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初めてWeb拍手を貰った日、ジャンルを離れることを決心した

「ジャンルを上がったり創作活動をやめたりしてから”あなたの二次創作が好きでした”とか言われることがあるけど、もっと早く言ってくれたらもっと創作を続けられたかもしれないのにって思う。」

二次創作界隈で時折聞く発言だ。「推しは推せるときに推せ」は公式コンテンツに限らないということだろう。

一方で、「もう何年も前に創作しなくなっていたジャンルの古い同人誌にウン年越しに感想を貰ったのが嬉しくて、もう一度過去ジャンルで創作を始めた」なんていう話も聞く。「だから二次創作作家にはガンガン感想送っていこうぜ」という教訓付きで。

どちらの証言もなるほど、と思う。でもそのどちらにも当てはまらないこともあるだろうな、とも思う。

私自身は、貰った感想をきっかけにジャンルを離れたことがある人間だからだ。


10年近く前。

まだそのころは、個人運営の二次創作サイトがかろうじて生き残っていた。それでも当時猛威を振るっていたPixivにすでに随分押されていたので、最盛期にも一日20人程度しか訪問の無かった私の小説サイトはほぼほぼ虫の息だった。

サイトの内容というのも、R18小説もない基本全年齢向け、ギャグなし、特別クオリティが高いわけでもない、人気カップリングでもないBLの超短編小説を月に1本程度投稿するだけの乏しいコンテンツ。設置してみたWeb拍手も無反応だった。

Web拍手をそもそも知らない令和オタクも増えてきているのだろうか。これは個人サイトに設置できる簡易的なメッセージフォームみたいなもので、今でいう「マシュマロ」とか「ほめて箱」とかが近いと思う。匿名でコメントを送れるし、拍手のボタンを押すだけでも「本日は何回拍手ボタンが押されました」みたいな通知が受け取り手に届くので、メッセージまで送らなくても同人作家を応援できる、当時は画期的なツールだった。

サイトの管理人側の拍手をもらうための工夫も楽しかった。拍手のページにはお礼のメッセージや画像を挿入することができたので、何枚も画像やSSを挿入することで楽しんで何回も拍手を押せるよう工夫するパターンや、さらなる策士はランダム表示にして「拍手のお礼画像は全部で〇種類です!」などと表示することでコンプまで膨大な拍手を送るよう誘導するパターンもあった。訪問者はコンプできた喜びの勢いそのままに、今しがた楽しんだコンテンツの感想メッセージなども送りやすいという寸法である。

が、そういうので大量の拍手を得られるのはそれだけの需要があるサイトに限った話で、私のような末端のサイトはトップページの更新履歴にでかでかと「拍手SS入れ替えました!」とアピールした当日~3日間だけパラパラとボタンが押されるくらいなものだった。サイトを開設した時すでにジャンルの勢い自体が衰えていたので、感想をもらったことなどはほぼほぼ皆無に等しかった。

好きだから創作している。創作への称賛を目的にしているのではない。でも、好きな気持ちを誰とも分かち合えずに創作を続けられるほどの熱量はやがて尽きていく。

1カ月に1度だった更新は2~3カ月に1度、やがて最後に更新したのは半年前という有様になる。ジャンルからも心は離れ始める。それでも、今さらこのジャンルから足を洗うには長く居座りすぎていた。


私のWeb拍手に初めてのメッセージが来たのは、更新が途絶えてから1年は優に越えたころだったと思う。

メッセージの通知に目を疑った。確かに私のWeb拍手に来ている。通知を押すと、確かにそこにはメッセージが簡潔に、数行だけ。

「もう更新されないのですか?こちらのサイトの小説が好きだったのでとてもさみしいです。」

本当に数行だけ。感想とも言えないかもしれないメッセージ。読んだ瞬間、私の脳内に端的な言葉が浮かびあがった。

───このジャンルを離れよう。

多分、黒々とした明朝体。それぐらいもうくっきりと浮かび上がったのだ。

ほんのり寂しく、ひどく爽快な心地がした。

例えるなら卒業式の翌日、折ジワだらけの教科書を一切合切ゴミに出して、学習机の上には卒業証書の筒だけが西日に照らされていた3月のような。

確かに誰かが見ていた。作品を見られなくなるのを惜しんでくれた。それくらい、私はもう、十分やり遂げた。

メッセージを送ってくれた人の本意とは真逆だったと思う。でも、その人のお陰で私は二次創作から自由になったし、また新しい二次創作を始めるきっかけを得られたのだ。悔やむべくは、その恩人が望んだ新たな創作を生み出してあげられなかったことか。

ならばせめて、あれからいつかどこかで、新たなジャンルで、私の創作とその人が再び巡り合うようなことが、お互いの知らぬ間に起こっていたならいいと思う。

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