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スプレー◇受験編

スプレーをモチーフに3つの作品を書きました。

◇◇ショートショート

二郎は友人と山奥にある神社に合格祈願にやってきた。インターネットで調べていて偶然見つけた田舎町にひっそりと佇む知る人ぞ知る神社だ。

彼は一人で来るのが心配だったので、同級生の光一を誘った。中学受験まではまだ数ヶ月あるが、勉強は自分なりに頑張っているので、今日は神頼みと思い、やってきた。
駅を降りて、田舎の道を数十分歩いた。目印の大きな杉の木を見つけて、そこから坂道を境内に進み、りっぱな本殿に到着した。
「何だか身が引き締まるね」と光一
「やっぱり、ご利益がありそうだ、空気が違うもん」と二郎。

本殿の前で、二人は長い間、手を合わせていた。

「じゃあ、お守りを授かろうよ」と二郎。
「えっ、買うんじゃなくて、授かるって言うんだ、二郎君学んでるねー」
二人は、社務所で学業のお守りを買った。

二郎がお守りを受け取る時に、巫女さんが、彼にだけ小さな袋を渡してくれた。
「あなたは幸運ですね、あなたにだけ、これをお渡しします、中には夢を叶えてくれるスプレーが入っています、受験のことなら何でも叶えてくれますよ、お願い出来るのは三回だけです、大切にお使い下さいね」

二郎はそれを手にしただけで、力が湧いてきた気がした。このスプレーは受験の日まで使わないで大切にとっておこうと思った。

神社に参拝をしてからは、受験勉強にいっそう力が入った。

二郎と光一は同じ私立中学を目指していた。受験当日、二人は申し合わせて会場に出かけた。
「おはよう、いよいよだね、お互いに頑張ろう、光一君、体調はどう」
「僕、昨日から何か寒気がして最悪だよ、よりによって受験日にこんな体調になるなんて」

二郎は光一の疲れきった顔を見て、「そうだあれを使おう」と思い、神社でもらった小さなスプレーを出して、光一にシュッと吹き掛けた。

受験会場に入って行くと、光一が言った。「二郎君、何だか元気が出てきたよ、僕、気合いか入った感じ」それを聞いて二郎は「やった、スプレーの効果は抜群だ」と思った。

開始時間を待っていると、後ろの席で咳き込む生徒がいた。それが会場内に響いていた。
二郎は、「あんなに咳をしていて可哀想だな、体力を消耗するよ、それに周りにも迷惑をかけるし、あれを使ってみるか」と、ポケットに手を入れて、ズボンの内側からさりげなくスプレーを噴霧した。

途端に受験会場は静かになり、咳は聞こえなくなった。

いよいよ試験が始まった。
試験官が会場をゆっくりと歩きながら受験生の様子を見守っている。彼が歩く度に、何とも言えない匂いが漂っていた。

それはとても不快な匂いだった。二郎は思った。「僕だけじゃない、会場のみんながこの匂いで平常心を失くしている、またスプレーのお世話になろう」そう決めて、次の科目の試験までに、スプレーをひとふきした。

会場は爽やかな空気に包まれた。スプレーのお陰で二郎も光一も、会場のみんなも平常心で受験できた。

二郎は自分のためにスプレーを使うことが一度もなかった。でもみんなが心地よく受験出来て良かったと思った。二郎自身はスプレーを持っていたことで安心して受験することが出来た。それで十分だった。

合格発表の日、掲示板に自分の番号を見つけた二郎は小躍りし、次に光一の番号も見つけて心の底から喜んだ。そして二人はハイタッチをしてお互いの合格を称え合った。

二郎は光一に言った。
「僕、あの神社にお礼参りに行こうと思うんだけど、光一君はどうする」すると光一は「いいよ、二郎君が行くんだったら僕も一緒に行くよ」

二郎は思った。
僕にいい友達ができたことが、神社にお参りした一番のご利益だと。



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