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アメジストの魚1-2

家に着いて扉を開けると、いつもと変わらないしんとした空間が僕を待っていた。冬独特の冷えた空気が部屋全体を覆っている。

冬もこの空気感も好きだけれど、とにかく今は早急に冷えた体を温めないといけない。

靴と靴下を玄関で脱いで風呂場に向かう。張り付いた服と前髪が鬱陶しい。

(そろそろ髪も切らないとなぁ。さすがに邪魔だな。)

お湯を張りたいのを我慢してシャワーを頭から当たる。もう体の力も半分ほど抜けて立っているのがやっとだった。数分してから頭、胴体の順に洗う。シャンプーの香りで少しだけ重たい気持ちが和らいだような気がした。

風呂から上がってガサガサと雑に髪を拭きながらソファに沈む様に腰掛ける。

(さむ…。暖房つけとけば良かった。)

そんなことを思いながらエアコンとテレビのスイッチを入れると、画面には今流行りの俳優が映っていて、ドラマやら映画やらの宣伝をしていた。興味なんて1ミリもないしこの俳優も知らないけれど、音が何も無いよりはマシだろう。

静寂は嫌いだ。嫌なことを思い出すし、彼女の事ばかりが浮かんでしまう。思考がぐるぐると堂々巡りするだけで何も答えは出てこない。だからいつもそれらから逃げるように音楽を聴いたり興味もないテレビ番組を垂れ流したりしている。

そうやって現実逃避をして、長い一日が終わって明日はまた朝が来る。



―朝が、来てしまう。―