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たくさんある「麹の造り方」を理解するための話と、色々な「麹の造り方」

久々の麹コンテンツです。SEO対策用に「麹 造り方」「麹 作り方」「糀 作り方」「糀 作り方」←臆面も無く堂々と書いておきます。

さて、しばらく前に

にて、味噌、清酒、醤油用種麹の違いについて、麹菌の酵素生産の違いで説明しました。

こちらでは、麹の分類にもとづきました。今回は、麹ごとの作り方の違いで説明したいと思います。

一回、麹を自分で作ったことのある人の方がイメージしやすいですが、今回は麹を作ったことがない人向けに書きます。麹の細かい作り方は、今はネットで、色んな人が「麹の造り方」たくさん紹介しているので検索していただければと思います。今日は、それぞれの解説を読む前の概念整理です。さあ、はじめましょう。

麹の造り方概略

一般に、麹は、麹そのものの温度でいえば、30度~40度ぐらいの間を行き来して作ります。

麹を造っていると、麹自体の活動により発熱して、麹がだんだん熱くなります。この熱は麹の水分の蒸発という形で使われていきますが、麹自体の温度上昇ももたらします。また、麹は呼吸をするので、どんどん酸素を使っていきます。そして、酸素が豊富な表面より、中の方は酸素が無くなっていきます。

そのため、基本的にはどんどん蒸発して乾いていく麹自体の水分のコントロール(乾きすぎもべちゃべちゃし過ぎもダメ)と、熱くなりすぎないような温度調節と、また、酸素を入れてやるために、麹を途中でかき混ぜるような操作をします。これを「手入れ」といいます。

この「手入れ」のタイミングの取り方が、麹造りの「コツ」の一つであり、解説者とその目的によってポイントの分かれるところでもある。と理解してもらえたら、今日のところはOKです。

なので、「なんで解説の内容が違うのだ?」と言う疑問自体を整理し、解説の意図が分って理解しやすくなるためのポイントの概念を今日は理解してください

そして、米麹、麦麹、豆麹において、また、目的とするものによって、この温度経過が異なります。

一般に、麹の温度が40度に近いあたりの状態になると、アミラーゼというデンプンを糖に変える酵素がたくさん生産されます。そのため、後の麹の利用法として、糖を利用すること、シンプルに言えば「甘味」を利用することや、「糖を用いてアルコールを造ること」を想定する場合は、40度に近いあたりを推移させる方がよいとなります。具体的には、清酒造りや、あま酒、白味噌などの甘い味噌のための麹ですね。

一方で、麹の温度が35度ぐらいになると、プロテアーゼというたんぱく質をアミノ酸に変える酵素もたくさん生産されます。そのため、後の麹の利用法によってアミノ酸を利用すること、シンプルに言えば「旨味」を利用すること、また、大豆のようにたんぱく質が多い原料を分解することを想定する場合は35度あたりを推移させる方が良いとなります。具体的には、一般的なお味噌に使う麹や、肉料理や魚料理に使う塩麹を想定した麹です。

ちなみに、麹造りは40時間以上かかりますが、前半24時間は麹菌自体を増やすことが主の目的で温度を調整し、後半24時間は酵素を生産するための温度調整に入るというのがざっくりした考え方です。

グラフにするとこんな感じです。

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グラフの読み方は、左の縦軸が麹そのものの温度、下の横軸が経過時間です。ちなみに、このような表を「製麹品温経過表」といいます。

線が2本あるのは、「ピタっ」とこの温度で無くても、多少の上下幅が合っていいんだよと思ってください。料理レシピのようにガチガチに考えなくて大丈夫です。もちろん、料理でも高級天ぷら店の揚げ温度みたいな世界だと秒を争いますし、醸造の世界でも、テレビなどでストップウォッチ片手にお米の浸漬してたりするところが放映されたりしていますが、今日の話はそういう精密品を作るような世界じゃないので、肩の力抜いて捉えましょう。目指すものはF-1カーではなく、街乗りの軽自動車です。

さて、グラフで温度が落ち込むところ、ここが先の解説の通り「手入れ」のタイミングです。「手入れ」することによって、ちょっと温度が落ちることが分ると思います。

さて、前半戦は麹菌の量を増やすことに専念します。麹菌が増えてくるにつれて熱を帯びてきます。前半戦で、麹をどの程度の厚さ(熱さで無く)、薄く広くか、厚めに固めるかで、熱の上がり方がコントロールできます。最初の手入れの時に何度で着地していたいかを考えながらやります。そして、前半戦でどのような方針をとるかによって、後半でリカバリーしにくくなるので、前半戦でしっかり麹菌を増やしましょう。

そして、後半戦で、どんな酵素を増やしたいかにより、後半戦の麹の温度を調節します。わかりやすい例を2つ提示します。

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上下で違いがわかりますね?上は麹の温度を30時間目ぐらいからを40度前後、下は30時間目ぐらいから35度前後にしています。そう、前者はアミラーゼ=甘味の素、後者はプロテアーゼ=旨味の素、を増やすことを目的にした温度経過です。具体的に言えば、前者は甘酒に向いてる麹、後者は味噌に向いてる麹、となります。そして、37~8度ぐらいだと、両方の性質をそれなりにと言う麹になります。

もちろん、あくまで標準的に向いてるというだけで、「使ってはいけない」みたいな話では無いです。「子どもに優しいアンパンマン石鹸」で大人が手洗いしてもいいわけですし、「大人のコクうまカレー」をお子さんが食べてもいいわけです。楽に考えましょう。

