神山やみか

文章を書く練習をしています。一生練習のまま終えられたら幸せです。架空の古書店『神山堂』…

神山やみか

文章を書く練習をしています。一生練習のまま終えられたら幸せです。架空の古書店『神山堂』の店主をしています。

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最近の記事

本とテーマソング 一箱古本市に添えて 後編

前編の続きです。 変身のニュース 宮崎夏次系 テーマソングは 光暈(halo)/君島大空  ※第四話 「ダンくんの心配」について  過ぎて知ることが多過ぎて、死ぬまで自分は成長し続けるんじゃないかと思うことがある。というか死んでからも成長し続けるんじゃないかと思うことさえある。死んでからも好きな人のことを心配できるような人生。羨ましい。 ダリアの帯 大島弓子  テーマソングは Alone Again/Gilbert O'Sullivan  それともう一曲 ひこうき

    • 本とテーマソング 一箱古本市に添えて 前編

       読書好きの方であれば、音楽を聴いた時に「あれ? この曲、あの物語と合いそうだな」と思ったことがあると思う。少なくとも私にはそう言う経験があって、あの解像度がジワっと広がったような感覚が気持ちよかったりする。  今回の一箱古本市は、あのジワっとした感覚をほんの少しでもお裾分けできたら、というコンセプトで出店させて頂いている。 ボクたちはみんな大人になれなかった 燃え殻 テーマソングは あの頃/さよならポニーテール https://www.nicovideo.jp/wat

      • 本についてつらつらと 古本市に添えて②

        ○ しあわせになりたい 売野機子  音楽が好きな人間にとって一番苦しいことってなんだろう。私にとって一番苦しいのは「自分が死んだ後に生まれる音楽が聴けないこと」かな、なんて思う。  かの啓蒙思想家、J・J・ルソーは人間の自然状態を「自己愛と憐れみの情を持ち平和な状態にある」と考えた。文明の発達によって人間は利己心に支配され自由を喪失してしまったとも言った。  自分が死んだ後の音楽。科学技術が進化した22世紀ではきっとAIが音楽を作っているんだろう。そして人間自身はきっと進化

        • 本についてつらつらと 古本市に添えて①

          ○機龍警察シリーズ 月村了衛  世の男の子の大半が大好きであろうロボットアニメ。小さな頃の私はそういったロボットアニメが嫌いだった。  とにかくひねくれていて一回転して前を向いているようなガキだった私は、父の本棚にあった浅田次郎を読み、ディープパープルを聴いて過ごしていた。そんな私は子どもが見るようなロボットアニメを馬鹿にしていた。  そんな孤高な子どもでもやはり寂しさは感じるもので、小中学生の頃は友達の話すガンダムの話題について行けずにどこか孤独感を感じながら過ごしたもの

        本とテーマソング 一箱古本市に添えて 後編

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        • yamiの創作
          3本
        • しょくざい
          2本
        • 東京雪
          2本

        記事

          一箱古本市に出ます。

          お久しぶりです。神山堂店主の神山です。 早速ですが、4/30(土)に開催される「不忍ブックストリートの一箱古本市」に出させて頂けることになりました。 本好きの方はもちろん、普段はあまり読書はしませんよ〜という方でも楽しめるようなイベントになってますので、お時間のある方はぜひ遊びに来てくださいませ。私は忠綱寺さんにて出展させていただきます。楽しい楽しい古本の世界があなたをお待ちしております。 神山堂としては、上記の「店主さん一覧」にあるとおり、音楽と本を繋げられるような何

