爪の会

詩誌「爪」の会 1985年11月1日「爪」創刊号発行 1996年11月銀座ヤマハコンサ…

爪の会

詩誌「爪」の会 1985年11月1日「爪」創刊号発行 1996年11月銀座ヤマハコンサート 出演コーラスグループサーカス 第28回日本童謡賞受賞 以後「爪」会員日本童謡賞新人賞受賞 会費月2000円第一土曜日午後一時から勉強会

最近の記事

ピンシャー

三間由紀子 わたしは ピンシャー とっても 上等の犬なの そんな風情で 尖った頤(オトガイ)を突き出して ┉ もう両面とも 見えないし ┉ 右の前足 曲がったままでしょ ┉ 耳だけは よく聞こえるけど お隣さんは 声をひそめて それでも 直径3cmもない かぼそい足を ふんばって お散歩 私はピンシャー どんな犬より 貴族なの と 鼻高々 お隣さんを従えて ご帰宅は お隣さんの腕の中 大変ねぇ 小さな声で言ったつもりな

    • かわらない毎日

      渡部千津子 Ⅰ 朝 あ おひさま カーテンのすきまから きょうのきぼう ときがすぎて あたらしいいちにち なにかしなくては でも なにを Ⅱ それから 紅茶はストレート トーストにはジャムをたっぷり 新聞のコラムを声に出して読む それでおわり あっというまの朝ごはん それから かんがえる なにをしようか Ⅲ そうして 手紙を出しにいこう 街

      • なみだ

        渡部千津子 ふいうちのように なみだが あふれてくる かなしいわけじゃないのに さびしいわけでもないのに おもいがけないときに ばしょもときも おかまいなしに ふるふる とそらをみあげて なみだをもとにもどそうとしたり せきのふりして ふいたりする ときがながれ としがかわり ほら また なみだ だいじょうぶ だいじょうぶ いつか これにもなれていくよ ※詩誌「爪」146号

        • 寒の入り

          九重文妃子 「少しだけ」と 遠慮しながらも御飯の追加を所望した 今さら拒んだところで歩ける訳ではあるまい 二つ返事で杓字の先にかかるほどの おまけの御飯を入れると それは嬉しい顔をした それは お腹を満たすというよりは 心を満たすことだったのだろう あの笑顔を見せてくれたおまけの御飯を あげてよかった と つくづく思う ※ ※ ※ 前触れもなければ手加減もなかった 年明けの連休であり 人がそろそろ床に就く頃に救急車を呼

        ピンシャー

          夏の思い出

          吉川葉子 歌手の方がずらりと並んで 「夏の思い出」の歌がはじまった ああ いっしょによく歌った 車椅子を押して散歩するときや 食事の前にちょっと歌う? というとき ベッドで横になっているときでさえも わたしが歌い始めると 母もいっしょにかならず歌った 多くのことを忘れていっても 母のなかにはいつも 歌があふれているようだった たくさん たくさんいっしょに歌って ほんとうにたのしかったね おかあさん 舞台から響く 光のように美しい歌声に包まれ

          夏の思い出

          空に 風に

          吉川葉子 さるすべりのピンクの花が 二階の窓の正面に たくさん咲いてゆれていた すう と 母の さいごの息が 止まった 夏の終わりの 午後 わたしは ぽっかりと 気もちに空洞ができたようになってしまった どこに いったのだろう 空のなかなのか 風になったのか 蝶々が飛んでくればここに? と思い お月さまのむこうにいるのだろうかなんて まるで小さなこどものようなことを思う そんな日の続くある夜 夢をみた 父と母がいっしょにいて わ

          空に 風に

          おでことおやつ

          吉川葉子 公園のシーソーであそんでいた 小学五年生のまきちゃんとわたし まきちゃんが突然バランスをくずして 上からすべり落ちてきた わぁーと叫んだまきちゃんの前歯が そのままわたしのおでこにささった まきちゃんは前歯を痛がるし わたしのおでこからは血が出るし とにかくわたしの家に二人で行くと ┉┉┉あらあら まぁまぁ 母はちょっとわらいながら 二人になにかそれなりの手当てをして それから おやつの包みを二つ作ってくれた 白い紙をきゅっとひねったそれを持

          おでことおやつ

          はじめてのこと

          吉川葉子 朝の電車で白杖の方と乗り合わせた 背広姿で通勤中のようす 同じ駅で降りたので 生まれてはじめて お手伝い しましょうか? 緊張しながら声をかけてみた ハイ では階段まで と明るい声のお返事 二人で話しながら階段をのぼった ボクは会社に行くところです ボクは目が見えないんですけれど ひらひらしたものを着ておられますか アタリです ひらひらのワンピースです 改札口に着くとその人はにっ

