山下泰春

〈アレ★Club〉代表。編集、翻訳、コラムやエッセイの執筆、校正など文章にまつわる業務…

山下泰春

〈アレ★Club〉代表。編集、翻訳、コラムやエッセイの執筆、校正など文章にまつわる業務が一通りできます(仕事ください)。英語・独語・ノルウェー語が使えます。RTA走者。HP→https://are-club.com/ 依頼→yasuharu.are@gmail.com

マガジン

  • ドイツ文学翻訳記事まとめ

    主に現代詩の翻訳。

  • 『SeaBed』聖地巡礼記

    2016年に公開された同人ノベルゲーム『SeaBed』の聖地を巡った記録。同作を4周し、かつ1万6千字の論考を書いた一ファンが、作中CGから素材元を特定し、実際に訪れてみました。

  • エッセイ集

    身近なコンテンツを変な角度から覗いてみる試み(=エッセイ)。

  • ノルウェー文学翻訳記事まとめ

    日本でも珍しいノルウェー語の詩や散文等を翻訳したもの。

  • ヤーン・カプリンスキー

    エストニアの詩人、作家のJ・カプリンスキーの詩集(英語)を翻訳・解説紹介しています。

最近の記事

ロルフ・ヤコブセン「五月が窓に」翻訳

今、五月が窓にいる、  配管がゴロゴロと音を立てるのをやめる高層ビルの、 死者が運び出される病院の、 監獄では全日全夜、 五月が窓にいて、額の至るところから血を流し 鉄の手を君の心臓に添えながら その白い顔を覗かせている ―地球の春。 (Mai på ruten) ◆ 文フリ東京当日、会場近くのタリーズで即興で翻訳している。主題的にも五月中に訳したかったものなので半ば日記的にこれを記している。 タイトルは極めて叙情的な響きを備えているが、内容は極めて都会的で危うさを秘めてい

    • エンツェンスベルガー「空気よりも軽い」翻訳

      本日、エンツェンスベルガーが亡くなった。正確には11月24日が彼の命日とのことだ。先日93歳の誕生日を迎えたばかりだった。私自身、学部時代よりエンツェンスベルガーの研究を行っており、彼がきっかけでノルウェー語に興味を持つようになったり、数学の翻訳を行うようになったりしたので、彼との出会いが私の人生を変えたと言っても過言ではない。今一度、彼にこの日本の地から感謝するとともに、彼の詩の中でも特に好きな詩を添えて哀悼の意を捧げたいと思う。 空気よりも軽い 詩は特別 重いというわ

      • 『SeaBed』聖地巡礼記⑨福岡編

        今回紹介する聖地は、東京・大阪から遠く離れた福岡県である。しかし正直、聖地と言える聖地が本当に一箇所しかない。それが終章「旅立ち」より、貴呼と繭子が一緒に旅行に出かけるシーンに出て来るこの場所だ。 ここは、福岡は北九州にある門司港である。背後にある大きな橋を関門橋と言い、九州と本州を繋いでいる。正直、これまでの聖地の多くが関西圏(大阪・兵庫・岡山)であったことを考えると、この門司港はやや異質な位置にあると言えると思う。もしも港の写真だけが必要なのであれば、近くの神戸港でも良

        • 『SeaBed』聖地巡礼記⑧大阪編

          今回は大阪である。とはいえ、いわゆる「大阪らしい」聖地は一切存在しない。東京編と比較すると、正直訪れても地味な場所が多い上に、それぞれ条件が厳しく、あまりオススメはできない。とはいえ聖地は聖地なのでいつも通り紹介していく。大まかに言えば、大阪の聖地は三つの地域にまたがっている。一つは北摂、一つは大阪市北部、そして大阪市南部〜堺市の三つだ。 まず一つ目は箕面の大滝だ。七重が子供たちと触れ合うシーンで登場した。シーン自体はさほど長くはないが、七重の世話好きな部分がよく出ているシ

        ロルフ・ヤコブセン「五月が窓に」翻訳

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        • ドイツ文学翻訳記事まとめ
          9本
        • 『SeaBed』聖地巡礼記
          12本
        • エッセイ集
          7本
        • ノルウェー文学翻訳記事まとめ
          10本
        • ヤーン・カプリンスキー
          3本
        • ルイーズ・グリュック『野生のアイリス』私訳
          1本

