夏の思い出
吉川葉子
歌手の方がずらりと並んで
「夏の思い出」の歌がはじまった
ああ いっしょによく歌った
車椅子を押して散歩するときや
食事の前にちょっと歌う? というとき
ベッドで横になっているときでさえも
わたしが歌い始めると
母もいっしょにかならず歌った
多くのことを忘れていっても
母のなかにはいつも
歌があふれているようだった
たくさん
たくさんいっしょに歌って
ほんとうにたのしかったね おかあさん
舞台から響く
光のように美しい歌声に包まれて
ぼんわりと舞台が滲む
※詩誌「爪」146号
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