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哲学

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記事一覧

【武器になる哲学】20 他者の顔ー「わかりあえない人」こそが、学びや気づきを与えてくれる

レヴィナスのいう「他者」とは、文字通りの「自分以外の人」という意味ではなく、どちらかというと「わかりあえない者、理解できない者」といった意味です。

20世紀後半になって「他者論」が大きな哲学上の問題として浮上してきたのには必然性があります。連綿と「提案」と「否定」が続く、永遠に「完全な合意」に至らないかのように思える、この哲学の営みが、「わかりあえない存在」としての「他者」の存在の浮上につながっ

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【武器になる哲学】19 カリスマー支配を正当化する三つの要素「歴史的正当性」「カリスマ性」「合法性」

人口に膾炙することの多い「カリスマ」という言葉を、今日用いられるような形で最初に使用したのはマックス・ヴェーバーでした。ここではヴェーバーの著書『職業としての政治』から、ヴェーバーが考察した「カリスマ」について説明します。

ヴェーバーによれば、国家であれ政治団体であれ、それは正当な暴力行使に支えられた支配関係によって秩序立てられます。それでは、被支配者が、その時の支配者の主張する権威に服従すると

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【武器になる哲学】18 解凍=混乱=再凍結ー変革は、「慣れ親しんだ過去を終わらせる」ことで始まる

組織の中における人の振る舞いはどのようにして決まるのか。レヴィンは「個人と環境の相互作用」によって、ある組織内における人の行動は規定されるという仮説を立て、今日ではグループ・ダイナミクスとして知られる広範な領域の研究を行いました。

レヴィンの「解凍=混乱=再凍結」のモデルは、個人的および組織的変化を実現する上での三段階を表しています。

第一段階の「解凍」は、今までの思考様式や行動様式を変えなけ

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【武器になる哲学】17 ゲマインシャフトとゲゼルシャフトーかつての日本企業は「村落共同体」だった

ゲマインシャフトは地縁や血縁などによって深く結びついた自然発生的なコミュニティのことです。一方、ゲゼルシャフトは利益や機能・役割によって結びついた人為的なコミュニティのことです。

テンニースによれば、人間社会が近代化していく過程で、地縁や血縁、友情でふっかう結びついた自然発生的なゲマインシャフトは、利益や機能を第一に追求するゲゼルシャフトへシフトしていくことになります。

テンニースはさらに、社

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【武器になる哲学】16 悪魔の代弁者ーあえて「難癖を付ける人」の重要性

悪魔の代弁者とは、多数派に対して、あえて批判や反論をする人のことです。

ちなみに、「悪魔の代弁者」という用語は、ここで紹介されているジョン・スチュアート・ミルの造語ではなく、元々はカトリック教会の用語でした。

では、その用語がなぜジョン・スチュアート・ミルと関連付けて紹介されるのか。ミルは著書『自由論』において、健全な社会の実現における「反論の自由」の大切さについて、繰り返し指摘しています。

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【武器になる哲学】15 マキャベリズムー非道徳的な行為も許される。ただし、よりよい統治のためなら

愛されるリーダーと恐れられるリーダー、どちらの方が優れたリーダーなのか、というのは人類の歴史が始まって以来、連綿と議論されてきた問題です。マキャベリは、著書『君主論』の中で、端的に「恐れられるリーダーになるべきだ」と主張します。マキャベリズムとは、平くまとめれば「どんな手段や非道徳的な行為も、結果として国家の利益を増進させるのであればそれは許される」ということになります。この本が、当時も今も私たち

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【武器になる哲学】14 予告された報酬ー「予告された」報酬は、創造的な問題解決能力を著しく毀損する

個人の創造性を外発的に高めることはできるのでしょうか?

この問題を考えるために、1940~50年代に心理学者のカール・ドゥンカーが提示した「ろうそく問題」を取り上げてみましょう。「ろうそく問題」とは、テーブルの上にろうが垂れないようにろうそくを壁に付ける方法を考えてほしい、というものです。

この問題を与えられた成人の多くは、だいたい7~9分程度で、下図のアイデアに思い至ることになります。

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【武器になる哲学】13 フローー人が能力を最大限に発揮し、充足感を覚えるのはどんな時か?

