最近読んだ本 『死にたくなったら電話して』李龍徳

死にたくなったら電話して 李龍徳

「死にたくなったら電話してください。いつでも」。空っぽな日々を送る浪人生の徳山が、バイトの同僚に連れられて訪れた十三(じゅうそう)のキャバクラで出会った、ナンバーワンキャバ嬢の初美。世界の残酷さを語る彼女の異様な魅力の虜になってゆく徳山は、やがて外界との関係を切断していき——。

ミニマリストという言葉があります。最小限のもので暮らす人を表す言葉です。
人間は生きていると様々なものを抱えてゆきます。それは物質的なものであったり、人間関係であったり、社会的な地位であったり、お金であったり。人はそれらに縋り、それらで武装します。そして、それらを守るために生きていくことになります。

生きるって、長生きするって、そうして塵がつもってゆくこと。そんで私は塵を金の粉と無理やり思い込むのは嫌やし、塵は塵やって言っときたい。人生経験なんて塵でしかない

幸せと不幸せの間に保存則はありません。不幸を幸福で打ち消すことはできないのです。澱のように溜まっていっていつか心を破裂させます。それならいっそ、そんなものは持たない方がいい。それらを捨て去って、何も求めず、何も感じず、死んだように生きていくのが一番なのかもしれない。いや、生きることすら本当は無駄なことなのかもしれません。

だって、あらゆる欲求の綺麗になくなんのが、ある意味、理想やないですか?
食欲なんてはっきり言ってダサいし、キモい。食欲はキモいです。性欲も、身も蓋もない言い方すれば、みっともないし。どう言い繕おうと言い飾ろうと、見られて恥ずかしいものなんやし。だから全部涸れたらいいんですよ、涸れたら

初美は破滅願望や希死念慮のメタファーです。その魅力に抗えない徳山はどこまでも虜になってゆきます。いままで培ってきた人間関係を捨て、バイトもやめ、初美と自分だけの世界に閉じこもってゆきます。何もかもを捨て、彼は正真正銘のミニマリストになってゆくのです。

物語の最後、バイトの先輩だった女性からメールが届きます。彼女は職場でのパワハラに耐えきれず鬱病を発症するのですが、周りの人たちの助けもあり無事職場に復帰できた、という人です。彼女は自分の経験を踏まえた上で、希望を持って生きていくことを徳山に説きます。
この女性のように希望をもって一日一日を生きてる人は多いでしょう。私自身もそうです。その小さな希望は初美の無慈悲な返信によって砕かれます。

「どうせ死ぬくせに辛いなんておかしいじゃないか」

死は魅力的です。人間は死に向かって生きてる、いわば最後の到達点。だから、こういう悲劇が魅力的に映るのかもしれません。




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