見出し画像

戦う意思と学ぶ力。映画『スーパー30 アーナンド先生の教室』インド、2019年


舞台は30年くらい前のインド。映画の主人公は数学が大好きなアーナンド。地元の大学の数学の大会で優勝するほどです。専門書が読みたくて、別の大学の数学雑誌を読んでいましたが、学生ではないのでいつも責任者につまみ出されていました。

あるとき、警備員さんが「あなたの論文がその雑誌に掲載されれば、その後は雑誌をずっと無料で送ってもらえるよ」とアドバイスしてくれたおかげで、アーナンドは論文をイギリスの雑誌に投稿し、論文が掲載されただけでなく、ケンブリッジ大学への入学許可も受け取ります。

(映画を見ているときは気づきませんでしたが、警備員さんが外国の数学専門雑誌について知っているということは、彼もかなり教育レベルが高いってことですよね。なのに、警備員の仕事をするしかない境遇がさらりと描かれていたんですね)

よろこんだ父は郵便局努めの年金を前借りして、残りは寄付を約束してくれた文化大臣のところに援助を頼みにいきました。でも、大臣の援助は単なるリップサービス。援助をもらえなかったアーナンドは留学を断念して、自転車で揚げパンのような食べ物を売る仕事をしていました。

偶然、アーナンドを知っていた塾経営者が彼を超有名大学の受験予備校で雇ってくれます。アーナンドの評判はすばらしく、お金持ちの親たちは彼の授業に喜んで大金を出しました。こうなると塾の経営は順調で、アーナンドはお金に不自由しなくなります。でも、ふとしたことから、貧しくて勉強が好きでもできない子がいることに気づき、自分の悔しさも思い出します。

そこで、私財をなげうって無料の塾を始め、集めた30人の子どもたちをインド最高峰の工科大学に全員合格させようとします。途中で経営難に陥ったり、元雇い主の嫌がらせがあったりしますが、アーナンドと子どもたちは知識と工夫でそれを克服していきます。

王様の子供が王様になる時代じゃない。実力のあるものが王になるんだ。

知識は力。知識は武器。
当たり前に義務教育が受けられる国にいると、うっかり忘れそうになりますが、身につけた学問は誰にも奪われない武器です。そして、何かを丸暗記したり、誰かに教わるのではなく、自分で考えることの大事さ。工夫する知恵。見ているだけでわくわくしました。

そして、ラストの戦闘シーン(!)は子どもたちが大活躍で、圧巻&爽快なのですが、実話的にもアーナンドは何度か襲われているそうで、二度びっくり。実話ベースの映画ですが、インドの場合、実話のほうが現実より過酷なのかもしれません。

インド映画お決まりのダンスシーンはかなりミュージカルっぽく自然だし、挿入歌は力強過ぎて、こちらも覚えて歌いたくなります。少し前に見たタイ映画『バッド・ジーニアス』では、能力ある子どもたちがお金持ちの子供のカンニングを手伝ってお金を得る話で、見ごたえはありましたが辛かったです。でも、インドの『スーパー30』は、子どもたちに無償で知識を与えて世の中を変えていこうとするお話。しかも、めちゃくちゃエンタメで楽しいんです。

ただ、映画制作の段階では、主演の俳優さんたちが顔の色を黒っぽくして演技したので、アーナンドとその学生たちのような貧しい階級(カースト?)の俳優を使わなかったという批判もあるそうです。やはりインドは複雑で、なかなか一筋縄ではいかないようですが、女性の問題にしろ、身分の問題にしろ、今後少しづつ変わっていくなら希望があります。

インド映画は、何百本と制作されるものの数本だけが日本で見れます。だから、2時間半があっという間に過ぎて、満足度がめちゃくちゃ高くて、映画館を出るときには元気になっているレベルの高いものばかり。今回は教職を目指す娘と見に行きましたが、時間がとれれば夫ともう一度見に行ってもいいくらいよかったです。

邦題:スーパー30 アーナンド先生の教室(原題:SUPER30)
監督:ビスカール・バハル
主演:リティク・ローシャン、ムルナル・タクール、ナンディッシュ サンドゥ、ヴィレンドラ・サクセナ、パンカイ・トリパティ、アディティア・スリバスタヴァ、アミット・サドほか
制作:インド(2019年)154分

インドの教育問題を映画化したものといえば、なんといっても有名なのはこれですね。いろんな作品があるのがいいです。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?