見出し画像

 本心 著:平野啓一郎 文藝春秋

 仮想世界のVRが当たり前になった2040年を舞台に、石川朔也がアバターとして生きて生計を立てている所から話しは始まる。朔也は母子家庭で母の生計にお世話になってマンションで二人住まいだ。母からこんな事を告げられる。「母さんもう十分。自由死にしたいの。」死ぬ直前、あなたの横で息を引き取りたい。最愛の息子の横でと。

 しかし朔也は応じなかった。死ぬなんてと断り続けていた際に、ドローンの配達をカラスが狙って落下した事故に遭い死んでしまう。

 朔也は母が残してくれたお金を母そっくりの仮想世界の人間のVFを作り、母との別れにケジメをつけられなかった朔也がそのVFによって慰められ、新しい事を知り、過去を紐解いていって母の本心を探ろうとする純愛ミステリーだ。いや?これはミステリーなのか?平野啓一郎さんの書く文章は心情の形容詞に富み、朔也一人称の語りで449ページだが、母親しか知らない朔也は自分の父は誰なのかと、母が愛読していた作家の元に辿り着き、真実を聞く事で、生きる事に躊躇いは無くなって行く。そこはミステリーなのだろうが、純文学だと思った。

 章毎にテーマが付され『本心』の所を読むのは捲る手が止まらなかった。

 人はやがて、みんな死ぬ。私は父も母も健在で自由死なる結末には至らないだろうと高を括っているが、自分の死を見つめる機会も多くある。先行き見えない暇の多い生活をしてるが、平野啓一郎さんの難解な文体で心が右に左に折れるこの本を読んで、不思議と穏やかな気持ちにさせられた。

 VR AR VFと聴きなれない最新技術だが、この小説のような未来はもうすぐそこまで来ているようだ。

 俺にもできる新しい仕事としてヘッドセットして散策なんてするようになるんだろうか?

 ローテクでも晴耕雨読な毎日が続きますようにと願うばかりだ。

この記事が参加している募集

今日もコンビニにコーヒーとタバコを買いに行きます。私の唯一の楽みです。奢ってくれた方はフォローしてイイねしてコメント入れさせて頂きます。それくらいのお返ししかできませんが、ご支援して頂けると幸いです。