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連載小説《アンフィニ・ブラッド》第4話

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 北影通り。別名「ノーザンシャドウ」とも言われている通りだった。周りをレンガ造りの建物に囲まれ、滅多に人が通らない。ひったくりや傷害事件、さらには殺人事件も多発するような危険な場所だ。
 部屋を飛び出して走るアンジュは、狭い路地に入った。速度を落とさず、ひたすら走った。
 道が少し広くなった。アンジュは立ち止まって息を整える。部屋から北影通りまでは約五百メートル。全速力で走ってきたものだから、さすがにアンジュの息も切れてしまう。
 自分の荒い呼吸に混じって、誰かの悲鳴が聞こえた。反射的に、アンジュは壁に隠れていた。
 視線の先には女が倒れていた。長く、美しい髪。見覚えのある白のノースリーブに黒のスキニー。
(シオンさん!?)
 すぐに駆け寄ろうとしたアンジュだったが、その足を止めた。倒れたシオンの前には見知らぬ男がいたのだ。いつもの強気とは違い、何かに怯えながら痛みに呻くシオンのその表情を見て、アンジュは只事ではないと察した。緊張感を抱いたまま、ふたりの会話に耳を澄ませる。
 
 *

 オレンジ色の街灯が怪しく灯る北影通り。右腕と左足を銃で撃たれ、息も絶え絶えで地面に倒れているシオンに男が近づく。
「お前……本当に俺から逃げられるとでも思ってるのか」
 シオンは答えられなかった。痛みが鋭く、耐えるのに精一杯だった。今にも血が滲みそうな程に下唇を噛む。息を荒くして、鋭い痛みを堪え、シオンは言葉を紡ぎ出した。
「逃げてみせるわ……。あなたに殺されたりなんて……絶対に、しないわ」
「……言いたい事はそれだけか」
 男は、氷のように冷たい視線をシオンに向ける。
 その瞬間、シオンは持っていたナイフを男に向かって投げつけた。ナイフは男の左肩を刺す。
「うっ!」
 男が銃を落として呻いている隙に、シオンは再び駆け出した。走る度に、撃たれた左足がズキズキと痛む。しかし立ち止まっている暇などない。
(逃げなきゃ……!)
 男の視界から消えるように角を曲がり、ヨロヨロと走り続けるシオンだったが、前方に立ち塞がる人影を見つけて思わず立ち止まった。
(そんな……もう追っ手が来たっていうの!?)
 絶望のあまり、シオンはその場に力なく座り込んでしまった。歯はガチガチと鳴り、身体の震えが止まらない。
「見つけたぞ」
 突如現れたその人影の声が、死刑宣告のように聞こえた。
(いや……誰か助けて……!)
 シオンは俯き、祈るように固く目を閉じた。


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