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[動画紹介]アクティブリコール頼みはNG / Cognitive Load & Bloom's Taxonomy

最近、Justin Sung氏の学習法に関する動画をみている。特に下記の動画は「アクティブリコール Active Recall」と「間隔反復学習 Spaced Repetition」について批判し、それらの限界を指摘するものである(41分40秒)。以下、動画では氏の体験談、我々の記憶の大まかな仕組み、物理的作業であるstudyingと認知的神経的変化であるlearningとの区別、なぜActive RecallやSpaced Repetitionは過大評価 overrated されているのか?などにわたって語られているが、それらを見ていても見ていなくても読めるように本記事は書いておく。

そもそも学習法にあまり馴染みが無い人のために言うと、最近は日本でも「アクティブリコール」という意図的に記憶内容を想起する・テストする機会を増やすという手法がYouTubeで紹介されて再生数を稼いだり、以前から持ち込まれていた間隔反復学習 spaced repetition (いわゆるエビングハウスの忘却曲線に沿って少しずつ間隔を伸ばしながら復習した方が長期記憶に内容が入りやすいという思想)がアプリをつかって簡単に実現できるようになっている。

けれども、このジャスティン・サン氏は自分自身の体験からも学習に関する研究結果からも異議を唱える。なぜならば、アクティブリコールや間隔反復学習は忘却曲線 forgetting curveとひたすら戦う手法のひとつに過ぎず、何もしないよりはマシだが、限界があるからだ。

例えば、それらのリコール=想起や反復のためにフラッシュカードをつくっているうちにフラッシュカードや暗記アプリ(例えばAnkiなど)による復習の量が認知負荷 cognitive load の限界を超えてしまう。認知的な過負荷 over load は逆効果をもたらす。つまり、一定以上の大量の learning が求められても、それらの studying method では処理できないどころか、逆効果をもたらすというのである。例えば、氏自身は毎日20時間x9ヶ月連続で勉強 studying して医学部に入ったが、そこで要求される学習量 quantity to be learned からみて今まで使っていたアクティブリコールや間隔反復学習では1日40時間の勉強が必要だと気がついた。それは不可能である。一方、同級生はそこまで勉強に時間を費やさずとも学習を達成している者もいた。

さて、我々の記憶システムは穴の空いたバケツのようなものだ。なぜならば、我々の脳は感覚器官から侵入してくる大量の情報をすべて処理するわけにはいかないからだ。だから、それらをフィルターする各段階ですぐに忘却しようとする。例えば、感覚器官から短期記憶またはワーキングメモリに情報が入ったとしても、それらが留まっている時間は数秒程度である。また、それらが長期記憶に移された encoding としても、長期記憶も一週間以上も経つと忘却を始める。だから我々の記憶システムは穴が空いたバケツのようなものであり、このような時間経過に伴う忘却を表現したものがあの忘却曲線である。

では忘却を防ぐにはどうすればよいのか? ひとつのやり方は復習することである。上記の「アクティブリコール」や「間隔反復学習」は忘却曲線をなだらかにして、時間当たりの忘却量を少なくしようとする行為である。言い換えれば、これらの手法はひたすら忘却曲線と戦う退屈な作業であり、大量の情報や知識を頭の中、長期記憶のプールに貯蓄しようとするために大量の復習を常におこない続ける必要がある。個人差はあるが、これらの復習作業はいずれ破綻する。なぜならば、復習作業は認知負荷 cognitive load を伴うのだが、この負荷には個人差はあれども限界があり、負荷が一定以上になると記憶の効率が逓減し、さらに限界を超えて復習をしようとすると、過負荷 overload になってかえって忘却量の方が増えてしまう。それは単なる時間のムダである。だから、そもそも穴の空いたバケツに水を入れるのをやめて、バケツの穴を塞ぐような学習手法に転換する必要がある。


ここからは、Sung氏の他の動画からも摂取した内容を付け足しておく。

記憶システムはすぐに水漏れしてしまう穴の空いたバケツのようなものだ。だから、知識をひとつずつ、バラバラなものとして憶えようとしても、前に憶えたひとつを次の一つを憶える間に忘却してしまう。全体を憶えるためには一定のスピードや馴染みのないものは最初はスルーするといった工夫が必要なのだ。一方、仕入れるべき知識や情報というものは本来、縦横無尽につながっていて、必要な観点によっていかようにでも再編成可能なものである。だから、教科書やレクチャで提示された情報のカタマリに対して、それらがどのようにつながり、また別のつながり方はないのかと検討しながら、bloom's taxonomy (理解度の分類)を駆け上ることを目標にしてまずは学習に手を付けていったほうがよい。

このために使える手段はいくつもあるが、Sung氏はMind Mapは有効な手法のひとつとして位置づけているようだ。しかし、もはや有名な手法となったあのMind Mapにしても、こうした背景を自覚して方向づけたかたちで使わないと「自分にはあわなかった」とすぐやめてしまうことになる(深草もやめてしまった)。Sung氏は上記の考えにもとづいて、正しい使い方を学ぶことが必要であるとして効果的なマインドマッピングのための説明動画を大量にアップロードしてくれている。

(2,326字、2024.07.09)

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