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アメジストの魚4-1

バレてしまった、それもよりによって茅尋に。

薬もちゃんと飲んだのに何でこのタイミングで発作なんか起こすんだろう、ついてない。本当に。

床に散らばった紫色の"ソレ"だってもう見られてしまったからどうやったって言い逃れは出来ないし。

嫌な沈黙が少し流れて、茅尋が動揺を隠せない様子で私の顔を見た。

「何だよこれ、何も言わなかったじゃないか、こんな事一言も…」
「…。」

何も言えるわけなかった。茅尋がそんな顔するって分かっていたから。嘘は嫌いだと彼に言ったくせに当の私は最初から嘘つきだった。

「ごめん。」
「別に謝って欲しいわけじゃない」
怒るでもなくただ悲しそうな声で言う。
「茅尋に変に心配かけたくなくて。」

拭いてからにしたら良かったななんて思いながら、さっきまで鱗を握り締めていた手で彼の頬を優しく撫でる。

「心配…?するに決まってるだろっ…」

そう言って、自身の頬に触れている私の手をぎゅっと握って真っ直ぐこっちを見る。

「怒ってる?」
「怒ってるよ」
「怒ってる割には優しい目するんだね。」
「そんな目してない」
「してるよ。」
「してないって」
「茅尋は私の事、本気で怒ったこと1度もないくせに。」

そう、彼は出会ってから一度も私の事を本気で怒った事がない。これを優しさと呼ぶなら世界に争いなんて起きないだろう。

でもきっと、
彼は怒らないんじゃなくて怒れないんだと思う。

臆病で優しさを拗らせてしまった大きな子供。そんな彼につけ込んで傍に居ようとするのは狡い私。

(今回は怒ってくれると思ったのになぁ…)

そんな身勝手な事を考えながら彼の目をじっと見つめていた。


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