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夏に行きたい「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」@東京ステーションギャラリー



改札から数歩で行ける美術館

 あまりに暑い。暑い。暑い……!
 外で過ごすのが危険だと言われ続ける夏がやってきましたね。せっかくのお休みなのに出かける場所が限られる……とお悩みの方におすすめしたいお出かけ先があります。

 それが、東京ステーションギャラリー。なんと、JR東京駅 丸の内北口改札まで辿り着けさえすれば数歩で到着する最高のロケーションにある美術館。まさに暑い夏にぴったり。外を歩く時間がゼロのは本当に有難いですね。

公式ホームページ「アクセス」より。丸の内北口改札に辿り着けば、日差しも雨も怖くありません。
展示を見終えると、丸の内北口改札が見える回廊に辿り着きます。美術館入り口は改札を出てすぐ右。近い!


夏の展示はフォロン

 2024年の夏、7月13日(土) - 9月23日(月)の会期で開催されている企画展は「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」。じめじめする日本の夏に爽やかな暖かみとざわつきを届けてくれる展示です。
(なお、本展示は撮影NG。先述の回廊にフォトスポットがあります)

ポスターに使われているような水彩画を中心に、アニメーションやドローイング、彫刻等が鑑賞できます。

 ジャン=ミッシェル・フォロンは1934生まれ2005年没のベルギーのアーティスト。お恥ずかしながら、私はこの展示のお知らせを見て初めて彼のことを知りました。
 現代のヨーロッパを生きた彼が見せてくれる世界は、時代も国もわからなくなる不思議な浮遊感に満ちています。

 展示の構成は、プロローグ・エピローグを含む5部構成。

プロローグ 旅のはじまり
第1章 あっち・こっち・どっち?
第2章 なにが聴こえる?
第3章 なにを話そう?
エピローグ つぎはどこへ行こう?

公式ホームページより

 この章立てを見るだけでも、想像が膨らんでワクワクしませんか? 彼が『空想旅行エージェンシー』という肩書を使っていたというエピソードも含めて、心躍る言葉が溢れる展示。空や宇宙、SFやファンタジーがお好きな方にはかなりおすすめです。


ジャン=ミッシェル・フォロンの魅力

 今回の展示で初めてフォロンに接した私が、彼の作品の魅力を書き記すなんておこがましいのですが……。素人の私が特に印象深く感じた要素を綴ります。

1)色味とモチーフ

 ジャン=ミッシェル・フォロンの作品に接した時、一番に目に飛び込んでくるのは豊かな色彩。淡いグラデーションやあえて滲ませた色使いは本当に美しくて、広い空で繰り広げられる夕焼けをぼんやり眺めているような気持ちになります。

 私がジャン=ミッシェル・フォロンの展示に足を運んだのは、第一印象の色味に惹かれたから。そして実際に作品を見て、その思いは確かなものに変わりました。

 展示室に足を踏み入れると、どうしても特定の作品の前に向かって歩いて行くことが多いと思います。でも、ぜひ今回の展示では展示室全体を見渡して下さい。会場に溢れる色、色、色、色……! 森林浴並みに効きそうな豊かな色彩が、あなたを出迎えてくれます。

 そんな美しい色合いを使いつつ、たくさんの矢印や正体不明のリトル・ハット・マン(長いコートと丸い帽子が特徴)といった少しシュールなモチーフを多用しているところが大変魅力的でした。

チケットに使われているのは矢印を用いた作品。

 👇の投稿にある帽子をかぶった誰かは、なんとなくルネ・マグリットの作品を思い出しますね。

 こちらがルネ・マグリットの代表作「ゴルコンダ」👇題名は知らなくても見たことはある、というかたも多いのでは。

 ところで、私は以前、こちらのエッセイで異形頭(人の体に人ではない頭がついている存在)が好きというお話を綴りました。

 そんな私のテンションをほんのり上げてくれる彫刻を、フォロンも作っていました。「〇番目の考え」という高さ20cmほどの作品です(〇にはそれぞれ数字が入ります)。東京ステーションギャラリーでは、このタイトルがついている作品は14作品展示されていました。

 頭が植木鉢だったり謎の形だったりする人が、後ろで手を組んでまっすぐ立っている作品たちです。フィギュアがあったら思わず買ってしまいそうな、いい感じの異形頭を見られて大変嬉しかったです。

