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海を超えた一億四千万冊の本『戦地の図書館』モリー・グプティル・マニング


戦争は、攻める側と攻められる側がある。「戦地の図書館」というと、攻められている側が、苦労して本を確保したような印象を受けるけれど、この本のもともとのタイトルは、“When Books Went to War : The Stories That Helped Us Win World WarⅡ” 戦地に送られた本。私たちの勝利に役立った本の物語。

ハードカバーをひらくと、最初から衝撃的な本を焼く写真が掲載されています。ナチスがやった「有害図書」を燃やす写真。ナチス時代、「ちゃんとしたドイツ」らしくない本を大量に積み上げて燃やしている場面です。思想戦を戦うために、本を燃やした野蛮なナチスを印象づけます。

一方のアメリカは、勝つために本を戦地に送ったというのがこの本のメインストーリー。戦地の兵隊の慰問のために「兵隊文庫」を送りました。当然、ハードカバーではなく、ソフトなペーパーバッグで。とはいえ、文化的なアメリカが勝手、本を焼く野蛮なナチスが結局負けた、みたいな単純な話でもありません。

この本の巻末にはリストがあって、どんな本が戦地に送られたのかがわかります。当時流行った推理小説、著名なノンフィクション作家の評伝、古典的小説、実存主義の哲学的な小説などなど。とはいえ、なんでもよかったわけではなくて、アメリカの側でも「良い本と悪い本」を選別して戦地に送ったりしていました。

いい話ばかりでないところもちゃんと書かれているかどうかで、いいノンフィクションかどうかがわかります。そして、せっかく戦争に勝ったのに、戦争が終わると、今度は冷戦。「赤狩り」、つまり共産主義の思想を排除する嵐が吹き荒れたり、女性や黒人への差別があったりという歴史を考えながら読むと、もっと複雑な感想もうかんできます。

そして、日本も戦前はナチスみたいなことをやった歴史があって、戦争中に、燃やされた外国のレコードや本やらは数知れず。中国でも、たくさんの本が燃やされて、文化的建造物が壊されました。

この本で、アメリカとドイツの本で本が焼かれる(特定の思想を排除する)ことを読んでいると、それ以外の国の似たような歴史を考えてしまいます。


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