          はじめてのこと

          ゆみちゃん

          吉川葉子 もう 起き上がるのがむずかしくなった と知らせを受けて 新幹線で会いに行きたい そう思った日の朝 ゆみちゃんは遠いところへ行ってしまった 時々約束してレストランで食事した ビュッフェに行くと イカ好きのゆみちゃんのお皿はいつも イカ料理がいっぱいのっかっていた わたしより十歳も年上なのに 妹のようなうれしそうな顔 病があっても 愉しいこと面白いことに前向きだった 大きな船で神戸港

          ゆみちゃん

          介護保険支援

          上野勝 かれこれ四年介護の手を借りている 月四回 家の掃除 風呂の介添え 両足で直立不動で立つことができない 背中を流すことができない 部屋の掃除は畳とカーペットのみ 大いに助かる 湯上がりに全身湿疹へ 手製ドクダミの 化粧水をつけてもらう 約30分 面倒見てもらう 風呂で洗ってもらうことの恥ずかしさも 無くなり 全身洗ってもらう グッスリ眠ることができる 困ることは 早朝に目が覚める事 夜中に洗濯をし 料理をつくる 今朝は 生昆布にさつま

          介護保険支援

          真夜中の雷

          上野勝 何度も何度も家を揺さぶる 鳴り響くオレサマ(雷様)の音 目っこが覚めだ コエェーグライ(怖いくらい) 屋根っこに雨っこが打ち付ける 雨の音っこでドォデシテ(びっくり) ちょっとばかり こえぇ(怖い)ながら カーテンこ あげて真夜中さぁ オレサマと大雨っこ たのすむズブン(楽しむ自分見とれる自分) 畑っこの デエコン(大根) 大丈夫だべだぁかぁ? ツウシャ(駐車)場の泥っこが 流されねべぇか 盆栽の楓 モミズ(紅葉) 真弓の紅葉 セェター

          真夜中の雷

          一重切り花入れ

          上野勝 仙台七夕で使用の 孟宗竹で 『一重切り花入れ』を作る 乾燥もさせず作り 見事 上から底まで 大きくヒビが入る どうにか再生できぬものかと思案の末 金継ぎをしてみた パテを詰め込み その上から金継ぎ 底は誰も見ないので 手抜き 仕上げは紙やすり5回ほど磨き上げ 最後にニスを塗る いい花入れができあがる ススキと萩を入れる 涼しい風にススキの穂が 気持ちよさそうに揺れる ※詩誌「爪」146号

          一重切り花入れ

          八十五歳の誕生日

          上野勝 年を重ねるということ 物忘れが出始め 何もかも忘れてしまう 悲しいものだ 貯金通帳 印鑑 ドアの鍵 日常のほとんどが 五分後には頭から消える 銀行や 郵便局で デイサービス 青年後見人の代行と 炎天下の中 飛び回り手続き 振り込め詐欺の電話も入る 見上げれば黄昏に沢山の鳥が ねぐらに帰ってゆく ただやりきれぬ寂しさの八十五歳の誕生日 ※詩誌「爪」146号

          八十五歳の誕生日

          熱烈応援! 岡山マラソン

          大谷朱美 四年ぶりの岡山マラソン 我が町平井は 三十キロ地点 スタートから四十分後 颯爽とトップランナーが駆け抜ける がんばれ! がんばれ! パンパンパン パンパンパン 風船をたたいて 熱烈応援! 続いて 続々とランナーたちがやってくる 好タイムを目指す ランナーたちが通り過ぎると マラソンを楽しむランナーたちがやって来る マリオ ゴジラ アンパンマン 牛 虎 亀 ヒヨコ 双子のバナナ 桃太郎や鬼もいる

          熱烈応援! 岡山マラソン

          百円玉

          大谷朱美 いろんなことが心配で いろんなことが気になる彩奈 安心できるように神社でお守りを買ってやった お守りがあったら 大丈夫だからね 彩奈は首を横に振る だめだめ 神様はうそつきだもん なんと ばち当たりなことを ちゃんと お金を入れたのに Mくん 来んかった この前 神社に行ったとき 同窓会でMくんに会えますように と お賽銭箱に百円玉を入れて拝んだのだそう 一日百五十円のこづかいのうち百円 彩

          蘇る この日

          菊池寿歩 コロナが五類に位置づけされ 夏の甲子園高校野球が戻ってきた 気温35度を越える 毎日 投げる 打つ 走る 取る 滑り込む 守る それぞれの想いと夢 弾む心と身体に 汗が全身から光り 流れる この日の為 仲間に励まされ 励まし ボールを追いつづけた 日々 この日に勝っても 役に立つ この日に負けても 役に立つ この日がこれから 役に立つ この日がいつか 役に立つ 私の高校生

          蘇る この日