DROUOTページより

2)現代のアーティストが描く戦争と人権

 ジャン=ミッシェル・フォロンは、私たちとほぼ同じ時代を生きたアーティスト。だから彼は、ある意味でとても現代的なモチーフを扱いました。戦争と人権です。

 夢のように美しい景色を描く一方、ジャン=ミッシェル・フォロンはこうしたシリアスなテーマの作品を手掛けていました。かなり直接的にミサイルや特定の国を表現した作品も多かったです。
 淡く透き通った心踊る空想旅行を描く筆が、同じように戦争を描く。それはとても残酷なことです。彼の筆が、ワクワクするものや美しいものだけを描く穏やかな世界であればよかったのになぁ……。

 👇の投稿左下に写っているのは、『世界人権宣言のための挿絵原画』。
 文章で書かれていても読まれないだろうと考えたジャン=ミッシェル・フォロンは、世界人権宣言の内容を絵に起こしています。

 今回の展示では、谷川俊太郎による日本語訳の『世界人権宣言』と一緒にジャン=ミッシェル・フォロンの挿絵原画を鑑賞できます。やわらかい語り口で紡がれる、全ての人にとって大切なもの。その尊さが、彼の挿絵を通して伝わってきました。重苦しいタッチではない分、描かれているものの深刻さ・重要性・脆さを感じる……。

 そして同時に、これらすべてが守られた状態ではない環境・社会に置かれている現代の愚かさや醜さも痛感した次第です。

 日本に居ると、夏に戦争や平和について思いを馳せるのはごく自然なことでしょう。ジャン=ミッシェル・フォロンの作品を通して、夏に戦争や平和、人の尊厳について考えるのも必要なことだなあと思いました。

 フォロンはポスターや雑誌といったメディアの仕事も多く手掛けていた人。そうしたメディアが人に訴えかける力があると信じていました。新聞のように一日で捨てられてしまうものでも、人の目に触れることに意味があると信じていました。
 彼が信じた通り、私もジャン=ミッシェル・フォロンの作品からなにかを受け取れたことが少しうれしかったです。


わくわくするミュージアムショップ

 展示鑑賞後は、ミュージアムショップで鑑賞の余韻に浸れる何かを探すのも美術館へ足を運ぶ楽しみの一つ。東京ステーションギャラリーでは、先述の回廊を抜けたところにミュージアムショップ TRAINIART(トレニアート)があります。

 今回の展示「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」関連のグッズは、図録やポストカード、クリアファイル等が数多く展開されていました。(👇が今回の展示の図録です。)

 数々のグッズの中で私が購入したのはポストカード。余白がないポストカードは珍しいので、嬉しくなってついついたくさん手に取ってしまいました。さらっとした紙に印刷されているので、発色や質感がとてもいいです。

 色んな美術館でポストカードを買ってきましたが、「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」のポストカードはかなり上位に入る作品の再現度だなと感じました。もちろん原画に勝るものはありませんが、手元で見るにはかなり満足度が高いです。作り手の方々はかなりこだわったのでは……?

ポスターに使われていたビジュアルもあります。

 また、こちらのジャン=ミッシェル・フォロン関連の書籍も販売していました。Book1は2024/6/14、Book2は2024/7/19刊行という新しい本で、展示の鑑賞前後のお供に良さそうでした。気になる……。

 また、東京ステーションギャラリーのオリジナルグッズもいろいろありました。みんな大好きSuicaペンギン、電車や駅といったモチーフのものが多めなのは、さすが東日本鉄道文化財団。
(Suicaペンギンがお好きな方にはこちらの思い出話もおすすめ👇)

 数あるオリジナルグッズの中で私が気になったのはこちら。駅で見たことがあるあの駅員さんのポストカード……!

こちらはざらっとした肌触りの紙に印刷されていて、どこかレトロな雰囲気。好きです

 東京ステーションギャラリーならではのミュージアムショップ、規模はそれほど大きくありませんが、かなり長居をしてしまいました。


終わりに

 猛暑、酷暑の夏におすすめの展示「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」は東京ステーションギャラリーにて2024年7月13日(土) - 9月23日(月)の会期で開催。

 最新情報は公式サイトをご確認の上、ぜひ足をお運びください。素敵な世界をたくさん吸い込んで、この夏を乗り切りましょう。


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© 2024 Aki Yamukai

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