嫁島墓地

フリーランスのライター。ここにはエッセイ&コラムっぽい何かを中心に上げていきます。

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最近の記事

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愛されて、「推し」は幸せだったろうか。

もうかなり前のTwitterでの話だが、私には忘れられないオタクがいる。 彼女の名前は仮にAとする。忘れられないといっても、私は彼女の友人で無ければ知人でもなく、相互フォローの関係ですらなかった。100%の混じり気ない他人である。 私が一方的にフォローしていたに過ぎない。彼女は小説を書くのが抜群に上手いフォロワー数千人の字書きで、対する私は細々と落書きを投稿するフォロワー数十人のアカウントだったので。 お互いの共通点といえばただ一つ、「推しが同じ」ことに尽きる。推しはと

    • アラサーになったら「オタクのゾンビ」になった

      「オタクのゾンビ」。 ここ数年の私の状況を一言で表すならばそんな感じだ。 7年間。これは私が今のジャンルに居座り続けた期間。長いと思うか短いと思うかはあなた次第だ。ただ、私は大体、3年程度でジャンルを鞍替えするタイプのオタクだった。 にもかかわらず7年間居座り続けるほど、今のジャンルが本当に好きで──というのは半分本当で半分嘘だ。 7年間と言ったが、熱量を持って活動できていた期間はおそらく4年間くらいだと思う。最後に出した同人誌が3年前のものだったので。 つまり、近

      • アラサーになって読む「人魚姫」は全くの別物に見える

        大人になると、童話が変な沁み方をすることがある。 気まぐれに読み返した「人魚姫」なんかはまさにそうで、子供の頃に見た物語とあんまり別物に感じるから驚いた。 「人魚姫」。 人間の王子さまに恋をした人魚のお姫さまが、悪い魔女の力を借りて陸に住む王子に会いに行くお話。 まずすっかり忘れていたのだが、彼女たちの海の世界では、子供が自由に陸の世界へ近づくことが許可されていない、という設定があった。15歳の誕生日を迎えると初めて海面へ上がって地上の様子を眺めることが認められるのだ

        • 「奢られたくない女」の言い分を聞いてくれないか

          「女性に男性がおごるのは当然。だって女性は男性とのデートのために、服とかメイクとかものすごくお金かけてるんだから。」 という男性の主張がいつからか模範解答として出回るようになった。これを聞いた私の最初の所感は、正直おだやかなものではない。 「それって男性とのデートには女性はお金をかけておしゃれして来なきゃいけないってことですか?」みたいなつっかかり方をしたいわけではない。私が引っかかってしまうのは、「本当に男の人ってそれで納得できてます?」という点においてである。 だっ

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        愛されて、「推し」は幸せだったろうか。

          7歳の私はミスタードーナツの店内で永遠を願っていた

          幸福とは今この瞬間が永遠であってほしいと願うことである。 そんな感じの名言を残した哲学者だか思想家だかが、いたと思うのだが名前が思い出せない。思い出せないのになぜか、その名言だけをうすらぼんやりと覚えている。 つまり心当たりがあるのだ。私にもたった一度だけ、「永遠」を願ったことが。 それは7歳のころ。母親と行ったクソ田舎のショッピングモール。その1階にあった、ミスタードーナツの店内だった。 母と私があんなに長く二人っきりで過ごしたのは、たぶんあれが最初で最後だった。父

          7歳の私はミスタードーナツの店内で永遠を願っていた

          マツコもさんまも阿佐ヶ谷姉妹も。こぞって夢見る「老後の集団生活」はおひとり様を救えるか?

          「老後は仲のいい人たちを集めて、集団生活をしたい。」 こんな夢を、方々から聞くようになったのはいつからか。 割と以前からオタク界隈で語られがちな夢ではあった気がするが、最近は芸能人がこの手の話題を口にすることも増えてきた。 私の知る限りでは阿佐ヶ谷姉妹が「いつか阿佐ヶ谷にアパートを買い取って、そこで大切な人たちと一緒に暮らしたい」と語っていたし、明石家さんまとマツコデラックスは某テレビ番組にて「老後はビルを1棟借りて最上階に暮らし、下の階にはまだ売れていない若手芸人を住

          マツコもさんまも阿佐ヶ谷姉妹も。こぞって夢見る「老後の集団生活」はおひとり様を救えるか?

