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『SeaBed』聖地巡礼記④岡山県編

今回巡ったのは、岡山県の北東部に位置する「知和駅」だ。作中では、本作の舞台となる旅館(療養所)へ行く際に佐知子が利用した無人駅として描かれているが、元々は『のんのんびより』の聖地として有名らしい(私は同地に着いてから知った)。

第二章「寂れた駅舎と古い車」より。
第八章「安ホテルと喫茶店」より。比較してみると、画面手前の水溜まりが気になった。
JR因美線の知和駅。

駅に訪れてみると、昭和6年の開業当初と変わらない駅舎が待ち受けていた。中には古びた交流ノートが置かれており、ページをめくると同作のファンアートが描かれていたりと、これだけでも一抹の旅情を醸し出していた。

漫画は1巻から8巻まで置かれていた。

駅付近を歩いていると、ちょうど列車が到着する時刻になった。列車から女子高生が一人降りてきたかと思うと、そのタイミングで車が一台迎えに来て、颯爽と駅を後にした。この駅の位置を見てもらえれば分かるが、確かに駅付近には本当に何もないため、他県から行く場合は車以外で訪れるのはほぼ不可能だろう。

©️Google Mapより。
第二章「寂れた駅舎と古い車」より。
同じ画角は撮れなかったが、ここから撮ったものだろう。
4枚ある駅素材のうちの1枚。余談だが、青いベンチは駅構内にはなかった。
駅舎もホームも、ほぼ同じ状態で残されていた。
ホームを逆側から見た景色。

また、作中のように「山を登ると(中略)サイドドアの窓から港町を見下ろすことができた」と言えるほどの場所ではない。したがって、知和駅はあくまで無人駅のイメージとして適例だったため用いられた素材であるとは言えるだろう。とはいえ実際に車で送迎する様子を目の当たりにできたのは、やはりどこか胸を弾ませるものがあった。

駅員も、熊のキーホルダーを売っている売店も存在しない。
内装が一部変わっているが、雰囲気はそのまま。

余談になるが、『SeaBed』の聖地を巡って分かったことがある。それは、作中で電話をするシーンがあった場所には、ちゃんと電話機があるということだ。洋館(診療所)と駅舎にある電話は、実際に存在している。これは洋館と駅舎というそれぞれの場所柄から推測できることかもしれないが、どちも電話が残されているのは驚きだった。

駅から旅館に電話をかけるシーン。
非常用電話。ダイアル式かどうかは分からない。

ちなみにこちらも余談だが、、実はメディア論的には「電話」は元々死者の声を聞くために開発されたものである。もちろんそんな古めかしい話をしても『SeaBed』解釈の糧にはならないだろう。が、本作の重要なモチーフである「日記」が、記録ではなく記憶を残すために用いられるメディアであることを考慮すると、死者の声を聞くためのメディアという起源を持つ「電話」もまた、『SeaBed』で大きな役割を果たしていると言えるのではないだろうか。

駅舎の出入り口。これが佐知子が電車を降りて最初に見た景色、ということになる。
駅前。文字通り「なにもない」場所だと言えるだろう。

次回はおそらく、須磨海浜水族園になる。しかしこの「スマスイ」は、現在絶賛リニューアル工事中である。そのため、佐知子と貴呼が見たという「竜宮の使い」や「電気ウナギ」は見ることができない。とはいえ、スマスイ自体が作中で果たす役割はそこまで大きくはない(むしろ今までの洋館や廃線跡、異人館が大きすぎただけとも言える)。むしろ、スマスイが描かれる「日記」というメディアの方が重要だろう(実際、この日記の日付がバラバラであるということが直前で示されていたりする)。そのため、完璧な聖地巡礼……とは言えないかもしれないが、「言われてみればそういうシーンもあったな」と思わせる装置が『SeaBed』の醍醐味の一つだと思うので、興味がある方は行ってみてもいいだろう。

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山下泰春
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