爪の会

詩誌「爪」の会 1985年11月1日「爪」創刊号発行 1996年11月銀座ヤマハコンサ…

爪の会

詩誌「爪」の会 1985年11月1日「爪」創刊号発行 1996年11月銀座ヤマハコンサート 出演コーラスグループサーカス 第28回日本童謡賞受賞 以後「爪」会員日本童謡賞新人賞受賞 会費月2000円第一土曜日午後一時から勉強会

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二0二四・元旦

武井和子 朝から黄金色に満ちてくる 大空いっぱいに 希望が波のようにひろがって 起きよ と ものみなすべてに 語りかける すると 鳥が歌い出し 露にぬれて花は輝き 木々の枝は 糸のような先っぽにまで 新鮮な力を巡らせはじめる それがいつもの能登の朝 こんな美しい当たり前が 突然に揺れて揺れて 崩れて 裂け 壊れて 押し潰されて 人が死んだ なんとむごい 老いたわたしにできるのは 祈り祈り祈り続けて 傷む心に涙を注ぎ この災いと

    • 予感

      武井和子 歩いてきて 気付けば そこは街中の ささやかな公園 七本の欅と 五本の桜が あたりを涼しくしているのだ 有りともなしの 風と木の唄に 鼻から胸が透きとおる と 分別くさい顔をして 向こうから犬が来る その犬に飼主が従ってくる 不意に新鮮な緊張が崩れて この一日が なんだか面白くなりそうな ※詩誌「爪」146号

      • 着心地のいい日を

        三間由紀子 もうじき 誕生日 何かくださるのなら 着心地のいい1日を 履き慣れた靴のような いつもの味のスープのような なにか いただけるなら そういう 1日を どうぞ 目新しい 驚きや不安なんかが 喜びや嬉しさも なくて いい ここにあるものが じっとここにある 昨日と同じ 1日を お休み また 明日 そう言える 1日 もし なにか いただけるなら どうぞ それを ください ※詩誌「爪」146号

        • もと 子ども

          三間由紀子 ひだまりにしゃがんで アリの仕事に わくわく この子は利口 こっちはのろま 応援していたら あら もう夕焼け 寝っ転がって 大好きな絵本を ぱらぱら ねこや魚やおばけをなぞり 小声で話をしていると あら よだれが出ちゃった 学校帰りの中学生の中の かわいい子に きゅんきゅん 明日も会うかな ずっと会いたいな あら まるで初恋と同じ だって もと 子ども ですから いいのよ 子どもで もと 子ども まだ 子ども いつまでも

        二0二四・元旦

          ピンシャー

          三間由紀子 わたしは ピンシャー とっても 上等の犬なの そんな風情で 尖った頤(オトガイ)を突き出して ┉ もう両面とも 見えないし ┉ 右の前足 曲がったままでしょ ┉ 耳だけは よく聞こえるけど お隣さんは 声をひそめて それでも 直径3cmもない かぼそい足を ふんばって お散歩 私はピンシャー どんな犬より 貴族なの と 鼻高々 お隣さんを従えて ご帰宅は お隣さんの腕の中 大変ねぇ 小さな声で言ったつもりな

          ピンシャー

          かわらない毎日

          渡部千津子 Ⅰ 朝 あ おひさま カーテンのすきまから きょうのきぼう ときがすぎて あたらしいいちにち なにかしなくては でも なにを Ⅱ それから 紅茶はストレート トーストにはジャムをたっぷり 新聞のコラムを声に出して読む それでおわり あっというまの朝ごはん それから かんがえる なにをしようか Ⅲ そうして 手紙を出しにいこう 街

          かわらない毎日

          なみだ

          渡部千津子 ふいうちのように なみだが あふれてくる かなしいわけじゃないのに さびしいわけでもないのに おもいがけないときに ばしょもときも おかまいなしに ふるふる とそらをみあげて なみだをもとにもどそうとしたり せきのふりして ふいたりする ときがながれ としがかわり ほら また なみだ だいじょうぶ だいじょうぶ いつか これにもなれていくよ ※詩誌「爪」146号

          寒の入り

          九重文妃子 「少しだけ」と 遠慮しながらも御飯の追加を所望した 今さら拒んだところで歩ける訳ではあるまい 二つ返事で杓字の先にかかるほどの おまけの御飯を入れると それは嬉しい顔をした それは お腹を満たすというよりは 心を満たすことだったのだろう あの笑顔を見せてくれたおまけの御飯を あげてよかった と つくづく思う ※ ※ ※ 前触れもなければ手加減もなかった 年明けの連休であり 人がそろそろ床に就く頃に救急車を呼

