本についてつらつらと 古本市に添えて②
○ しあわせになりたい 売野機子
音楽が好きな人間にとって一番苦しいことってなんだろう。私にとって一番苦しいのは「自分が死んだ後に生まれる音楽が聴けないこと」かな、なんて思う。
かの啓蒙思想家、J・J・ルソーは人間の自然状態を「自己愛と憐れみの情を持ち平和な状態にある」と考えた。文明の発達によって人間は利己心に支配され自由を喪失してしまったとも言った。
自分が死んだ後の音楽。科学技術が進化した22世紀ではきっとAIが音楽を作っているんだろう。そして人間自身はきっと進化していなくていまだにスマートフォンの充電に振り回されている。もしかしたらタバコくらいはなくなっているかもしれないけど。
そして「自己愛と憐れみの情」を捨てきれない人間はきっとVRゴーグルをつけてAIの作った音楽を聴き涙を流すんじゃないか、そんなことを考えながら文字を打っていたらこのスマートフォンの充電も無くなってきた。ああ、自由がほしい。
テーマソングは 2121/People In The Box と
それともう一曲 New Music Machine/Cornelius
○君の話 三秋縋
高校生の頃、私は不良だった、いや、不良にすらなれないただのボンクラだった。
勉強は好きではないし、人とも馴染めない、とにかく教室が息苦しくてよく授業をサボった。補導されるリスクなどを考えて学校から少し離れた神社で時間を潰すことが多かった。
そんなサボりのある日、いつもと同じように神社の石段を登ると聞きなれない音色が聞こえてきた。ギターの音色だ。境内で女の子がギターを弾いていた。
何を話しただろう、好きなバンドの話、将来の夢の話、学校での悩み。彼女も私と同じように学校に馴染めない一人だった。
彼女はミュージシャンを夢見ていた。境内に響き渡る澄んだ声。一つのイヤホンで同じ曲を聴いた。制汗剤の匂い、涼しい風の匂い。イヤホンを通して彼女の拍動が伝わってきた。
今、テレビで必死に笑顔を作る彼女を見てあの日のことを思い出す。この曲を聞くとあの拍動が聞こえてくるようで、ほんの少しだけ切なくなる。
また、今年の夏が始まる。同じ夏が繰り返される。
テーマソングは もうじき夏が終わるから/n-buna で
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