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勉強はいつだって、どこからだってOK.『北京大学てなもんや留学記』谷崎 光


会社員時代、『てなもんや中国商社』を書いて、OLから文筆家に転職した谷崎さん。その後、『てなもんやOL転職記』などの本を読み、中国留学されたとの噂を聞いて、文筆業のネタに行き詰ったのではないかと勝手に心配していた私だけれど(ファンなので)、この本を読んで杞憂だったことがわかって安心しました。

もとより中国ビジネスの実体験者な谷崎さん。北京大学に留学して、さらに中国の奥深く体当たりでレポートしています。独特のおもしろい文体も健在で、読み応えがないわけがない。共感多々でとても楽しめました。

とくに、中国のトップ北京大学の学生たちを「1を聞いている間に、思考が地球を3周しそうな北京大生」と形容している部分には大いに賛同します。

私が昨年知り合った北京大学の大学院生も、本当にそんな感じ。英語・フランス語・ロシア語が趣味で堪能。独学だそうです。専門は中国古代史。

来日した当初は全くできなかった日本語も、電子辞書を片手になにやらたどたどしくやっていたら、半年後はほぼ問題なく私と日本語で雑談している驚き。なにより、謙虚でやわらかい、その思考力に驚かされました。

当然ながら、指導教授の大のお気に入りで、帰国後には有名大学の研究者のポストが用意されているとのこと。若くて優秀な研究者にちゃんとポストがあるってだけでもすばらしい。

ただ、岩崎さんに言わせると、学生一流、教師二流、管理は三流の北京大学なのだそうで、なぜかというと、超一流の教師はものすごい給料がいい反面、一般教員の給料があまりにも安いからだとか。だから、超絶優秀な人材は、絶対大学の教師になろうとはしないそうです。

ちなみに、管理は三流というのは、教授よりも中国共産党委員の方が偉いからです。中国では、会社にも大学にもちゃんと共産党の組織があって、そちらの人たちの考えが古臭くて、面倒なのだそうです。これは、留学生だけでなく、中国人の学生も困らされているのだとか。

だから、学生たちもちゃんと現実的。興味を持てなくても、就職によさそうだという学科を受験して、できる限り有名な大学に入って、とても効率よく勉強して、優秀な成績で卒業してしまうドライな学生たち。日本とは全く違った意味で、利益と欲望にとても素直な学生たちが多いのだとか。

もちろん、夢に邁進する学生さんもいるはずで、そういう人は留学したり、自力でなんとかがんばったり。ただ、正直に誠実に生活すると、貧乏くじをひきやすいのが中国。そして、この本が書かれた当時、「中国経済」を代表するのは不動産屋と検事たちでした。

現在の習近平政権では、また少しづつ状況が変わっていますが、専門的な正確さはあるけど難しい専門書と、個人的な体験談の2つのほどよい中間にあって、谷崎さんのビジネス経験も生かされている上に、闊達な文章を楽める留学記。最高です。


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