歴史に興味を持つきっかけに
初めに
皆さん歴史はお好きですか?
だいたいの人は「暗記ばかりでつまらないし苦手だ」と言うと思います。確かに学校で配布される歴史や古典の教科書を読んで歴史を好きになれ!と言う方が無理な話です。
これまで私は地歴科目の勉強法を書いてきましたが、今回は、歴史を嫌いでなくなる、興味を持っていただくためのきっかけとなるようなものになっていれば幸いです。
歴史に興味を持つための素養
まず前提として、他人であったり、フィクションのキャラクターに対して興味を持てる方であれば歴史を好きになる、興味を持つことは可能だと思います。
上の記事でも述べた通り、私が歴史を得意になったのは歴史上の人物がどのような人間であるのかに興味を持ち、一つ一つの人名や事象を単なるワードとしてではなく有機的に理解するように努めたことにあります。
こうした理解の根底にあるのは他人に対する興味です。この人は何をして、どんな人生を歩んで、どんな性格の人間なんだろう?と言う興味が元々友人等に対してありました。こうした興味を歴史上の人物に対しても抱いたからこそ歴史が得意になったのだと思います。
でも、他人に対する興味ではないところから歴史に興味を持つ人はたくさんいますよね。例えば戦国時代に異様に詳しい人とか。私の子供の頃だと、信長の野望とか戦国無双をやってた人にこの傾向がありました。このような人には戦国時代の知識はまず敵いません。
こうした人たちはゲームの中のキャラを知略や政治、武勇といった観点から有機的な「人」として理解しているからこそ、知識として蓄えられていくのだと思います。そして、こうした歴史に対する興味が湧くのは遊んでいて楽しいゲームがきっかけだからこそです。
そうならばゲームに限らず漫画やアニメ、ドラマなどをきっかけに、そこを入り口として歴史に興味を持てる人もいるのではないでしょうか?
しかし、歴史に触れられるドラマとしてまず挙げられるであろう大河ドラマはとにかく話数が多く、1年単位なので中々とっつきにくいです。
そこで私は、アニメとして2022年に放送された平家物語をおすすめしたいと思います。
平家物語
アニメ平家物語とは
平家物語は、2022年1月〜3月に放送された全11話の作品で、古典でお馴染みの平家物語を題材に平家の絶頂から滅亡までを描いています。原作が生まれたのは鎌倉時代初期、作者は信濃前司行長という下級貴族ではないかと言われています。
平家物語と言えば多くの人が誦じられるであろう
というお馴染みの前置きから始まる物語です。
ただ、この平家物語はアニメなので、アニメとして面白くなければ意味がありません。しかし、私個人としては2020年代では最高の作品だと思っています。
そして、最高だと考える理由はその原作の再現性にあります。原作である文学としての平家物語を読んでいると分かるのですが、どんどん武将が源氏か平家かを問わずに死んでいきます。そして政治や芸能関係の人物も、序盤は平家以外が、後半は平家がという形でどんどん没落していきます。
そう、原作を一言でまとめれば諸行無常という冒頭文そのものなのです。
ですから、このアニメは1000ページを超える原作が持つ諸行無常というテーマが視聴者に伝わるか、が個人的な評価の鍵でした。
そして11話を観終わって真っ先に私に浮かんできたのはまさに諸行無常という思いでした。その時点で素晴らしい作品です。
しかし1000ページを11話にまとめたのでダイジェスト感が強いのは確かでした。あらゆる感想の中には「もっと戦いを見たかった」「名前が似ていて人物相関が分からん」というもっともなものもあり、誰もが認める名作にはなれないかもしれません。私も、もっと平家の生き様を見ていたかったという思いもありました。
解説、あらすじ
平家物語はなぜ平『家』物語なのでしょう。源氏と平氏という氏族の呼ばれ方が定着しているのにです。その理由は、平家物語が平清盛を棟梁とした平氏の中の一族の物語だったことにあります。例えば同じクラスに佐藤さんが2人いたとして、それぞれの佐藤家は全く違う家系ですよね。でも佐藤氏という氏族としての括りで見れば同じ訳です。
つまり平家物語は、日本全国に平さんがいるその中で平清盛をトップに据えている一族の話だから平『家』物語なんです。
さて、その平清盛には長男に平重盛という人物がいました。清盛の後に平家の棟梁になることが決まっていた人物です。