          高校時代の読書感想文がいまでもアラサーの自尊心を支えている

          「授業サボれるんなら俺も真面目に読書感想文書けばよかったわ~」 県の表彰を受けに授業を抜ける私の背中へ、聞かせるようにか聞かれると思わずにか、同級生の放った言葉は随分鋭利に突き刺った。 夏休みに毎年課せられる課題、読書感想文。Twitterなんかではよく、「何のためにやらされるのか分からない課題」「もっとも必要のない課題」などとクソミソにけなされている。 でも、私にとって毎年の読書感想文もとい読書感想文コンクールは陰鬱な学校生活の中で唯一、日の目を見ることの叶う大事なイ

          高校時代の読書感想文がいまでもアラサーの自尊心を支えている

          推しのATMを自称しながら心をすり減らすオタクたち

          時にオタクは、推しの「ATM」を自称することがある。 このスラングが流行し始めた時、なんちゅう恐ろしい言葉を生み出すんやと戦慄した。 ATM。Automatic Teller Machineの略。「現金自動預け払い機」のこと。 転じて、推しのためなら際限なく大金を使うオタクの自虐的自称。あるいは他称。 個人的な感情で言えば、あまり好んで使いたい言葉ではない。 余談だが私は推しバンドマンがライブ中の次回ツアー告知にて「お前ら今回も俺たちのATMとして頑張ってくれや笑」みた

          推しのATMを自称しながら心をすり減らすオタクたち

          トイレ掃除の時だけオタクに話しかけてきた吹奏楽部の同級生

          「ねぇ、嫁島ちゃんて〇〇のアニメ見てる?」 掃除時間、2年生の女子トイレ、デッキブラシでタイルの隙間を執拗にこする私。そして、 「なんか、休み時間に聞こえてきたから…好きなのかな?って。私はわかんないんだけど、よく聞くから───。」 同じクラスのS。トイレには他に誰もいない。トイレ掃除担当はあと2人、ギャルがいるはずだが来ていない。ということは、私に話しかけているので間違いないらしい。例えSが私の方には一瞥もくれず、手洗い場3往復目のボロ雑巾を凝視していようとも。 彼

          トイレ掃除の時だけオタクに話しかけてきた吹奏楽部の同級生

          女の子みたいだったケンちゃんも女の子になれなかった私も、本当はガラスの靴を履きたかった

          「ボク、これは女の子のものだよ。」 6歳の頃。フリーマーケットの一角に並べられたおもちゃの指輪を眺めていた私に、店番のおばさんは言った。 一瞬何を言われたのだか分からず顔を上げると、何の悪意もないおばさんの目が優しげに諭すように私を見ていた。 その目に映るのは、ブルーのフリースのパーカー、コーデュロイのブカブカしたズボン、襟足の寒々しいベリーショート。 顔が耳まで赤くなるのが分かった。 もっと小さい頃、私はディズニーの「シンデレラ」に魅せられていた。 キラキラの光

          女の子みたいだったケンちゃんも女の子になれなかった私も、本当はガラスの靴を履きたかった

          初めてWeb拍手を貰った日、ジャンルを離れることを決心した

          「ジャンルを上がったり創作活動をやめたりしてから”あなたの二次創作が好きでした”とか言われることがあるけど、もっと早く言ってくれたらもっと創作を続けられたかもしれないのにって思う。」 二次創作界隈で時折聞く発言だ。「推しは推せるときに推せ」は公式コンテンツに限らないということだろう。 一方で、「もう何年も前に創作しなくなっていたジャンルの古い同人誌にウン年越しに感想を貰ったのが嬉しくて、もう一度過去ジャンルで創作を始めた」なんていう話も聞く。「だから二次創作作家にはガンガ

