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2020年5月の記事一覧

【掌編小説】大貧民

【掌編小説】大貧民

セルバンテスは著書『ドン・キホーテ』の中で、こう言った。


常識が変わる速さは、忍び寄るようにゆっくりの時もあるし、時として一瞬のこともある。『大貧民』というゲームで、さながら同じ数字のカードを4枚揃えるように、スペードの3が突然最も強くなることもある。
ある王国で、「貸し」と「借り」が逆転したのも、前触れのない夕立ちのように突然のことだった。


城の前に、ボロ切れを着た汚らしい男が立って

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【掌編小説】ピース

【掌編小説】ピース

昔、母とした約束がある。
夜。歩(あゆむ)はコーヒーを淹れて、ベランダから向かいのマンションの空き部屋をぼんやりと見つめていた。
3月も終わりに差し掛かるというのに、ひやりと風が頬をかすめた。


「死」について母と話したのは、あとにも先にもこの時限りだ。

それは遠い思春期の記憶。もう二十年近く前のことになる。
歩は十二歳で、当時、埼玉県の県営団地に住んでいた。
母は三十五歳、昼間は倉庫で働き

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