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子供には難しすぎだと感じる「ワンピース」

いつの間にか、「ワンピース」のルフィも懸賞金30億ベリーに到達したという。
ベリーという通貨単位は円と同じ価値らしいので、つまりルフィが30億円相当の賞金首ということになる。
おそらく、世界のTOP10圏内だろう。
まるで、この金額がキャラの強さを表す数値かのような錯覚を皆に与えているが、確かにそういう側面はあるにせよ、しかし金額が上がることを栄誉とするのは少し間違っている。
だって懸賞金告知ビラには「生死を問わず」の表記があり、つまりルフィを殺すことは殺人罪に問われるどころか、逆に政府から30億貰って誉められるんだからね。
まるで凶悪犯みたいな扱いだが、ルフィってそんなにも悪い奴なのか?
いや、断じて悪い奴ではない。
むしろ色々な国で圧政に苦しんでた民を解放した英雄であり、まるで凶悪犯のように30億の賞金首とされるのは不当な評価じゃないかと私は思う。

「ワンピース」賞金首の手配書

そもそも、ルフィは本当に海賊なのか?
海賊の定義は、海を主な舞台として略奪を生業とする賊である。
つまり彼らの主な収入源は略奪行為であり、この行為のあるなしによって、海賊か否かが分けられると思う。
で、麦わらの一味の実態はどうなのかということだが、私の見る限り、略奪行為はほぼ皆無である。
じゃ、彼らはどうやって生計を立てているのか。
少なくともルフィは異常なレベルの大食漢であり、この一味は食費だけでも相当な支出を強いられてるはずだ。
海ゆえ魚介類は自給自足でいけるにせよ、ルフィが主に食うのは肉だけに、どうしても現金が必要なはずだよ。
こいつらはバイトしてるようにも見えないし、いつもどうやって現金を調達してるんだろう?
と思ってたんだが、どうやら空島やスリラーバークで手に入れたお宝が相当な価値だったらしく、それを現金化して食いつないできた、というのが真相みたいだね。
もしそうだというのなら、彼らは本質的に海賊じゃない、ということになる。
略奪もせず、あちこちで困ってる人を助けるような一味の何をもって海賊と呼ぶのか。
私が思うに、彼らの本質は海賊なんかじゃなくて、お宝(ワンピース)探しのバウンティハンターだよ。
本来、海賊ってのはもっと悪いもんだし。
そこをちゃんと説明しないと、少なくとも「ワンピース」は小さいお子さんも見る作品なんだし、海賊=ヒーローとお子さんに誤解されるのはさすがにマズいでしょ。
いっそ、「ワンピース」と並行して「ヴィンランドサガ」を見せるのもありだよね。

「ヴィンランドサガ」で海賊は村を襲撃して略奪し、村人たちを人身売買するものである

「ワンピース」の世界観では、悪である海賊を取り締まる役割が正義の海軍だ。
しかし、海軍は本当に正義なのだろうか?
海軍大将のひとり、緑牛はこういう発言をしていた。

「この国じゃ、何人殺しても法には触れねえ。
(ワノ国を)見下すのは当たり前よ。
人類は、常に下を作って生きてきた。
多数の平和の為には、少数の犠牲が不可欠だからよ。
お前ら非加盟国は、世界の為の犠牲。
お前らを見下すことで、みんな生きていけんのよ。
差別とは、安堵だ」

めちゃくちゃエッジのきいた発言だね。
まぁようするに、差別、イジメの全面肯定である。
強きの為に、弱きをくじく。
この発言が軍の下っ端のものじゃなく最高幹部のものだと踏まえれば、これが軍の公式な認識と捉えるべきだろう。
ルフィの認識とは真逆であり、決して相容れない。
また、緑牛の発言は普遍的な倫理観からすると完全に悪なのに、彼の行動は全て正義とされることにやり切れない不条理を感じるよね。
彼は海賊と同じ悪なのに、なぜ彼だけが正義なのか。
それは彼が体制側で、海賊は非体制側だからだ。
つまり、同じ悪でも世界を統べる巨悪になれば、自分は正義だと自称できるということ。
そこまでいけば、自分の傘下に入らない者を悪だとして断罪することもできる。
正義の制裁として殺すことも正当化される。
たとえ、殺す相手がルフィのように倫理的に正義だったとしても関係ない。
正義か悪かを決めるのは、あくまでも体制側の都合なんだから。

海軍大将・緑牛(原田芳雄がモデル)

