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小説をアニメ化することの難しさ

「このライトノベルがすごい!」をご存じだろうか。
これは宝島社が出してるラノベのガイドブックで、年一回発行されてるんだ。
これには、各年のラノベ人気投票結果がランキングで掲載されている。
2005年以来ずっと毎年続いているんだが、今までで唯一、3年連続1位という快挙を成し遂げた作品があるのね。
それが、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」である。
「俺ガイル」という俗称でも有名かと。

基本、ラノベは魔法や異能力が出てくるファンタジーやSFが人気なんだが、この「俺ガイル」はそういうのが一切ない、等身大の地味な学園ラブコメである。
じゃ、そんなのが何で殿堂入りを果たすほどの大人気になったのかというと、この小説は主人公「俺」こと比企谷八幡の一人称で語られる形式であり、その語り口が実にシニカルで卑屈で屈折していて、なんか妙に笑えたんだよね。
まあ、それが一人称小説ならではの巧妙なミスリードともいえて、その内実は微妙に主人公最強系だったりするわけで、そういうギャップがまた人気の要因だったと思うよ。
ただ、このてのやつはアニメ化が意外と難しいよね。
だって、アニメでは小説のようにずっと比企谷のモノローグというわけにはいかんし、ある程度はそこを削る以上、どうしても彼のキャラが薄くなってしまうんだ。
実際、そうなってたし。
よって、アニメ制作側も比企谷のことはある程度諦め、代わりに女性キャラを魅力的に見せることにポイントを絞ったんじゃないだろうか。
キャストに早見沙織、東山奈央、悠木碧、佐倉綾音という当代きっての人気声優をずらりと揃え、そこは完璧だったと思う。
特に私は東山奈央がツボで、小説ではワケ分からなかった「やっはろー」という謎の挨拶を東山さんがやってるのを聞いて、「なるほど!これか!」と妙に納得したんだよ。

由比ヶ浜結衣

しかし、やはり小説のアニメ化は簡単ではない。
特に「俺ガイル」のようにモノローグが魅力の小説ともなると、延々と声優にモノローグさせたくなるもんだが、それをやるとアニメとしてはウザくなってしまうもんなぁ。
・・いや、まだ「俺ガイル」はマシな方かも。
最も難しいのは、「叙述トリック」を使った小説のアニメ化だよ。
そういや何年か前、「蜘蛛ですが、なにか?」というアニメを見た。
これの原作小説は読んだことないけど、明らかに視聴者のミスリードを誘う
叙述トリック形式の作品だったんだ。
こういうのは小説だと、めちゃくちゃ綺麗にハマる巧妙なトリックだよね。
しかし映像化しちゃうと、小説より早い段階で視聴者がトリックに気付いちゃうんじゃないの?
これはアニメじゃなく、小説でこそ楽しめる作品だと感じた。
もともと、叙述トリックは映像化に適さないんだよ。
アガサクリスティの「アクロイド殺し」は叙述トリックの名作として彼女の代表作なのに、「オリエント急行」や「そして誰もいなくなった」みたいに映像化されないから、案外知らない人も多かったりするのが残念。

「蜘蛛ですが、なにか?」
悠木碧が延々とひとりで喋り続ける、悠木ファンには至高の作品である

あと、小説の膨大な情報量をアニメではうまく消化できないという例もある。
その代表的な例が、「とある魔術の禁書目録」。
「禁書目録」はラノベ売上で歴代1位の大ヒット作なんだが、これがアニメ化すると意外と評判悪かったりするのよ。
1期はまだいいとして、2期、3期とシーズンを重ねるごとに評判が落ちている。
これは原作小説が悪いというより、ストーリーが進むごとにアニメとの相性が悪くなってきてるのかと。
もともと、これは神とかが出てきちゃうような壮大なファンタジーで、序盤の学園バトル物っぽいスケールからだんだんと逸脱していくんだわ。
話が進展するごとに設定が難解になってきて、もうアニメでは処理しきれない情報量にまでなってきてると思うよ。
アニメはまだ主人公・上条当麻の正体すら明かしてない段階なのにね。
3期は中途半端なところで終わってたけど、続く4期は正直やめといた方がいい気もする。

