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英国保育士が見た日本『THIS IS JAPAN』ブレイディみかこ


みかこさんの本がでると、だいたい読みます。知的でアクティブでやさしいから。この本は前著『ヨーロッパ・コーリング』と対になったタイトル。いつもはイギリス在住のみかこさんが、日本に帰国した4週間の記録。

久しぶりの日本を歩くにしても、彼女の行く所はかなり変わっています。たとえば水商売の業界の争議や、人数の多すぎる保育園や、働く人のデモなどもレポート。読んでいると、こちらまで身につまされる現実が見えてきます。

賃金不払いにも拘らず、「働け!」と言われ続ける人たち。それを不安定な労働者を支援するユニオンが助けようとすると、怒鳴って追い返そうとする上司や同業者たち。結婚して子供を持つことができなくても、立ち上がらない若者たちは、自分たちの努力が足りない結果の「自己責任」だと思っているから。

自分が貧困すれすれでも「中流」だと思いこんでいるたくさんの日本人たち。デモに参加するのは、余裕のある高齢者ばかり。本当は切羽詰まっているはずの働き盛りの人たちは、時間もお金も余裕がない。

なにより衝撃的だったのは、「人権」について。
「人権って何ですか?」と質問する若者。著者のレポートは本当に21世紀の日本か?と思うけれど、まあ、わかるような気もする。中学生や高校生はだいたい公民や現代社会の授業に実感がわかない。寝ているか、受験科目を内職しているか、テスト前だけ覚える程度。卒業したら、すぐ忘れる。

ただし、学校教育の問題でもあるけど、そればかりともいいきれない。娘の小学校の授業では「人権教育」って、部落差別とか外国人差別とか、そういう道徳分野になる。当然人気のない授業だから、みんなしっかり聞いてないし。

会社が人を安く買い叩くなんて、学校を出るまで考えたこともないだろうと思う。もしくは、アルバイトをするようになって初めて気づく。でも、やっぱり権利とか法律について若い人の意識は低いと思う。

立ち上がらなすぎる日本の若者。義務を果たせなければ、権利もないと思いがちな日本人。消費できなければ、尊厳を獲得できない日本人。肝心の労働者のミカタのはずの組合だって、「昔ながら」のやり方しか知らないお年寄りが上層部を占めるし、若者にはやさしいとは限らない。

ただ、みかこさんの本を読んでいると、日本らしい階級のなさは、ちょっと救い。住む場所によって決まる保育所では、保護者たちの階層が見えにくいし、絶対的な忌避感もない。断絶ではなく、ゆるく分断されている社会だから、それなりにお互いを垣間見ることもあるし、階層も越えられる。

ラストのホームレスのカトウさんの話はまあ極端としても、それもすごい。楽しい話ばかりじゃないけど、希望のあるまとめで編集された本でよかった。おすすめです。

闘うのが苦手な人には、法律を知って自衛する手もある。私も、他人の悪意と向き合ったり、やり返したりとか苦手。そういうときのために、弁護士さんがいるし、最近はいい本が増えているらしい。ラジオで紹介していた以下の2冊は、私も娘のために読んでみる予定。


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