我々オトナは、こういう前提を理解した上で「ワンピース」を見ている。
だけど私が少し気になるのは、この枠本来のメインターゲット視聴層である小さなお子さんたちがこれを理解できてるのか、ということだ。
小さなお子さんに、ちゃんと世界の仕組みを理解できるだろうか?
いや、無理だろう。
子供たちはただ単純に
・ルフィ⇒正義
・海軍⇒悪
・ルフィと対立する海賊⇒悪
と自分たちに分かりやすく解釈するだけである。

何ていうかさ、「ワンピース」って根本的に子供にとって難しすぎない?
というか、もはやアニメは日曜朝という子供向けの時間帯であっても、視聴ターゲットをメインはオトナに切り替えてきてるような気さえするよ。
そう感じた理由は、何よりまずオープニングである。
このオープニングにはきっと皆さんも違和感を感じたと思うが、もはや子供向けの作りじゃないよね。

秋からの「ワンピース」OP映像

いや、正直いって今やってるのが歴代で一番カッコいいのは間違いないんだけど、OP曲を手掛けてるのがsekai no owariで、その世界観はもはや彼らのプロモーションビデオっぽいイメージですらある。
上の映像が次々とフラッシュカットされていく手法が超絶にカッコよくて、子供向けアニメの域ではない。
ルフィが太陽の逆光を背景に満面の笑顔とか、オトナにとっては好印象のOPだろう。
でも、こういうのは小さなお子さんにはよく理解できないカッコよさなんだよね。
子供たちが見たいのはキャラなのに、今のOPでは映像がコンマ何秒で次々と
切り替わっていくので、キャラが一度もしっかりと映ってないのさ。
これ見て正直、私はフジテレビが子供を切り捨てたようにも感じたわ。
歌にしてもそうだよね。
昔はもっとアニソンっぽく、子供が一緒に歌いやすいことを前提にした曲だったのに、今はsekai no owariだもん。
もはや、アニソンという概念すら消えつつあるのかもしれない。
今ではテレビドラマもマトモにOP曲を使わなくなってる傾向だし、いまやミュージシャンにとってアニメのOP曲ED曲は完全に主戦場である。
そして彼らは小さなお子さんをメインターゲットにせず、あくまでも10代~30代に向けて訴求してることだろう。

そうなんだ。
これが「アンパンマン」や「プリキュア」のように明確な低年齢層ならいざ知らず、「ワンピース」のような全年齢層になると、さすがにフジテレビのような企業はマーケティングの視点から経済力のある年齢層をメインに訴求してくる。
ああ、ここで緑牛の言葉が蘇ってきたわ。

「多数の平和の為には、少数の犠牲が不可欠だからよ。
お前ら非加盟国は、世界の為の犠牲。
お前らを見下すことで、みんな生きていけんのよ」

そう、経済力のない小さなお子さんは犠牲になるわけさ。
そもそも、大企業というのは海軍みたいなもの。
弱きを助け強きをくじく、そんなルフィみたいなことやってたら、大勢いる手下どもにメシを食わせることもできないからな。
ルフィら麦わらの一味があんなことできるのは、彼らがたった10人という所帯の小さいベンチャー企業だからだ。
海軍のような所帯のデカい大企業にもなると、ひたすらマーケティングあるのみ。
その方針は明確な拡大路線であり、ワノ国のような手つかずのオイシイ市場があるなら、強引に参入するのも当然といえば当然か。
うん、緑牛は大企業の幹部として当然の行動に出たにすぎない。
そして海軍が市場の独占を狙い、競合する四皇勢力を潰しにかかるのは企業として当然のロジックである。

海軍元帥・赤犬(菅原文太がモデル)

思えば、悪の権化かのように描かれている海軍元帥・赤犬も不憫だわ。
彼はエースを殺害したことで悪魔のような扱いになったが、もともとエースは死刑執行が確定しており、その死刑囚が逃亡したから赤犬は強制執行したにすぎず、彼は軍人としての職務を全うしただけのこと。
もちろん死刑を決めた司法に問題はあるけど(裁判はあったんだっけ?)、それはまた別の話だ。
どっちかというと、あの場面は武力で処刑場に乗り込んだルフィや白ひげの側に非があるだろう。
それを止めようとした赤犬に非はない。
そういうところ、おそらく小さなお子さんはほとんど理解せずに見てるはずだから、日曜朝「ワンピース」を子供と一緒に見てるお父さんお母さんにはきっちりとそのへんを解説してあげてほしいのよ。
でないと、正義であればテロは許されると、小さなお子さんに変な刷り込みをしちゃうことになるからね。
一見無害に見えて、「ワンピース」は暴力で物事を解決することを肯定した結構ギリギリのコンテンツだという現実を忘れないでくれ。

海軍大将・黄猿(田中邦衛がモデル)
海軍大将・藤虎(勝慎太郎がモデル)

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