しかし不思議なもんで、アニメ「禁書目録」は面白くないのに、そのスピンオフである「とある科学の超電磁砲」は面白いんだ。
これは「禁書目録」ヒロイン2番手の御坂美琴を主人公にした姉妹版というべきシリーズなんだが、これの出来が「禁書目録」よりも遥かにいい。
なぜかって、こっちは小説じゃなく漫画原作だからさ。
よって、アニメとの相性はばっちりである。
何より、御坂美琴の超電磁砲という能力そのものが派手で、アニメ向きである。
それに比べて、「禁書目録」の上条は「右手で触ると敵の能力を無効化できる」という地味でアニメ映えのしない能力で、ぶっちゃけカッコよくないのよ。
能力を無効化した時に出る「ピヨ~ン」って効果音もマヌケだし、無効化で防御はできても攻撃手段はグーパンチだけ、というのもちょっとダサい。
もうね、アニメは「超電磁砲」一本に絞っていいぐらいさ。

御坂美琴の超電磁砲
上条当麻のグーパンチ

ちなみに御坂美琴は、「このライトノベルがすごい!」女性キャラ人気投票で1位を9回獲得という歴代最高記録を樹立している。
おいしいキャラだよね。
あと、この女性キャラ人気投票の記念すべき第1回で、初代女王の座に君臨したのは「撲殺天使ドクロちゃん」のドクロちゃんである。

ドクロちゃんを知らん人の為に説明しておくと、彼女はドラえもんのように主人公・桜君の家に居候する天使で、桜君のことが大好きなんだけど、感情が高ぶるとつい彼を撲殺してしまう、ちょっぴりドジな女の子。

こうして桜君が死ぬたびに、彼女は「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜♪」という呪文で彼を生き返らせている。
つまり、撲殺→蘇生→撲殺→蘇生という日常を描いたシュールなコメディなんだ。
さすがにアニメ化するのはマズいラノベだと思うんだが、なぜかアニメ化しちゃったんだよね。
で、作ってみたら想像以上にグロかったので、もう今では誰も触ろうとしない、幻の名作。
まぁ、実写化するよりは全然OKだったと思うけど・・。

さて、「このライトノベルがすごい!」に話を戻そう。
この人気投票で今年の1位作品は何かというと、「ようこそ実力至上主義の教室へ」だった。
これの主人公・綾小路清隆は男性キャラ人気投票4連覇中で、今最も勢いのあるラノベだといっていいだろう。
ちなみに女性キャラでは、軽井沢恵が2020年~2021年で2連覇している。
あれ?と思うよね。
そう、この小説の中で軽井沢はメインヒロインではないからだ。
せいぜいヒロイン2番手といった位置であって、これは「禁書目録」の御坂美琴と同じく、人気の逆転現象が起きてるということ。
そういや「禁書目録」のメインヒロイン・インデックスは、全然人気ないもんなぁ・・。
こういうのは、作者としても想定外だったんじゃないだろうか。

「ようこそ実力至上主義の教室へ」綾小路清隆と軽井沢恵
メインヒロインは堀北鈴音だと思うんだが・・

その点でいうと、作者の想定通りにうまくいった最高の例が「俺ガイル」のWヒロイン制である。
この作品が人気投票で3連覇した時の雪ノ下雪乃・由比ヶ浜結衣の投票結果を見てくれ。

【2014年】
雪ノ下雪乃・・・2位
由比ヶ浜結衣・・4位
【2015年】
雪ノ下雪乃・・・1位
由比ヶ浜結衣・・3位
【2016年】
雪ノ下雪乃・・・2位
由比ヶ浜結衣・・4位

作者の思惑通りに、Wヒロインの人気が拮抗してるのよ。
ちなみに、2016年の3位にはサブヒロイン一色いろはが割り込んでいて、さすがにこれは作者も想定外だったと思うけど。
しかし、こうやって思惑通りにWヒロインの人気が拮抗したことこそ、この作品が殿堂入りの名作になり得た一番の要因だろう。
それはアニメでも同様で、Wヒロインをどちらも魅力的に表現できていたと思うよ。
私は2期まで雪ノ下派、3期からは由比ヶ浜派に転向したんだっけ。
子供の頃に「マクロス」見て以来、大体の男子はこういう三角関係物に弱いんだよなぁ・・。

雪ノ下のこんなデレた笑顔、物語序盤の彼女を思えば一体誰が想像できただろうか
しかし最終回ラストカットは、なぜか比企谷と一色と小町の不穏な3ショットで締めくくられたw

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