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密林は砂漠よりも猛し。高野秀行『西南シルクロードは密林に消える』


中国四川省の成都を中心とした古代の「蜀」王国。
そこからインドまで続く、西南シルクロードがあったらしい。
唐の時代、北の砂漠のシルクロードを通った張騫がアフガニスタンで四川省原産と思われる「蜀布」を発見しているが、それは蜀の国からビルマを通って運ばれたらしいと、大昔の張騫も考えたし、現代の学者も考えているそうな。シルクの発祥地の有力候補である「蜀」と、世界最古かもしれないシルクロード、そして、四川の古い遺跡。なんだかロマンをかき立てられる。

「どうして玄奘法師は、南へ行かず、北へ行ったのだろう? 砂漠のほうが大変だろうに……」その答えを探すために読んだのがこの本。著者は、4ヶ月かけて、中国の四川省成都から雲南省大理、瑞麗からビルマのゲリラ軍地域を通り、インドのカルカッタまで旅行をした。

中国の様子は、まあ、大体わかっていたけれど、おどろいたのはビルマ(ミャンマー)の様子。ゲリラ軍と中国の関係、政府軍と中国の関係、そして、実際にゲリラ軍を頼って行動する著者がレポートするゲリラ兵の素顔…etc. 

停戦状態とはいえ、読めば読むほど驚く日常(でも、よく考えたら、そうやって生きるしかないよなあと思える日常)が綴られていて考えさせられる。北の国のゲリラ軍では、こうはいかないんじゃないかという南のアバウトさがあるかと思うと、アヘンを密売する政府軍に対し、ゲリラ軍ではアヘン厳禁だったりと軍紀が守られていたりする。もちろん、ゲリラ軍にもいろいろあって、カチン軍とナガ軍では事情が違う。そして、カチン人の中にもいろんな部族がある。

それにしても……。
自国の政府に失望して、大卒のインテリすらアヘンに走らざるを得ないビルマは辛い。国内で独立運動をして欲しくないから、ナガランドのゲリラ軍2派を闘わせているインド政府ってのも、政府の戦略としてはわかるけど、巻き込まれる方はたまったものではない。そんな政府と結ばざるを得ないゲリラ軍っていうのも何ともいえず。

ジャングルは、1年でありとあらゆる人工物を飲み込むそうな。
雨、気温、微生物、植物、動物。彼らが人間の営みをあっという間に、なかったものにしてしまう。一つの村の住人が何らかの理由でいなくなっても、あっという間に痕跡がなくなる。ましてや道なんて3,4ヶ月で消滅する。

そんなジャングルを通るには、たくさんのヒルや虫に襲われる覚悟をしなければならないし、そもそも雨季には旅ができない。密林の中だから、たくさんの荷物を持って進めない。玄奘がインドへ行く時、北のルートを選んだのも、当然といえば当然か。


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