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化け猫が家族になるまで『猫が歩いた近現代』真辺将之

世の中には猫の本があふれていて、猫の日の前後にはネットでも猫がらみのエントリがあふれかえる21世紀。猫好きにはとってもうれしい時代です。でも、いわゆる猫の本は、あまりにも(!?)猫中心的で、「日本人は昔から猫が好きだった」というのは、夢物語らしい。

じゃあ、実際の歴史はどうだったのか? 真辺先生は、猫の歴史を専門家の目でとらえなおしています。教科書的にいえば、日本人の「近代」は明治維新あたりが出発点。でも、猫にとって、当たり前ですが明治維新はどうでもいい話。「文明開化」で肉食ブームになっても、猫のごはんは江戸時代と同じく、お米や雑穀に鰹節をかけたねこまんまや魚の残りだったとか。

江戸時代の猫ブームみたいにいわれる歌川国芳なんかの浮世絵も、江戸時代にネコ好きが多かったというより歌川国芳ブーム。山東京山が『朧月夜猫草紙』をヒットさせても、猫ブームになって猫の作品が次々生まれたわけではないそうです。

猫草子

猫の役割は、なんといってもネズミ捕り。ネズミを捕らない猫は厄介者で、捨てられたとか。あとは、やっぱり化け猫。このイメージが一番強かったそうで、商売繁盛の「招き猫」は本物の猫とは別物の模様。現代でいえば、キャラクターアイドルのキティちゃん的存在でしょうか。

でも、明治になって西洋画が入ってきて、ヨーロッパの技法や構図の影響が強くなると、浮世絵みたいな奇抜な擬人化された猫の絵が、だんだん写実的な猫のかわいらしさが描かれるようになりました。それでも、日本人一般的には「猫は性悪」イメージが強く、夏目漱石の『吾輩は猫である』なんかも、「養われているくせに飼い主の秘密を暴露するような性悪猫」と言われたとか。

猫のイメージの一大転機は、なんと伝染病対策。1900年(明治33年)ごろから日本政府がペストを媒介するネズミを駆除するため、「猫畜」を奨励しました。猫の売買も盛んになったり、「愛猫団体」ができて、たくさんネズミをとる猫を表彰したり。

関東大震災の後には、動物供養の追悼法要が東京の有名な増上寺で行われて、猫愛護や動物愛護につながっていった模様。このあたりでは、猫は家族か家畜かみたいな話もでてきているようですが、戦争中の物不足のときには、猫の毛皮を活用しようなんて動きもあったそうで、受難の時代でもあったみたいです。

戦後は戦後で、猫もまた高度経済成長時代を生きるために、猫も苦労しました。例えば、公害。水俣病では猫たちも犠牲が確認されています。戦後にたくさんできた団地では、動物不可。猫たちはこっそり飼われたり、捨てられたり。野良猫が増えれば殺処分。リアルな歴史は結構辛いです。

ともあれ、日本の近現代の猫は、「化け猫」から「生身の猫」へ、「ありのままの猫」への変遷の歴史。我が家の猫はかわいいですが、災害のときにどうするかは問題ですし、一歩家の外にでると、野良猫をどうするか問題はご近所の悩みのタネです。猫好きとしては、できれば末永く、猫とはずっといい関係でいたいですが。




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