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しょくざい 2

以下の記事の続きです

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 ポケットからキーを取り出して、愛車であるミラジーノのドアを開けてふと思い出す。その馴染んだシートの感触に背中を包まれると記憶が少しずつ鮮明になっていく。今の姉さんではない、ずっと昔のまだ小さかった頃の姉さん。金魚、月明かり、陸で溺れる姉さん……イメージが頭の中を駆け巡る。


--私はもしかしたら魚の生まれ変わりなのかもしれないわね--


 遠い記憶がフラッシュバックし、心臓の鼓動がうるさいほど響いてエンジンと共鳴する。

「まいったねこりゃ」

 自嘲気味に一つ呟いて嫌に汗ばんだ手のひらををスキニーパンツで拭い、ギヤを1速に入れゆっくりとクラッチを繋いだ。

「アクアリウムショップだなんて、よく言ってくれたもんだよ」


 マンションのエントランス前で待っていた姉さんを迎え入れると、彼女は慣れた手つきでダッシュボードにあるCDを探る。ストーンズ、ドアーズ、クリーム、ビーチボーイズ、それら並んだロックバンドの名前は、私にはマヤ文明の遺跡に掘られた象形文字のように抽象的に見える。こう言うのもあれだけど姉さんの音楽趣味は相当に古臭い。音楽好きは得てして偏屈なものだけど姉さんは特にその傾向が強いように思える。私がそう苦言を呈すと姉さんはいつもその恍惚と憂いを帯びた瞳をもって言うのだ。「私は時のふるいにかけられたものしか聴かないの」。

 その束の中から一枚、その綺麗な指先が慈しみをもって取り出す。ジャケットでは派手な衣装に身を包んだ女性がソファで足を組み笑っている。ジャニスジョプリンのパール。

 音楽が始まると重厚なドラムのビートが車を揺らし、金属的な歌唱にギターのリフがユニゾンすると否応なしにハンドルを握る手に熱が入る。何度も聞かされた曲だけど、何度聞いてもまあ悪くない。

「なかなか悪くない選曲だね。特にドライブには最適だ」

「あら、あなたも言うようになったわね」

 アクセルペダルを踏み込むと車はグッと加速し、街並みが私たちを残して後ろに流れて行った。


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