        記事

          きりたんぽカレーのレシピ

          東京に越して来て約1ヶ月経ったが、ほぼ毎日カレーを作っている。先日はカカオチョコレートを入れたチョコレートカレーを、また別の日は鶏もも肉をビールで煮てカレーにしたビール煮カレー……と、創作系カレーを楽しんでいるが、今日作ったカレーが会心の出来だったため、一応レシピを残しておく(飲酒しながら作ったのでやや怪しい部分もあるが)。東北に何度も通っている友人曰く「きりたんぽの一番美味しい食べ方」との評は頂けたが、秋田どころか東北に一度も行ったことがない人間なので、きりたんぽの美味しい

          きりたんぽカレーのレシピ

          『SeaBed』聖地巡礼記⑦東京編 Part2

          東京編Part2である。アメ横だから上野……という訳ではなく、ここは御徒町から降りる。というのも、聖地と思われる場所は御徒町側にあり、そのまま歩いてアメ横を抜け、上野動物園へ向かった方が効率的だからだ。東京へは何度か来たこと自体はあったが、観光は神保町以外したことがなかったため、単純に(中野もそうだったが)人の多さや賑わいっぷりに驚かされた。 大阪もそうだったが、東京も景観の移り変わりが早い。車で遠くへ行くときと同じく、目印にするものは公共施設などの、なるだけ長く残っていそ

          『SeaBed』聖地巡礼記⑦東京編 Part2

          『SeaBed』聖地巡礼記⑥東京編 Part1

          前回の最後に「次回は大阪編」と書いたが、色々とあって東京となった。大阪と異なり、東京編の描写は作中でもしっかりと移動の経路が書かれており、かつほとんど全てが「Tips Ⅱ. 二度目の旅 ランドスケープイマージョン」に収まっている(例外はTipsⅢの「思い出」より「アプリコット」および「ウォーターゲーム」だ。ここでは佐知子と楢崎の東京でのやり取りが描かれている)。こうした経緯もあり、先に東京編を書くことにしたが、実はこのTipsⅡというのが非常に厄介なものとなっていることに、書

          『SeaBed』聖地巡礼記⑥東京編 Part1

          ポール・ヴァン・オスタイェン「形而上学的ジャズ」翻訳+解説

          形而上学的ジャズ(Metafiziese Jazz) 破砕した     バイオリン 舞台上の     ダンスミュージック 折-   られたバイオリン まるで前にいる   変装した踊り子のよう 主は我が人生   いつも   バンジョーを   携えて 主は我が人生   クラクション   ドラム   馬鐸   ブローニュの森   動物園   ドイツ製 ゲットーのチャイム 主は我が人生   シオンの門を   破るための   ガリツィアの   ユダヤ人ジャズバンド イェリコの薔薇 主

          ポール・ヴァン・オスタイェン「形而上学的ジャズ」翻訳+解説

          『SeaBed』新作発表について

          先日、『SeaBed』の翻訳・移植版に関わっているFruitbat Factory社より、本作のオリジナルオーディオノベルコレクションが今冬発売されるとの発表があった。予定通り発売されれば、2020年3月19日に『SeaBed』がSwitch版に移植されてからおおよそ3年近く経ってからの新作ということになる。そもそも、本作が最初に発表されたのがDLSite版の2016年の1月ということを踏まえると、6年の歳月が流れたことになるが、今でも『SeaBed』は多くの―人によっては何

          『SeaBed』新作発表について

          翻訳不可能な「日本語」とは?/Unübersetzbare japanische Wörter

          翻訳は、楽しい。原語と突き合わせて意味を汲み取りつつ、日本語に落とし込むときにどう創意工夫するか、という意味で編集的な側面も含まれているからだ。とはいえ翻訳に困る「言葉」も無数に存在する。例えば擬音や造語、あるいは日本語になっていない動植物など様々だが、「翻訳不可能な『言葉』」といったトピックは、結構色んな場所で見たり聞いたりする(まあそれを知ったところで居酒屋の与太話以上の何かに特段なりうるわけでもなく、雑学の一種として処理されて終わるのだが…というか、言葉に関する問題って

