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【小説】「きみはオフィーリアになれない」

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謎の魚「オフィーリア」をめぐる、現代社会を生きる3人の群像劇。
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2020年5月の記事一覧

「きみはオフィーリアになれない」 安達凛子 前編 #019

 落ち着いた口調の瀧本が語り出すと、意味を咀嚼するよりも先に、ひとつの音楽を聞いているよ…

やひろ
4年前
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「きみはオフィーリアになれない」 安達凛子 前編 #020

 次第に凛子は感情が高ぶってきて、声をあげて泣き始めた。先輩の葬儀のときですら、ほとんど…

やひろ
4年前
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「きみはオフィーリアになれない」 安達凛子 前編 #021

 二人のあいだに流れる沈黙をかき消すように、凛子は覚悟をきめて奥歯を噛み締めた。 「先生…

やひろ
4年前
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「きみはオフィーリアになれない」 安達凛子 後編 #022

episode 2 安達凛子(後編) *  自分のマンションのエレベータをあがるたびに、そこが現実…

やひろ
4年前
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「きみはオフィーリアになれない」 安達凛子 後編 #023

 マンションのエントランスの脇に自転車置き場があり、その横に女がひとり立っていた。はじめ…

やひろ
4年前
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「きみはオフィーリアになれない」 安達凛子 後編 #024

 美奈と面と向かって会話をしたことはほとんどなかった、ということに気が付いた。凛子と美奈…

やひろ
4年前
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「きみはオフィーリアになれない」 安達凛子 後編 #025

「ちょっと着替えを持ってきます。とりあえず、中に入ってください」  ばたばたと駆け出し、寝室からとりあえずの着替えをもってくる。美奈がラフな格好をしているので、そんな程度のものでいいだろう、と思った。美奈は黙って部屋に入ってきて、しばらく茫然自失としていた。とりあえずの着替えを手渡し、寝室で着替えてくるように促す。さっきまでの、美奈に対して抱いていた恐怖心もだいぶやわらいでいた。後ろ姿を見ながら、こんなに小柄な人だったっけ、とぼんやり思った。  ひとまず落ち着いた美奈をダイニ

「きみはオフィーリアになれない」 安達凛子 後編 #026

「シンプルな部屋だね。魚がいるだけで、他に何もないなんて、ほんとに凛子ちゃんの部屋だな、…

やひろ
4年前
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「きみはオフィーリアになれない」 安達凛子 後編 #027

「いえ、違います。それは私が、別の知り合いからもらったものです」  凛子は嘘をついた。嘘…

やひろ
4年前
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「きみはオフィーリアになれない」 安達凛子 後編 #028

 コール音がかすかに聞こえる。  美奈から携帯電話を取り上げることは可能だろうか、と思っ…

やひろ
4年前
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「きみはオフィーリアになれない」 安達凛子 後編 #029

 美奈は取り押さえられてから支離滅裂な言動を繰り返しているようだった。美奈自身のことも気…

やひろ
4年前
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「きみはオフィーリアになれない」 安達凛子 後編 #030

 これを手放せば、永遠に先輩と離ればなれになってしまう。  『魚』をどこかに移動させなけ…

やひろ
4年前
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「きみはオフィーリアになれない」 安達凛子 後編 #031

 やはり瀧本は、細かい事情を聞かずに承諾してくれた。凛子は安心して思わず表情がゆるんだ。…

やひろ
4年前
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「きみはオフィーリアになれない」 安達凛子 後編 #032

「まだお仕事は終わらないんですか?」と凛子は待合室のソファに浅く腰掛けながら声をかけた。もう時刻は十時を回っている。このクリニックは朝九時からやっているので、朝からいるのだとすると、かなりの長時間労働になる。  美穪子は少し驚いたような表情になり、一瞬、凛子のほうを見て、そしてすぐに逸らした。その様子が普通ではなかった。そして、ええ、と小さく、かき消えるような声で返事をした。  凛子は質問をしながら、自分がまだここにいるから、美穪子は仕事が終わらないのだ、と思った。「ごめんな