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汕頭のすばらしい風景と、母子の不器用な物語。映画『母への挨拶』中国、2022年。

ようやく体調が回復した11月、気がつけば中国映画週間が半分終わっていました。会議なんかもあるので、ようやく見に行けたのは最終日の2日前。せっかく国交正常化50周年のイベントなのに、毎日1本。しかもtohoシネマズの別館って微妙な場所で最終上映時間しかないって、しょぼすぎる。なんとか仕事を終わらせて、ギリギリ映画館に駆け込みました。そして、その価値はありました。

舞台は華南。最初どこかよくわからなかったですが、閩南語でもないことはわかりました。そのうちは潮汕語ということがわかってきます。舞台は汕頭(スワトウ)。知らない人にわかるように言うと、台湾の対岸で、ウーロン茶で有名な福建省の地方都市。

一家を切り盛りしている肝っ玉母ちゃんが、すごいです。日本でいえば樹木希林と市原悦子を二で割って、肌を浅黒くしてわざとマッシュルームカットにダサくした感じの、リアル感満載な母。無愛想で、いつもむっつりしていて、屋台みたいな小さな鶏肉を切り盛りして、スクーターに乗り、ダメンズな父ちゃんや祖母たちの面倒をみています。

目下のなやみは、かわいい長男がなかなか結婚しないこと。実は、長男は都会の深圳(シンセン)で起業していて、2年も同棲している恋人がいますが、彼女が福建省の人ではなく、遠い杭州出身で潮州語がほぼできず、しかもバツイチなので、母が激怒することがわかっていて、なかなか言えなかったのです。

でも、思い切って彼女にプロポーズした彼は、汕頭の祭祀にあわせて、彼女を連れて帰りました。家族に紹介すると、母は「外省人じゃ言葉が通じない!私は標準語が話せない!」とご立腹でしたが、父親は「美人だ!」と喜ぶし、おばあちゃんは最初から大歓迎。いますぐにでも子供をつくれとお祝い(紅包)をくれるし、「つくり方わからなかったら教えてあげる」と二人の部屋まで押しかけるほど。

最初は文句ばかりいって、「外省人!」としか彼女を呼ばなかった母も、まわりが乗り気だし、実際に彼女が息子の家族を気に入ってくれたり、自分の料理を褒めてくれるので歓迎しようという気になってきます。へそくりをとりだして、息子たちの家の計画をたてたり、結婚式の算段を夫としたり。

ところが、息子が彼女のバツイチをなかなか言えずにいるうち、うっかり叔父さんがそれを先に母にしゃべってしまいました。息子に隠し事をされたことにショックを受けた母は、「バツイチ女性なんか世間に何をいわれるかわからない」と反対しはじめます。そして、お嫁さんを無視、無視、無視。

数日間、汕頭の田舎街に滞在し、彼の家も家族も好きになりかけていた彼女は、母親の反対のショックが大きく、そのまま杭州の実家に行ったことをきっかけに、彼からの微信(中国のLINE)に返信しなくなります。そして、「このままではしんどい」と別れ話を切り出しました。しかも、深圳を離れて、杭州に戻る決意もしてしまいます。彼女が大好きな彼も、受け入れるしかありません。

でも、ある出来事をきっかけに反省した母親が、深圳の息子のところにやってきます。一人暮らしで荒れた生活をしている息子をみた母は、杭州に帰る彼女を空港まで一緒に見送りに行くといい出します。慣れない車に酔いながらも、彼女の好きな自分の料理を手渡して、「また家に遊びに来な」といつもの無愛想な感じでいう母。彼女は、最初驚いて、そしてものすごくうれしそうな顔をして「杭州にも遊びに来てください」とにっこり。息子と二人、彼女をゲートで見送る母がなんともかわいいです。

この映画のすごいなと想うのは、絶妙な配役です。とにかく、中国ドラマとかに出てくるような美男美女が一切出て来ない。下手すると一番美人なのは白髪のおばあちゃんかも(面影が美女)。息子の彼女も「美人」って設定だけど、女優さんっぽい美女じゃなくて、一般世間でいう「美女」の範囲。多分、ドラマだとかわいい主人公を引き立てる友人役とかやりそうな。

息子は、将棋棋士の斎藤明日斗さんによく似た愛嬌ある系のイケメン。母親に可愛がられそうな雰囲気にぴったり。なにより、母親役の鐘少賢がメイクで素顔以上に不美女さ、田舎っぽい頑固さを演じていて、映画が彼女のアップで映画が始まるからすごいです。もちろん、ラストも彼女のアップ。ただし、最初のアップは無愛想。ラストは笑顔。演出と構成がうまいです。

この映画の魅力は、汕頭の古い下町のご近所関係とか親戚関係、そして祭祀毎。少しづつ変わってはいるけれど、それでもなぜか懐かしい感じの息子の実家。そして、母子関係です。家の家計のやりくりを一手に引き受けて働く母。ダメンズだけど、お祭りのときの地方劇でだけは活躍する父。そして、日頃は夫に文句をいいつつ、それをうれしそうに見る母。

息子も芸術系だったらしく、芸術の道に進みたいのを母が反対し、理系の大学に進ませた結果、深圳で起業できたという設定。母親には反発がありつつも、それなりに長男として、親孝行しようとしている感じがリアルです。

ちなみに、この家族には長女もいるんですが、母と娘の関係はもっとドライです。長女は家族に相談もせず勝手に遠方で結婚しましたが、こちらは孫を連れて帰ってくればもう「没問題」。式もあげていないとかで、やっぱり長男は、宗族関係の強い華南では大変そうです。次男については、適性が長男と違いそうで、母との関係は全く問題なさそう。

映画で見る汕頭の田舎の風景はすてきで、港や農場、街角などなど風景の映像もよかったし、深圳の都会っぷりとの対比もすごかったです。そして、それを色どるおばちゃんたちの潮汕語の掛け合いや地方独特の風習。本当に、いろんな意味でいい映画でした。大画面でみたほうがいい映画なので、ギリギリ見れてよかったです。満足度300%

邦題:母への挨拶(原題:帯你去見我媽: Back to Love)
監督: 藍鴻春
主演: 鄭潤奇、鐘少賢、盧珊、鄭鵬生、連錫龍ほか
制作:中国(2022年)101分

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