          一箱古本市に出ます。

          再生

          さよならなんて

           街をひとり歩いている。靴のゴム底がペチャッと鳴ってアスファルトにかじりつく。すれ違う女性の左耳にイヤリングが揺れている。あの人のことを思い出す。    あの人と過ごした最後の夜。 「ねえ、将来の夢ってある?」  彼女がそう問いかける。窓の外では薄明かりに雪が舞っている。 「夢……夢なんてないけど、これからもあなたと一緒に過ごせたらって思うよ」  沈黙が訪れるまでの短すぎる瞬間、ただよう諦念の匂い。何か言おうと言葉を巡らせたけど、かけるべき言葉が見つからない。  私の気まずさを察したように彼女が口にする。 「あなたって、前は音楽が好きだったのに、今では私のことの方が好きになっちゃったんだね」    すすり泣く声。かける言葉はまだ見つからない。抱きしめてあげることさえできない。時計の秒針が時を刻み、この静寂を引き伸ばしてゆく。  さっきの彼女の言葉をただただ頭の中で繰り返す。 そうして朝が来る。 「じゃあ行ってくるよ」  振り返って彼女を見つめる。  その小さな鼻、薄い目、少し上を向いた唇、艶やかな黒髪が左耳を覗かせる。  見覚えのないイヤリング。 「いってらっしゃい」 「うん、いってきます」 さよならは言いたくなくてそんな言い方になった。昨日の雪が街並みを染めて、私の新たな門出を祝福しているようにすら見えた。  なんという白々しさだろう。    昔、付き合っていた人がいた。三年ほど同じアパートに住み、そして別れた。物語にすらならないよくある出来事。どこでどう知り合ったとか、どんなふうに過ごしたとか、そんなことはわざわざ書く程でもない取り留めのないもの。  私は今、ギターを弾いている。日々何かに追われ悩みながら、あなたとの思い出を反芻するように。

          さよならなんて

          再生

          さよならなんて、まだ云えない

           日々、生きているだけで心に膿が溜まる。空虚な私の内側で膨張し続ける。行き場のない焦燥、寄る辺のない寂しさ、育つ劣等感、思い出すのはあの冬の日の憧憬。  ただ膿を吐き出したくて始めた音楽なのに、今では「いいものを作らなきゃ」、「早く出さなきゃ」、「待っている人がいる」、そんなことを考え出す始末だ。私はこんなにおこがましい人間だっただろうか。一体なんのためにやってたんだっけ。  街をひとり歩いている。靴のゴム底はペチャと鳴って道路にかじりつく。すれ違う女性の左耳にイヤリング

          さよならなんて、まだ云えない

          しょくざい 3

          以下の記事の続きです。 3  アクアリウムショップで姉さんは金魚を眺めていた。そいつは眼球が肥大した奇妙な形相をしているけど、ひれが蝶のようにひらひらと揺蕩って妙な神秘性を醸し出している。私は床にしゃがみ込み熱心にそれを眺める後ろ姿にむかって問いかける。 「ねえ、ほかにいくらでも魚はいるのに、どうして金魚なんて眺めてんの?」  返事はない。朝と同じだ。姉さんの言いたくないことを私はそれ以上追求しない。でも今日に限ってはいつもと違い、姉さんは何かを決心するようにその先を

          しょくざい 3

          しょくざい 2

          以下の記事の続きです 2  ポケットからキーを取り出して、愛車であるミラジーノのドアを開けてふと思い出す。その馴染んだシートの感触に背中を包まれると記憶が少しずつ鮮明になっていく。今の姉さんではない、ずっと昔のまだ小さかった頃の姉さん。金魚、月明かり、陸で溺れる姉さん……イメージが頭の中を駆け巡る。 --私はもしかしたら魚の生まれ変わりなのかもしれないわね--  遠い記憶がフラッシュバックし、心臓の鼓動がうるさいほど響いてエンジンと共鳴する。 「まいったねこりゃ」

          しょくざい 2

          夕映に染む

           また、この季節がやってきた。  あの日と同じ場所。ポケットにしまった文庫本。空を見ると鳥が一羽、宙を舞うのが見える。  ねえ、夏葉、あなたが死んでもう三年が経ちました。  制汗剤の匂い、涼しい風の匂い、夏のお日さまの匂い、甘いパルプの匂い、眩しい夢の中は色々な匂いで満ちている。あなたのいないこの世界と同じように、懐かしい匂いで満ちている。  気楽なあなたは記憶の彼方、上澄を掬えば救いとなる。  ねえ、夏葉、私だけのこの唯一無二の感情を歌にする勇気をくれたのは、あな

