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『本好きの下剋上 司書になるためには手段を選んでいられません』香月美夜


以前、歴史読書系のblogで紹介されていたので、試しに読んでしてみた本です。小説投稿サイトで連載されていたこともあって、内容はおもしろいんですが、最初は独特の文体が読みづらくて、もうちょっと専門的だったらいいなあ、魔法ファンタジーっぽい要素ではなく、歴史系ゴリゴリだったらなあと思った記憶があります。

でも、2冊めがアマゾンのKindleで半額以下だったので、つい週末の電車移動(往復4時間)のためにポチってしまいました。そうしたら、2冊目からはもう私好みそのもの! ということで、半額以下のもう一冊も帰宅後に手を出してしまいました。ああ、電子書籍って恐ろしい。

『ビブリア古書堂の事件手帖』を始め、「本の虫」や「活字中毒」なお話は大好き。しかも、中世的な世界感と本造りが程よくマッチングしています。参考資料もかなり多いだろう、充実した内容がとてもおもしろいです。こういう小説がネット上で無料で読める時代がくるとは。娘も気に入ったみたいで、何より「挿絵がかわいい!」「表紙や冒頭だけじゃなく、中にも挿絵がある」と大喜び。小学生(当時)には、やっぱりかわいい挿絵が何より大事みたいです。

第一部「兵士の娘」は、現代社会の超絶本好きが転生して、中世的な兵士階級の生活を経験するお話。文字を必要としない人たちが家族ですが、そこから文字を覚え、さらに商人の決まりやらギルド的生活やら、失敗しつつも認められていく内容にわくわくしました。

第二部「神殿の巫女見習い」は、文字を読みたいばっかりの主人公が、中世ギルドの世界から、一転して神殿という未知の世界へ飛び込みます。確かに中世では、本がかなりある場所って神殿とか教会ですよね。あと、教育も。最初はここでも失敗だらけ。でも、現代知識を利用しつつ居場所を確保し、仲間をつくっていきます。

はるか昔の『王家の紋章』以来、現代知識でチートするお話は、それだけでわくわくします。いえ、主人公の本に関する知識(狂気)は普通の人間では獲得できませんが。

第三部「領主の養女」は、能力を発揮しすぎて神殿で保護されるのが難しくなった主人公が、封建領主の養女ステップアップするお話。なんと、貴族世界に入っていきます。この本でおもしろいのが、「教養」をちゃんと身につけて、訓練する部分も描写しているところでしょうか。

貴族らしい振る舞い、喋り方、行動様式などなど。現代人には全く理解できない決まりを、主人公は「本を読むための情熱」で乗り越えていきます。あとは、家族への愛情でしょうか。現代人としてもちょっと個性的な主人公が、謎のファンタジー世界の貴族社会でチャレンジしていくようすがおもしろいし、彼女をサポートしてくれる領主の弟のクールな感じが楽しいです。

あと、身分社会独特の嫉妬や妬みをどう解決するか、最低限、被害を被らないようにするかってあたりは、私も勉強になりましたし、励まされました。ラノベだろうが、ネット小説だろうが、何かしら人生に役立ちます。

第四部「貴族院の自称図書委員」は、学生時代に率先して図書委員になっていた時代を思い出して楽しいです。毎回、主人公が巻き起こすトラブルも、現代社会とファンタジー社会のギャップをちゃんと意識して書かれているのでおもしろいし、中級以上の生活者には身の回りの世話をする人間がいるというあたりをちゃんと描いているものいいです。

そして、主人公だけでなく、領主、上級貴族、中級貴族、下級貴族、平民の区別やそれぞれの登場人物の性格や役割などが、きっちり書き分けられているのも楽しいです。あとは、いままで1つの領内での生活だったのが、今度は複数の領地の間での関係も出てきておもしろさ倍増。

いろんな領地や貴族たち、先生たちの思惑が交錯するのが長い小説の醍醐味ですし、最初はいかにもネット小説な文体だった本書も、だんだん冊数が進むうちに小説らしい文章になってきて、読み応えがあってうれしいです。

ただ、本筋のストーリー以外の外伝的な部分はちょっと余韻クラッシャーかなあとも思います。ウェブ小説独特の読者サービスっぽいですが、なんだか同人誌みたいでもあって。他には書籍化したときに加筆されて、「あれ?ちょっと話の流れが矛盾?」みたいに思うところもありますし。

とうとうラストの第五部「女神の化身」。文章もさらにノリノリで、読み応えがある内容で進んでくれて、うれしいです。ファンタジー世界でも、大事な人を守る戦いはワクワクします。

最初の1冊を娘が読んだときには小学生でしたが、今では高校も卒業しようかという年齢になりました。本書も第五部で20冊を超えました。二人で毎回、発売されるのを楽しみ待っていますが、もし娘が卒業後に下宿生活に入ったら、私は今後、マンガや小説の楽しみを誰と分かち合ったらいいのか。

気がつけば、子供向けのジュニア文庫でもシリーズが始まっていました。コミカライズも、それからアニメ化もされています。いいですね。本好きがもっと増えるといいな。



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