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日曜日の讃美歌

◇◇ショートショートストーリー

美幸はここ最近少しもいいことがありません。昨日はお気に入りの皮のバッグを電車の改札に引っかけて、傷がついてしまい、数日前は買ったばかりのパナマの帽子を風に飛ばしてしまいました。

何より残念なことは、可愛がっていたハムスターのシルビアが亡くなったことです。

シルビアは独り暮らしの美幸を随分慰めてくれました。毎日出かける時に、無邪気な顔を眺めながら元気を貰って、職場に向かっていたのです。都会で独り暮らしの美幸には家族のような、時には恋人のような存在でした。

シルビアとの出会いは、半年前です。派遣社員として勤務先のホームページ作成を担当していた美幸が、表記するアドレスを間違えてしまって、上司から大目玉を喰らった時に、癒しを求めて立ち寄ったペットショップで出会ったのです。

そのつぶらな瞳が、いつも自信なげな自分のように見えたのかも知れません。「この子を連れて帰らなきゃ」そう思って、シルビアを飼うことにしました。

美幸は派遣社員ゆえの肩身の狭さや、将来への不安をシルビアと分かち合っている気分でした。シルビアがいた半年間は、独り暮らしの寂しさはほとんど感じなくなっていました。

シルビアとの仲がいっそう深くなったある日、ホームページに掲載する電話番号をミスした美幸は上司から、こっぴどく叱られて落ち込み、大切なシルビアの世話をするのを忘れていました。
休み明けの朝、ゲージを覗くとシルビアがぐったりしています。すぐに水と餌をあげましたが、結局、亡くなってしまったのです。

「私は、何をやっても上手くいかない、仕事も、恋愛も、その上、大切な友達のシルビアまで死なせてしまって、私は何の取り柄もないんだわ・・・」
そう思いながら、マンション近くの教会を通りかかった時、美幸はチャペルから流れてくる歌声に、立ち止まりました。

教会から、讃美歌が聞こえてきたのです。その清らかな歌声が美幸の乾ききった心を優しく潤してくれて、暗い気持ちに、光が差しました。

それはちょうど日曜礼拝の日でした。

「私、宗教を信じているわけでもないのにどうしてこんなに、安らかな気持ちになるんだろう」そう思うくらい癒されたのです。
美幸は翌週も教会の近くで讃美歌を聞いていました。

その歌声で心が軽くなった美幸は、久しぶりにペットショップに立ち寄って、ハムスターのゲージを見つめていました。

「やっぱりハムスターは、かわいい、この子、シルビアみたい」そう思っていると

店員さんがにこやかな笑顔で、美幸に声をかけてきました。

「あー、以前ハムスターを連れて帰ってくださった方ですよね、よく覚えていますよ、あの子は元気ですか」

「実は、上手く育てられなくて・・・最近、死なせてしまったんです」

「あー、ハムスターは意外にストレスに弱いですからね、もう一度飼うんですか・・・」

「えー、どうしよう、もう飼うのはやめようかと・・・」

「大丈夫ですよ、僕が上手な飼い方をレクチャーしますよ、癒されるでしょう、友達は絶対いた方がいい」

美幸は、その青年の優しい眼差しに、もう一度友達を作ろうという思いになって、ハムスターを連れて帰る事にしました。

青年は「これ、僕の携帯番号です、困ったら電話してください、待ってます、あなたともお話したいし」

美幸は困った時の相談相手もできたし、今度はきっと上手く育てられるはずとかわいいハムスターの顔を笑顔で眺めていました。


【毎日がバトル:山田家の女たち】


《あの店長さんと恋が始まるんかな・・》


夕食の後に、日記を書いているばあばとの会話です。


ペットは亡くなった時が可哀想なけん、私はもう飼わんのよ

「ペットは飼っていたら愛情がわいてくるけんねー、寂しい気持ちは分かるねー、悩みがあったら大切なことも忘れる時があるんよ」

「お母さんはペットでは、何が好き」

「私は、ペットが亡くなった時が可哀想そうなけんもう飼わんのよ

「今までたくさん飼ってきたもんねー」

「偶然、讃美歌を聞きよったけど、美幸さん、タイミングがよかったねー、あの店長さんと恋が始まるんかなー

ばあばも気にしている、恋の行方はご想像にお任せします。


【ばあばの俳句】


おはようと交わす挨拶草むしり


草むしりは夏の季語です。母は玄関の草むしりをしていて、通りかかるご近所さんと朝の挨拶をかわします。早起きの清々しい挨拶を詠みました。


マスクを付けて完全防備のばあばです。本当はしゃがむのさえも難しいんですがばあばは懸命に頑張っています


▽「ばあばの俳句」「毎日がバトル:山田家の女たち」と20時前後には「フリートークでこんばんは」も音声配信しています。お聞きいただければとても嬉しいです。

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私のアルバムの中の写真から

また明日お会いしましょう。💗

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