人が、その持てる力を最大限に発揮して、充足感を覚える時というのは、どのような状況なのでしょうか?これが、チクセントミハイが研究において追求した「問い」でした。

チクセントミハイは、この問いに答えるために、仕事を愛し、活躍している人に、ひたすらインタビューしていったんですね。

このインタビューにおいて、チクセントミハイは、分野の異なる高度な専門家たちが、最高潮に仕事に「ノッテいる」ときに、その状

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【武器になる哲学】12 権威への服従ー人が集団で何かをやるときには、個人の良心は働きにくくなる

私たちは一般に、人間には自由意志があり、各人の行動は意志に基づいていると考えています。しかし、本当にそうなのか?という疑問をミルグラムは投げかけます。この問題を考察するにあたって、ミルグラムが行った社会心理学史上、おそらくもっとも有名な実験である「アイヒマン実験」を紹介しましょう。

実験には広告に応じて集まった人から選ばれた二人の被験者と白衣を着た実験担当者(ミルグラムの助手)が参加します。被験

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【武器になる哲学】11 認知的不協和ー人は、自分の行動を合理化するために、意識を変化させる生き物

朝鮮戦争当時、米軍当局は、捕虜となった米兵の多くが短期間のうちに共産主義に洗脳されるという事態に困惑していました。

この不可解なエピソードは認知的不協和理論によって説明できます。まず、自分はアメリカで生まれ育ち、共産主義は敵だと思っています。ところが捕虜になってしまい、共産主義を擁護するメモを書いている。ストレスの元は「共産主義は敵である」という信条と「共産主義を擁護するメモを書いた」という行為

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【武器になる哲学】10 自己実現的人間ー自己実現を成し遂げた人は、実は「人脈」が広くない

マズローは、欲求五段階説の最高位にある「自己実現」を果たしたと、マズロー自身がみなした多くの歴史上の人物と、当時存命中だったアインシュタインやその他の人物の事例研究を通じて、「自己実現を成し遂げた人に共通する15の特徴」を挙げているんですね。

現実をより有効に知覚し、それとより快適な関係を保つこと

受容(自己・他者・自然)

自発性・単純さ・自然さ

課題中心的

超越性ープライバシーの欲求

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【武器になる哲学】09 悪の陳腐さー悪事は、思考停止した「凡人」によってなされる

ナチスドイツによるユダヤ人虐殺計画において、600万人を「処理」するための効率的なシステムの構築と運営に主導的な役割を果たしたアドルフ・アイヒマンは、1960年、アルゼンチンで逃亡生活を送っていたところを非合法的にイスラエルの秘密警察=モサドによって拿捕され、エルサレムで裁判を受け、処刑されます。

この裁判を傍聴していた哲学者のハンナ・アーレントは、その模様を本にまとめています。この本、主題はそ

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【武器になる哲学】07 報酬ー人は、不確実なものにほどハマりやすい

「人はなぜソーシャルメディアにハマるのか」という問題に、ここでは「脳の報酬」というコンセプトから考察してみましょう。

報酬系に関する研究の嚆矢にスキナーという人がいます。

スキナーは、次の四つの条件を設定し、ネズミがもっともレバーを押し下げるようになるのはどの条件下か、という実験を行いました。

レバーの押し下げに関係なく、一定時間間隔でエサが出る=固定間隔スケジュール

レバーの押し下げに関

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【武器になる哲学】08 アンガージュマンー人生を「芸術作品」のように創造せよ

サルトルといえば「実存主義」。実存主義というのは、要するに「私はどのように生きるべきか?」という「Howの問い」を重視する立場である。

では、その「問い」に対して、サルトルはどのように答えるのか。それが「アンガージュマンせよ」ということです。ニュアンスとしては「主体的に関わることにコミットする」というような感じでしょうか。サルトルによれば、コミットするものは二つあります。

一つは、私たち自分自

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