このように、同じ米麹でも、目的に応じて麹の品温の経過が異なります。グラフにすると、根本的に設計思想が違うのが分りますね。そして、これが分りにくさの原因でもあると思います。

また、最終的に40度に持って行きたい場合は、徐々に温度を上げていくパターン、最終的に35度に持って行きたい場合は、一旦40度に達してから下げていくパターンが楽に出来ます。一般の麹造り講座だと、どちらかしか教えてないパターンもあるので、「言ってることがあっちのサイトとこっちの先生で違う」になりがちですが、それはこういうことです。

後ほど説明しますが、ざくっと米での麹造りは「徐々に温度を上げていくパターン」「一旦上げてから下げるパターン」に大別されます。目的に応じて使い分けが出来てくると上級者です。

そして、質問として出そうなところが、いきなり45度近くまであげて40度に冷ますじゃだめなのか。と言う話があります。理屈としては成立しますが、それだと前半戦で麹菌を育てることを考えると高すぎます。ゆっくり育てましょう。また、プロテアーゼ重視の麹でも、しっかり菌体を育てるということ、また実用としてもアミラーゼもそれなりには欲しいので、麹が生育しやすくなるよう40度ぐらいまであげてから冷ました方が良いです。

清酒(大吟醸など)の麹の品温経過

さて、これは、甘酒や味噌などの麹の造り方でしたが、清酒になると、もっと様相が違ってきます。

大吟醸制麹経過181003

手書きで済みません、大吟醸のやり方です。先ほど紹介したものに比べると、甘酒用の麹に似ている「温度を徐々に上げていくパターン」ですね。つまり、プロテアーゼよりもアミラーゼが欲しいパターンです。後の工程でアミラーゼによりデンプンが分解される糖こそが酵母のえさとなり、アルコールのもとになります。

また、一般にお酒にとってプロテアーゼ=旨味は雑味として避けられる傾向にあります。なので、プロテアーゼが生成される35度前後はなるべく短時間で切り抜けたい。そういう意図もあります。

また、ここまで「アミラーゼ」と一口にいってきましたが、アミラーゼと言っても大別して2種類あり、グルコアミラーゼと呼ばれるアミラーゼと、アルファアミラーゼと呼ばれるアミラーゼがあり、このバランスが清酒造りには重要です。

詳しい説明はそれだけで1つの記事になるので省きますが(興味のある方は”G/A比”という単語で調べてみてください。)、結論から言えば、2種のアミラーゼのバランスが良いとして酒蔵さんでは42~3度ぐらいを目標の品温にすることが多いです。

ただ、アミラーゼは温度が高ければ高いほどよいというわけでは無く、45度過ぎぐらいからは、酵素のバランスがくずれて、今度は麹を作ってる最中から、麹そのもののデンプンを無視できないほど溶かしはじめることがあり、50度過ぎると麹菌が死にはじめます。

米麹の整理

整理すると

・前半戦は麹菌を育てることを目標・・・麹は発熱するので、30度ぐらいから造り初め、徐々にあげていく。最初から40度とかにしない。上がりすぎにも、あんまり上がらないことにも注意。
・後半戦は造りたい酵素に合わせて、その温度が長くなるようにする、42~3度以上・・・お酒向き、40度前後・・・甘味重視、37~38度前後・・・甘味旨味バランス型、35度前後・・・旨味重視

ということになります。

他にも湿度とか乾き具合とか気を付けることはあるのですが、一旦、今日は温度と酵素の関係だけに話を絞って説明しました。

黒麹・白麹の品温経過

と、ここまでは黄麹の話でしたが、泡盛用の黒麹の代表的な経過もちょっと見てみましょう。

泡盛黒麹菌

黒麹(白麹)の特色は、「クエン酸を生成する」ことにあります。そしてこのクエン酸を出させることが、麹造りの目的に入っているのが、これまで見てきた米麹の作り方との大きな違いです。

結論から言えば、クエン酸は麹造りとしては比較的低温の30度台前半でよく生産されます。そのため、前半戦で温度高めにして麹菌を一気に増加させ、そのあと、クエン酸が出やすい温度まで下げていく麹の造り方です。

黄麹と黒麹・白麹では、そもそも発想が違ってるんですね。

麦麹、豆麹の品温経過(黄麹)

さらに、今までは米の話でしたが、原料が麦や豆になったらどうなるかを見てみましょう。なお、黄麹菌です。

麦味噌用米麹品温経過

味噌用豆麹品温経過

ご覧の通り、麦麹は最高でも35度、豆麹はもっと低い温度(当社では、ご家庭などでやる場合は30度以下を薦めています)でずっと維持するような麹の造り方です。これだと、前半戦麹菌が十分育ちにくいように思うかもしれません。でも、麦や豆は、米と比較すると麹菌以外の雑菌も生えやすい原料なのです。そして、麹菌が発育しやすい温度は、そういった雑菌にとっても同様に生育しやすい温度とオーバーラップしています。例えば、納豆菌は麹造りにとっては大敵の菌ですが、納豆菌も40度台が大好きな温度帯です。

また、麦麹や大豆麹の用途を考えた場合、おそらく多くは味噌に使うことが想定されます。また、麦、特に大豆は米に比べるとデンプン質が少なく、たんぱく質が多いため、それらを発酵の過程で分解するためにはプロテアーゼが必要になります。

そのため、豆や麦の麹を造るときは低温でじっくりじっくりいく形になります。もちろん、米麹のような温度経過をしてはいけないわけでは無いですが、チャレンジする場合は、くれぐれも雑菌の侵入に気を付けてください。


今日の話はここまで。

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