ゆみちゃん
吉川葉子
もう 起き上がるのがむずかしくなった
と知らせを受けて
新幹線で会いに行きたい
そう思った日の朝
ゆみちゃんは遠いところへ行ってしまった
時々約束してレストランで食事した
ビュッフェに行くと
イカ好きのゆみちゃんのお皿はいつも
イカ料理がいっぱいのっかっていた
わたしより十歳も年上なのに
妹のようなうれしそうな顔
病があっても
愉しいこと面白いことに前向きだった
大きな船で神戸港にやってきたときは
わたしは港に迎えに行って
跳ねて船に手をふったっけ
最後に会ったのは駅の喫茶店
スイカジュースを注文して
ちょっとうすいと言いながらのんでいた
そのあと じゃね と
あっさり改札の人混みにまぎれた
いつも何の話をしていたのだっけ
話の中身はちっとも思い出せないけれど
美味しいとかまずいとか言いながら笑ったり
すっぱい顔をしたり
そんなことばかり思い出す
わたしの中のゆみちゃん
さいごのさようならは 言わないね
そうしてよ
それでいいんだよって
空のむこうから言っている気がするから
※詩誌「爪」146号
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