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チョウのように読み、ハチのように書く。『批評の教室』北村紗衣

北村先生は、シェイクスピアや舞台芸術史、そしてフェミニスト批評が専門。以前読んだ『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』がおもしろかったので、この本も発売当初からチェックしていました。

私が購入したのは発売から2ヶ月もたった頃ですが、すでに4刷。大学の文学批評の講座の雰囲気を味わいたい人も、単純に批評に関する読み物として楽しみたい人も、なにより小説を読むのが大好きだけど、読んだ感想を言語化するのが苦手な人、もうちょっとうまく書いてみたい人にもちょうどいい本だと思います。

第一章 「精読」。
批評のコツ2:「映画館に行く」と言って出ていく人はウソをついている

ちゃんと読むためには、作品内の事実を確認することが大事。「作品には間違った解釈はない」というのは間違いで、「正しい解釈はない」けれど、「間違った解釈はある」。だから、物語の展開を理解するためには、ちゃんと事実関係を確認することが大事とのこと。

ただし、事実関係をはっきりさせないように書かれている文学もあるので、そういう作品は「正しい」よりも「間違っていない」レベルから始めるのがいいそう。

作品を深く読みたい人は、探偵のように複数の手がかりを結びつけて、真実を探っていかなければならないようです。作品によっては、登場人物すべてがウソをついているようなものもあるし、下手をするとストーリーを進める地の文ですらウソをついている可能性があるとか。確かに、そういうミスリーディングを誘うものもありますね。

第二章 「分析」。
批評のコツ3:「作品には必ず友だちがいる」

この章で何度も引用されている「巨人の肩の上にたとう」という表現は、偉大な科学者ニュートンの手紙にある一文だそうです。大好きな藤井太洋さんの『ハロー・ワールド』には、「巨象の肩に乗って」というタイトルの物語があるのですが、ずっと意味がわかりませんでした。この本を読んで初めて意味を知りました。

巨人」は先行する人々の業績の積み重ねを指す言い方だそうで、「肩の上に立つ」はそれをふまえること。確かに、藤井さんのあの物語は、別の誰かの開発したシステムを発展させて、新しく役立つシステムを作ったお話でした。理系の話に限らず、文学批評も歴史研究も、すべての学問は先人の業績の積み重ねの上に成り立っているのですね。

文学や映画を深く読む場合にも、作品に関する基本情報や、先行するレビューをしっかり抑えることが大事(というか、有利)。そして、考えを借りた人は、それが先人のものであることをちゃんと明記すればいい(する必要がある)。引用と剽窃の区別は、他人が考えたものか、自分が考えたものかを区別するだけ。でも、簡単なようで、結構トレーニングしないと身につかない技術だったりもします。

第三章 書く
批評のコツ4:出てこないことにも意味がある

自分の大好きな作品に、何が書かれているかを確認するのは大事。でも、もっと大事なのは、何が書かれていないのかを確認すること。本来、書かれているはずのものが、意図的に(もしくは無意識に)書かれていないのは、必ず意味があるのだとか。

例えば、作者や監督の好み(考え)とか、作品がつくられた時期の背景に関わるとか。あるべきものがない原因は、たくさんあるそうです。それを探偵のように指摘できる人は、かなりの高等技術保持者じゃないでしょうか?

自分の得意分野なら、すぐに欠けているものがわかるけれど、得意じゃない分野はわかりません。でも、大丈夫。こんなときこそ、別の誰かの感想とかレビューに助けてもらえばいいそうです。そして、助けてもらった感想やレビューの出典元をしっかり明記すること。


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