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大あたりのコメディ映画『宝くじの不時着~1等当選くじが飛んでいきました』韓国、2022年。

ヒット作があれば、パロディがつくられる。これは小説でも映画でも同じようです。パロディ作品については、当たりもあれば外れもあるので、宝くじみたい。超有名どころでは、小松左京の『日本沈没』と筒井康隆の『日本以外全部沈没』でしょうか。

さて、韓国ドラマの超ヒット作『愛の不時着』は未見ですが(そろそろ本気でnetflix考えないと)、韓国映画『宝くじの不時着』は、ポスターを見た瞬間「絶対、当たり!」の予感がしたので、夫と見に行きました。映画の原題は、韓国のロトを指す言葉。でも、内容にあわせて『宝くじの不時着』にした邦題はすばらしいです。

妙な邦題は山程あれど、これくらい内容を的確にあらわした邦題は『アタック・ナンバーハーフ』以来ではないでしょうか(大げさ!)。仕事終わりのレイトショーにピッタリの、最高のコメディ映画でした。

舞台は、朝鮮半島を南北に隔てる38度線の非武装地帯。最前線を守っていた韓国軍の主人公パク兵長(コ・ギョンピョ)が、ひょんなことから6億円のロトに当選したくじを拾うのですが、これがうっかり風に乗って、北朝鮮側に飛んでいきます。

偶然、くじを拾ったのは北朝鮮側の上級兵士リ・ヨンホ(イ・イギョン)。ロト当選額のあまりの高額さに驚き、換金方法が自分にないことに歯ぎしりします。そして、なんとか大金を入手したいヨンホと、宝くじの当選券を探したいギョンピョが、夜中の非武装地帯で出会うというわけ。お約束です。

ここから、敵対しているはずの2人は夜中にこっそり交渉を繰り返すのですが、不審な挙動はやがて上司や後輩たちに見つかり、南北両チームの兵士が6億円をめぐってドタバタコメディを繰り広げます。もう、ポスターとタイトルをみただけで、話の流れも展開も予想がつく展開。それなのに、ディテールがいちいちおもしろくて、最高でした。

シリアスな、リアリティあるドラマもいいですけど、やっぱりそういう映画ばかりじゃ疲れます。何も考えずに、頭を空っぽにして楽しめる、ハッピーエンドが約束されたコメディは人生に絶対必要です。

そして、『シュリ』や『JSA』を劇場でみた世代としては、本当に感無量。朝鮮半島の38度線に引かれた軍事境界線。その南北2kmが非武装地帯になっていますが、ごく一部を除いて地雷だらけ。それがイ・ビョンホンとソン・ガンホの名作映画『JSA』の導入エピソードになったわけですが、今回はロト。時代は変わります。

この映画にも、チラチラ『JSA』ネタが入っています。軍事境界線には、南北の共同警備区域(Joint Security Area, JSA)があるわけですが、このコメディ映画で出てくる「JSA」は生活インフラのための施設。最前線の韓国軍を末端で支える水道技師が、実は技術者らしく北側の水道設備も世話をしていて、軍関係者が知らない緊急事態回避の手段を知っているというのは暗示的です。

いざというとき、人を守るのはインフラ技術と共同作業。韓国側の主人公ギョンピョが畜産に詳しい青年だったり、北側の主人公ヨンホの妹ヨニ(パク・セワン)が宣伝隊で仕事をしつつ、同時に家畜の世話をして、軍隊の食料問題をなんとかしようとしているというあたり、コメディながら訴えてくるものがあります。

家畜の世話を通じて、仲良くなる韓国兵のギョンピョと北の兵士のヨニ。とってもいい雰囲気です。歌もうまくて賢いヨニは、ギョンピョのピンチを兄に代わって救います。

そして、最近の韓国コメディの定番ですが、ヒロインが実は一番強い。セクハラ上官をマンガ並にはり倒すヨニ。実際に軍隊でそんなことはできないだろうし、セワンさんの体格やカメラワークをみるに、実際にアクションしているのはスタントの人っぽいですが、いいんです。コメディですから。

「南北統一とは力で押し切ることだ!」という頑固でセクハラな北朝鮮の教官に対して、ギョンピョやヨンホたちはこんなふうに言い換えます。「統一とは、会いたいときに会えること」。軍事境界線を挟んだ、ヨニとギョンピョの切なくも温かい想い。殺伐とした現実世界を一瞬でも忘れさせてくれる、ステキな映画でした。

邦題:宝くじの不時着(原題:6/45)
監督・脚本:パク・ギュテ
主演:コ・ギョンピョ、イ・イギョン、ウム・ムンソク、パク・セワン、クァク・ドンヨン、イ・スンウォン、キム・ミンホほか
制作:韓国(2022年)113分

コメディで、しかも本当にヒロインが一番強い韓国映画はこちら。アクションシーンがキレキレです。笑いすぎて、腹筋が辛かった……w

なつかしのシュリは我が家にDVDがあります。夫がどこかのレンタル屋さんの中古販売で入手してきた模様。


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