そして重盛には維盛、資盛、清経、有盛などといった息子がいました。この通称「小松家」と呼ばれる一家を中心に平家物語は進んでいきます。(小松谷(大谷本廟の南のあたり)に邸宅があったから小松家と呼ばれました)
重盛が次の棟梁に決まった時、平清盛は太政大臣となり、武家の人間でありながら貴族の頂点に立ったことで平家の親戚一同も昇進を重ね、栄華を極めていました。そんな我が世の春を謳歌する中で生まれた言葉が有名な「平家にあらずんば、人にあらず」です。平家の驕りを表す言葉として扱われますが、実際は平家の人間でなければ上級貴族にはなれない程度の意味合いだったと言われています。
しかしそんな平家に対し反感を持つ人が反乱を起こそうと企んでいました。
鹿ヶ谷の陰謀と呼ばれる事件です。その首謀者の中に平重盛の義理の兄である藤原成親という人物が含まれていたことから、重盛は平家の中で立場を失ってしまいます。
立場を失い、政治的意欲も失った重盛はその後すぐに他界します。そんな時に清盛の後継者として浮上したのが平宗盛、平知盛、平重衡の三兄弟です。
この3人は平重盛の弟でもありました。3人の中で年長者である宗盛が棟梁となり、知盛と重衡が宗盛を補佐する体制が完成。しかも3人の妹で当時の天皇の妃となっていた平徳子が安徳天皇を出産したことで、平家の支配は盤石になったようにも思われました。
しかし、そんな時に源頼朝が挙兵し、平清盛が亡くなることで平家に暗雲が立ち込めます。平家で立場を失った小松家の兄弟達はその後壇ノ浦の戦いまでどのように生きたのでしょうか。
まとめ
平家物語には歴史の教科書に出てくる登場人物、事案が多く出てきます。平清盛、後白河天皇、源頼朝、源義経、北条政子、治承寿永の乱、鹿ヶ谷の陰謀、福原京など
これらの人物は教科書上では単語でも、アニメになれば、平清盛は頑固親父だし、後白河天皇も狸親父だし、頼朝は北条政子の尻に敷かれてる、そんな一人の「人間」です。
悪役として扱われがちな平家の人達も我々と同じただの人間で、色んな思いを抱えつつ支え合って生きています。
そして興味を持って登場人物について調べてみるとアニメとは違う見方があることが分かります。例えば、アニメ平家物語と同時期にやっていた鎌倉殿の十三人では小泉孝太郎さんが平宗盛を演じていました。イメージが全く違いますよね。
歴史の面白さはそんな人物の解釈の多様性にあるんだと思います。
皆さんがそんな歴史に興味をもつきっかけにこの記事がなってくれれば幸いです。
最後に
私が好きな劇中のエピソードについて実際の聖地巡礼にも触れつつ紹介したいと思います。
祇王と仏御前(2話)
祇王は清盛の面前で歌舞をして寵愛を得た芸能人でした。しかしある日、清盛の前で舞をしたいと願い出た仏御前という若い娘に舞を許したところ、清盛の寵愛は仏御前に移り、祇王はお払い箱になってしまいます。すぐに寵愛も移り変わるような儚い世の中を悲しんだ祇王は今の祇王寺で出家しました。しかし、自身もすぐに追い出されることを悟った仏御前は祇王を追いかけ出家を果たし、祇王とともに仏門に励むのでした。
平維盛と滝口入道(10話)
平維盛は一ノ谷の戦いの後、平家から離脱して高野山で出家して那智勝浦で補陀落渡海(入水)を果たしますが、出家の際にかつて平重盛に仕えていた滝口入道という人物と再会します。平家から逃げてきた自分を責める維盛に対し、滝口入道は
と声を掛けます。
この言葉を聞いた時、常に精神的に弱く他人に弱みを見せると「それくらいの辛いことなんてみんな我慢している」と呆れられてきた弱い自分が救われたような気がしました。(滝口入道は平重盛の従者の頃、身分違いの恋を父に許してもらえず世を儚んで出家した過去があり、維盛にそんな言葉を掛けたのだと思います)
平重衡
平重衡は一ノ谷の戦いの際に捕虜になり源頼朝の前に引き出されましたが、その器量から命は助けようと頼朝に思われた程の人物でした。けれど奈良を焼き尽くした重衡に対する奈良の僧の憎しみは強く処刑されることになります。その処刑直前、京都山科に隠棲していた妻と最期の対面を果たし「来世でまた逢おう」と告げて形見に髪を残したという感動的な逸話を残しています。
平重衡の首塚は高野山三宝院にあり、聖地巡礼のため伺ったのですが、お参りに伺う旨を連絡すると、私ひとりの墓参りのために丁寧に焼香台まで用意してくださりました。平家物語に通底する祈りの道を生きる人達の優しさに感動した瞬間でした。
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