          夏の思い出

          吉川葉子 歌手の方がずらりと並んで 「夏の思い出」の歌がはじまった ああ いっしょによく歌った 車椅子を押して散歩するときや 食事の前にちょっと歌う? というとき ベッドで横になっているときでさえも わたしが歌い始めると 母もいっしょにかならず歌った 多くのことを忘れていっても 母のなかにはいつも 歌があふれているようだった たくさん たくさんいっしょに歌って ほんとうにたのしかったね おかあさん 舞台から響く 光のように美しい歌声に包まれ

          夏の思い出

          空に 風に

          吉川葉子 さるすべりのピンクの花が 二階の窓の正面に たくさん咲いてゆれていた すう と 母の さいごの息が 止まった 夏の終わりの 午後 わたしは ぽっかりと 気もちに空洞ができたようになってしまった どこに いったのだろう 空のなかなのか 風になったのか 蝶々が飛んでくればここに? と思い お月さまのむこうにいるのだろうかなんて まるで小さなこどものようなことを思う そんな日の続くある夜 夢をみた 父と母がいっしょにいて わ

          空に 風に

          おでことおやつ

          吉川葉子 公園のシーソーであそんでいた 小学五年生のまきちゃんとわたし まきちゃんが突然バランスをくずして 上からすべり落ちてきた わぁーと叫んだまきちゃんの前歯が そのままわたしのおでこにささった まきちゃんは前歯を痛がるし わたしのおでこからは血が出るし とにかくわたしの家に二人で行くと ┉┉┉あらあら まぁまぁ 母はちょっとわらいながら 二人になにかそれなりの手当てをして それから おやつの包みを二つ作ってくれた 白い紙をきゅっとひねったそれを持

          おでことおやつ

          はじめてのこと

          吉川葉子 朝の電車で白杖の方と乗り合わせた 背広姿で通勤中のようす 同じ駅で降りたので 生まれてはじめて お手伝い しましょうか? 緊張しながら声をかけてみた ハイ では階段まで と明るい声のお返事 二人で話しながら階段をのぼった ボクは会社に行くところです ボクは目が見えないんですけれど ひらひらしたものを着ておられますか アタリです ひらひらのワンピースです 改札口に着くとその人はにっ

          はじめてのこと

          ゆみちゃん

          吉川葉子 もう 起き上がるのがむずかしくなった と知らせを受けて 新幹線で会いに行きたい そう思った日の朝 ゆみちゃんは遠いところへ行ってしまった 時々約束してレストランで食事した ビュッフェに行くと イカ好きのゆみちゃんのお皿はいつも イカ料理がいっぱいのっかっていた わたしより十歳も年上なのに 妹のようなうれしそうな顔 病があっても 愉しいこと面白いことに前向きだった 大きな船で神戸港

          ゆみちゃん

          介護保険支援

          上野勝 かれこれ四年介護の手を借りている 月四回 家の掃除 風呂の介添え 両足で直立不動で立つことができない 背中を流すことができない 部屋の掃除は畳とカーペットのみ 大いに助かる 湯上がりに全身湿疹へ 手製ドクダミの 化粧水をつけてもらう 約30分 面倒見てもらう 風呂で洗ってもらうことの恥ずかしさも 無くなり 全身洗ってもらう グッスリ眠ることができる 困ることは 早朝に目が覚める事 夜中に洗濯をし 料理をつくる 今朝は 生昆布にさつま

          介護保険支援

          真夜中の雷

          上野勝 何度も何度も家を揺さぶる 鳴り響くオレサマ(雷様)の音 目っこが覚めだ コエェーグライ(怖いくらい) 屋根っこに雨っこが打ち付ける 雨の音っこでドォデシテ(びっくり) ちょっとばかり こえぇ(怖い)ながら カーテンこ あげて真夜中さぁ オレサマと大雨っこ たのすむズブン(楽しむ自分見とれる自分) 畑っこの デエコン(大根) 大丈夫だべだぁかぁ? ツウシャ(駐車)場の泥っこが 流されねべぇか 盆栽の楓 モミズ(紅葉) 真弓の紅葉 セェター

          真夜中の雷

          一重切り花入れ

          上野勝 仙台七夕で使用の 孟宗竹で 『一重切り花入れ』を作る 乾燥もさせず作り 見事 上から底まで 大きくヒビが入る どうにか再生できぬものかと思案の末 金継ぎをしてみた パテを詰め込み その上から金継ぎ 底は誰も見ないので 手抜き 仕上げは紙やすり5回ほど磨き上げ 最後にニスを塗る いい花入れができあがる ススキと萩を入れる 涼しい風にススキの穂が 気持ちよさそうに揺れる ※詩誌「爪」146号

          一重切り花入れ