          翻訳不可能な「日本語」とは?/Unübersetzbare japanische Wörter

          コミュニケーション能力の起源について(2)―ユルゲン・ハーバーマス編

          前回は言語学分野から「コミュニケーション能力」について見てみたが、今回はチョムスキーの術語に由来する Competence という用語を用いて、実際の社会学や討議理論へと昇華させたハーバーマスの思想を検討しよう。三島憲一はこの「コミュニケーション能力」の由来をハーバーマスにあるとしている(『岩波 哲学・思想事典』当該項目参照)が、実のところハーバーマスは、『コミュニケーション的行為の理論』の本文中では kommunikative (communicativeのドイツ語)という

          コミュニケーション能力の起源について(2)―ユルゲン・ハーバーマス編

          コミュニケーション能力の起源について(1)―言語学編

          コミュニケーション能力。最近だと「コミュ力」、あるいはそれが欠如しているという意味で「コミュ障」と略され、あまりに気軽に使われ過ぎているこの言葉は、そもそも一体いつどのようにして生まれたのだろうか? 端的に言えば、起源は二つあると思われる。一つは、アメリカの言語学者ノーム・チョムスキーが1965年に発表した『文法理論の諸相』で用いた「言語能力」という術語。そしてもう一つが、ドイツの哲学者ユルゲン・ハーバーマスが1981年に上梓した『コミュニケーション的行為の理論』である。ハ

          コミュニケーション能力の起源について(1)―言語学編

          将棋の駒の辛辣な海外名称

          ◆だいたいは分かるけれど 突然だが、皆さんは将棋の駒が他の言語でどう呼ばれているかご存知だろうか? まあ、言ってしまえばそもそも将棋の海外名称が Japanese chess であり、チェスと同じく将棋も古代インドのチャトランガという遊びが起源とされていることからも、チェスでの名称がほぼそのまま流用されている。 したがって、王将は King(キング)であり、飛車は Rook(ルーク)、角行は Bishop(ビショップ)、桂馬は Knight(ナイト)、歩兵が Pawn(ポ

          将棋の駒の辛辣な海外名称

          『SeaBed』聖地巡礼記⑤須磨海浜水族園編

          今回紹介するのは、2024年春にリニューアルオープンするというスマスイ(須磨海浜水族園)である……のだが、老朽化により、2021年4月から本館以外の施設が全て解体工事されているため、現在も絶賛改装工事中である。そして先に『SeaBed』の聖地を挙げてしまうと、リュウグウノツカイは本館3階の展示ゾーン、佐知子と貴呼が座って魚を眺めるCGは「世界のさかな館」、そしてデンキウナギの放電は、「さかなライブ劇場」の三か所である。そのため、現地に行っても現在見られるのはリュウグウノツカイ

          ¥100

          『SeaBed』聖地巡礼記⑤須磨海浜水族園編

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          アルヌルフ・エーヴェルラン「家の表札」翻訳+解説

          家の表札 人に伝えるのには向かない 人生における幸福がある。 それは君が人を幸せにすること それが唯一の喜び。 誰の涙でも軽くはできない 世界の悲しみがある。 それに君が気付いたとき もう手遅れだった。 誰も残された時間を知らない、 墓のそばに立って愚痴を零す。 一日には多くの時間があり 一年には多くの日がある。 (原題:En hustavle) ◆解説 この詩は1929年に、ノルウェーの国民詩人であるアルヌルフ・エーヴェルラン(1889-1968)によって書かれ

          アルヌルフ・エーヴェルラン「家の表札」翻訳+解説

          『SeaBed』聖地巡礼記④岡山県編

          今回巡ったのは、岡山県の北東部に位置する「知和駅」だ。作中では、本作の舞台となる旅館(療養所)へ行く際に佐知子が利用した無人駅として描かれているが、元々は『のんのんびより』の聖地として有名らしい(私は同地に着いてから知った)。 駅に訪れてみると、昭和6年の開業当初と変わらない駅舎が待ち受けていた。中には古びた交流ノートが置かれており、ページをめくると同作のファンアートが描かれていたりと、これだけでも一抹の旅情を醸し出していた。 駅付近を歩いていると、ちょうど列車が到着する

          『SeaBed』聖地巡礼記④岡山県編