          夕映に染む

          夕暮れの街をあなたと歩いた

          夕暮れの街をあなたと歩いた。 路地裏で猫が寝転んでるなんて冗談を言ってあなたは笑っていた。 そんな当たり前が続くと思っていた昨日の私に、さようならをした。 夕暮れの差し込む一人の部屋であなたの笑顔を真似してみた。 ぎこちなくてなんだか笑えた。 あなたの置いていった歯ブラシに水滴が少し残っていて、差し込む夕日を反射していた。 それは一体誰の涙? すれ違いや諍いだって思えば小さいことだって正当化したって自分は騙せない。 私はそんなのもうわかる大人だ。 でも、今日

          夕暮れの街をあなたと歩いた

          東京雪 2

          下の記事の続きです。  夜の公園、並んで見上げる星空、今、僕たちの目の前に広がっている風景。明日地球が滅んで僕たちが死んでもこの星空は残り続ける、そう言い聞かせて刻み込んだ。何年経っても思い出せるように、君の歌声と一緒に。 「東京って空気が汚くて、夜でも星が見えないらしいよ」  君はそう言ってギターのチューニングを始める。スマホのアプリを立ち上げて弦を一本ずつ弾いてゆくと画面に表示された針が振れ、「ポーン」と無機質な音を立てる。世界の歯車が僕たちと噛み合う音だ。そう思わ

          東京雪 2

          しょくざい 1

           窓辺に置かれた水槽に金魚が一尾泳いでる。儚く揺蕩う尾ひれからはあなたの残り香が匂い立つ。窓枠が切り取った暖かな十二月の陽光に浮かぶのは、あなたの笑顔。  テレビでは今日も悲惨なニュースが流れている。血を吐いて倒れる人々、泣き叫ぶ人々。そうして生まれた見えない悪意を【死神】と呼んだ。こうして人々の中に敬虔さが芽生えた。  私は今日も祈る。死を司る神がその鎌首を私にもたげることを、次こそは自分の番であるように、と。  理不尽に死ぬことを願った、それが運命だって割り切れるか

          しょくざい 1

          最近読んだ本 『死にたくなったら電話して』李龍徳

          死にたくなったら電話して 李龍徳 「死にたくなったら電話してください。いつでも」。空っぽな日々を送る浪人生の徳山が、バイトの同僚に連れられて訪れた十三(じゅうそう)のキャバクラで出会った、ナンバーワンキャバ嬢の初美。世界の残酷さを語る彼女の異様な魅力の虜になってゆく徳山は、やがて外界との関係を切断していき——。 ミニマリストという言葉があります。最小限のもので暮らす人を表す言葉です。 人間は生きていると様々なものを抱えてゆきます。それは物質的なものであったり、人間関係であ

          最近読んだ本 『死にたくなったら電話して』李龍徳

          さよなら

          街は変わらない。あの神社も図書館も淡い思い出を写しとったようにそこにあって、ただあなただけがそこにいない。 朝日が昇り花は色づく。夕日は沈み影を落とす。その営みの中にわたしは生きている。 子どもたちは待ち合わせ場所に走っていく。もう日は傾いているというのに、そんなことお構いなしに夕日に向かって走っていく。 そんな背中を見ていると、わたしも走りたくなるのだ。どんなに嫌でも明日はやってくるのだから。 この、変わらない風景の向こうに行こうって思えたんだ。 さよなら、あなた

          最近読んだ本 『雨の降る日は学校に行かない』 相沢沙呼

          読んだ本の感想を備忘録的に書いていこうと思ってます。 読書は知識となり血となり肉となると言いますが、私自身、あまりそういう実感が湧かないんですよね。面白かった~うへへwで終わってしまうことが多いです。一年も経てば内容も忘れてるし。 なので簡単にでも自分の感想を書いていくことで多少なりとも自分の中に残して読書ライフが充実したものになればいいと思ってます。そしてこの感想を読んだ方が、この本読んでみたいと思ってくれたらなおのこと幸せですね。 というわけで書いていきます。 「雨

          最近読んだ本 『雨の降る日は学校に行かない』 相沢沙呼