          初めてWeb拍手を貰った日、ジャンルを離れることを決心した

          バレリーナの同級生を思い出すとき、私は一人ぼっちの美しさをも思い出す。

          「孤独でもいいから、孤高でありたい。」 いい年になって、いまだ時々こんなことを思う。 思う度、私には思い出す人がいる。 高校と大学が同じだった、とある女の子。 仮にYと呼ぶ。彼女はバレリーナだった。本人の口から聞いたわけでも人づてに聞いたわけでもないが、一目見たときからそうだと分かった。 すらりとした長い手足。恐ろしくまっすぐな背筋。すでに命を失ったみたく白い肌。神経質さを感じる繊細な首筋と髪の毛。 「高校生」であるより「女の子」であるより先に「バレリーナ」である、

          バレリーナの同級生を思い出すとき、私は一人ぼっちの美しさをも思い出す。

          「あの人の作風に似ている」と言われたオタクは、過疎ジャンル字書きのイタコになった

          「ひょっとして○○のジャンルにいらっしゃったAさんですか?違ったらすみません。」 まだ個人の二次創作ファンサイトが盛んだったころの話。私のサイトに突然、一通のメールが届いた。 匿名の、ごく短いメール。 ○○はかつてそれなりに人気のあった少年漫画だが、私は一度も読んだことが無かった。無論、Aでもない。つまり私にはまるで心当たりがなかった。 「メッセージありがとうございます。すみませんが、○○は全く通ったことがないジャンルなので人違いのようです。サイトを閉鎖されてしまった

          「あの人の作風に似ている」と言われたオタクは、過疎ジャンル字書きのイタコになった

          女オタクはなぜ自分のセクハラ発言に鈍感なのか

          ※オタクがオタクのことをマジでキモいよって言ってる自戒の意味を込めたブーメランnoteです。ご了承ください。 ◆ 去年くらいから、声優に興味を持ち始めた。 まだ推しと呼べるほどの存在はいないものの、ほどほどに好きな声優は何人かいる。これまでほぼ推しは2次元にしかいなかったので、生身の人間を応援する日々は新鮮な驚きに満ちている。 今はそれぞれの声優さんが当たり前に自分のニコ生番組を持っているんだなとか、演技がうまいとか歌がうまいとかだけじゃなくてとんでもない一芸を持って

          女オタクはなぜ自分のセクハラ発言に鈍感なのか

          結局のところオタクはみ~んなリアコみたいなもん

          「私はリアコじゃないんだけど…」 「私は夢女子じゃないんだけど…」 「私は推しカプの壁になりたいタイプなんだけど…」 これらはオタク、ないし腐女子がわりとよく用いがちな枕詞だ。 念押し、牽制、リスクヘッジ……単純なようで何かと複雑な前置きの言葉たちは、あえて端的に言うならば次のような意味をはらんでいる。 「私は2次元に本気で恋をするような空想と現実の区別もつかないオタクでは無いことを踏まえ、今後展開する妄言を聞き流してほしいのですが……」。 オタクは、自らの「恋心」に

          結局のところオタクはみ~んなリアコみたいなもん

          鬼教師に好かれるためなら何だってやった小学生時代

          小学校2年から4年の頃の担任・A先生はいわゆる「鬼教師」だった。 小太りで、真っ赤な口紅と吊り上がった細い眉がトレードマークの女性教師。 A先生率いる私たちのクラスは、はたから見てきわめて優秀なクラスだったと思う。 A先生の授業は一切私語が無い。先生が質問を投げかければ、美しい直線のラインを描いて過半数以上の生徒が挙手をする。挙手できなかった残りの生徒も、切れのある大声で「分りません!」と返事をする。 名指しされた生徒は速やかに椅子から立ち上がり明朗かつ手短に自分の意見

          鬼教師に好かれるためなら何だってやった小学生時代