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彼と私が生きる朝


一緒に住む恋人の生活を観察してみた感想はとにかく「朝が早い」だった。

普通は休日に5:00に目を覚ましたら、大体は二度寝するだろう。しかも前日の夜0時過ぎに寝ていたのなら尚の事。だが彼は二度寝をしない。

私も朝は早い方だけれど「私より朝強い人いるんだ…」と驚くほど彼は朝型人間…

と思いきや、別に夜寝るのが早いわけでもないのである。(である)。生活習慣が整っている彼も、お酒を飲んで夜更かししたり、映画を2本立て続けに見たりするときも結構な頻度であって、私より寝るのが遅いこともかなりある。

けれど朝は私より早い(9割)

「眠くないの」と聞くと「寝ろと言われたら寝れるけど」と返ってくるので「寝て」と言ってみたら、「睡眠って死んでるのと同じだよね」と返ってきた。

私はここで、ハァン?!?こやつ何言ってんだァン?みたいな顔になる。

「回復するために大切な時間ですよ睡眠は」と返すと、「んー、3時間寝れたら十分」と言う。

同棲してわかったけれど、彼はかなり眠りが深い。まずどれだけおおきな物音でも起きない。多少の地震がきても起きない。頬をつねってもペチンと少したたいてみても、起きない。

「俺、高校時代かなり眠り深い奴みたいになってて、ほんとうに全然起きないから部活の合宿で、夜寝てる時全力ビンタされたらしいんだけど、全然わからなかったんだよね、痛みも」(ビンタしないでかわいそうと思わないでほしい、彼はその動画を後日見てかなり楽しかったらしい)

とだいぶ前に言っていて「こわい」と率直な感想が出たのを思い出す。

私は部活の合宿で彼を被験者にした人たちのワクワクにちょっぴり共感して、iPhoneのライトで顔を照らしたり、真冬に掛布団をとってみたりした。顔をビンタするのはかわいそうだからお尻を思い切りたたいてみた。
ベットから上半身だけゆっくり落としてみた。


起きない。

起きる気配がない。

寝返りくらいうってくれないと私が馬鹿みたいで仕方がない。彼は気持ち良さそうな顔でずっと寝ている。

その安らかな顔を見ながら、たとえば、と私は考える。

もし同棲しているこの家に、不審な人物が窓を開けて入ってきたら、彼はきっとそれでも寝ている。この安らかな顔に犯人は動揺するのではないか、と思うくらい寝ている。


となると、私は立ち上がり、悪い奴をこてんぱんにする必要がある。それは無理である。

「むむ」と、きっと起きないであろうもしもの事態を考え、彼に相談を持ちかける。

「…と、こういうとき(彼)が起きなかったら、私は戦えばいいかな?」と聴いたら「俺の頭、凶器で殴って起こしな」と返ってきた。

想像してみる。

犯人がびっくりだ。
自分に襲いかかるのかと思いきや、目の前で眠る恋人に殴りかかる女、狂気の沙汰でしかない。

「犯人の心臓に悪いかも」と返すと「もっと良い方法を考えよう」という回答がくる。朝ごはんを食べながら何を話しているのだろうと思いながらコーヒーを飲む。


あ、 と思い出す。

彼の夜の眠りはかなり深く、深すぎるがゆえに朝もスパッと起きている。深すぎる。

だけど、わたしが夜中に体調が悪くなり発作を起こしていると、感じ取るように「?!」と飛び起きてわたしと同じ態勢になり、落ち着くまでさすってくれたりする。

わたしのSOS感知機能でもついているのだろうか。

これに関しては本人も「俺にも何でかわからない、目が覚める」というし、怖いことに、朝「夜中ありがとう」と伝えたら「起きた記憶がない!!!ほんとうに大丈夫だった?!?!」と涙目で謝られたこともある。

ほんとうに何なのだあなたは。

つかめない。
彼には不思議がたくさんある。
そういう不思議を今後はたくさんnoteに書き留めておきたい。

けれどこれに気づいてわかった。

悪い奴が家に乗り込んできたらわたしは怖がる。彼は怖がる私のSOSを感知して飛び起きる。

彼は戦う。

問題なさそうである。

わたしが戦う必要もなさそうだし、彼の頭を凶器で殴って起こす必要もなさそうだ。犯人の心臓も安寧が保たれて何よりである。

ピーナッツバターのったパンを齧りながら「今日も平和で何より」と声に出す。

彼は平和とはかけ離れたむずかしい顔をしている。「どうした」と問う。

「春夏秋冬で対応が変わりそう」と彼。

もうその話は終わったし何より犯人に対応も何もないのである。茶でも一杯、なんてことになるわけじゃあなかろうし、対応、などとは考えなくて良い。

だがなぜだ

春夏秋冬で対応が変わる、 とは、
一体どんな風に?!
気になって仕方がない


春の日差しを感じながら、生産性のかけらもないどうでも良い話をわたしはまた掘っていく。彼はそれをさらに掘る。

そんなことより、今日のパンはとてもうまく焼けている。そう言いそびれていた。

彼が春夏秋冬ごとの対応を話している最中にようやくパンを齧る。

「?!パンおいしい」

「そういう話をしようか」

と、そこから話はパンの話題へ移る。
パン屋さんへ行きたくなるので
パン屋さんへ行こうという話で終わり、
互いに身支度をはじめる。

春夏秋冬の話の続きは、寝る前にもう一度2人の話題のど真ん中を占領するのだろうな。

そんなことを思いながら、ワンピースを着きて、春の香りが近づく外へ繰り出す。

彼はぐっと背筋を伸ばし「行きますか」と私を笑顔で振り返る。


私たちの生きる朝は、今日も平和である。

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