽になれるんだろうか。

愛する事も愛される事上手く出来ないまま、深海の底から揺らめく何かに縋りながら息をする。僕達はつくづく不器用にしか生きていけないだなと思った。

これが現実逃避にしかならない事はちゃんと分かっている。それでも、彼女が少しでも僕の手を受け止めてくれるのなら僕は最期まで君の為に生きていたい。そう願った。

「私、弱虫でだめだ

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アメジストの魚5-1

アメジストの魚5-1

苦しい、悲しいと叫ぶ彼女の透明な声が僕の胸を刺した。

無力なこの腕は、今はただ彼女が泡になってしまわないように抱きしめることしか出来なかった。

代替品の僕では君を救えないだろう。
心の中のもう一人の僕がそう言っている。
もしかしたら僕の想いは君の負担にしかならないかもしれない。

だから、これは傲慢なエゴで自己満だ。

「それでも僕は要の事が好きだよ」

「…駄目だよ、そんなの。」

「駄目な

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アメジストの魚4-2

アメジストの魚4-2

「茅尋。」
ぎゅっと掴まれた右手が少しだけ痛い。

「…」
何も言わず離れた手。
薄らと残った体温だけがそこにあった。

「ちゃんと話すね、私のこと。」
そう、ちゃんと話さなければいけない。
きっと私はまた彼を置いて行ってしまうから。

「もう気付いてると思うけど、私も同じ病気なの。」

「…いつから」

「茅尋に出会う前だから5年くらい前から、かな。」

きっともう会うことは出来ないであろう幼馴

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アメジストの魚4-1

アメジストの魚4-1

バレてしまった、それもよりによって茅尋に。

薬もちゃんと飲んだのに何でこのタイミングで発作なんか起こすんだろう、ついてない。本当に。

床に散らばった紫色の"ソレ"だってもう見られてしまったからどうやったって言い逃れは出来ないし。

嫌な沈黙が少し流れて、茅尋が動揺を隠せない様子で私の顔を見た。

「何だよこれ、何も言わなかったじゃないか、こんな事一言も…」
「…。」

何も言えるわけなかった。

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アメジストの魚3-1

アメジストの魚3-1

要と再会して3日が経って、僕は熱を出した。
生え変わりの影響で熱が出てしまうことがあるらしいと前にサイトで見た気がする。

頭はぐらぐらして喉は焼けるように痛んで食事もろくにできない。鱗に触れると一枚、また一枚と剥がれて床やシーツにパラパラと落ちた。

(古い鱗ごと心につかえているものが一緒に剥がれ落ちてくれたらいいのにな。)

そんな事を思いながら僕はそれを拾ってゴミ箱に放り捨てた。

体調もあ

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アメジストの魚1-2

アメジストの魚1-2

「ただいま。」

玄関扉を開けると、静けさの際立つ1DKの部屋が僕を出迎えた。一人暮らしの部屋からは勿論返答などない。

靴と靴下を脱いで風呂場に向かう。歩いている間は気にならなかったベタベタと張り付く感触が鬱陶しくて脱ぎ捨てた衣類は洗濯カゴから外れて床へ落ちた。

(そろそろ髪、切らないと…。)
濡れた前髪は目が隠れてしまう程伸びてしまって、お世辞にもお洒落とは言えない。

お湯を張りたい気持ち

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アメジストの魚1-1

アメジストの魚1-1

(雨か…。)

ぽたぽたと降り始めた雨粒が整然と並べられた白いタイルの上へ落ちていく。
次第に雨足は強くなり、避ける術を持たない僕はものの数分で濡れ鼠へと変身を遂げた。

頬を伝い、喉を伝う雫が瘡蓋の様になった皮膚を濡らす度にジクジクとした痛みが走る。

…これも症状の一つらしい。

数年前から発症した人魚症という病は着実に僕の身体を蝕んでいる。

進行するにつれて声が変わり、皮膚や一部の臓器は鱗

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